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少しでも楽しい思い出を


 どうやら俺の目論見通り、ゴロにマキマキおじさんの加護を付与したら何とかなったみたいだった。


 それでも神を何度も倒している俺の完全な代用とはいかず、天界で裏方に回っている神々に少し無理をさせているそうなのでこの方法はあまり何度も出来るわけではないそうだ。


 そういう事なので最後のトラックに乗り込むまではみんなと協力してアトランティスへ人を送る作業を続けることにした。


 そして時は進み……


「ふぅ。200台あったトラックもついにあと数台か」

「これなら明日には確実に終わるね! いや〜、長かったけど終わりが来るとなるとあっけなかったわね」

「俺たちの故郷がどのように盛り返しているのか実に気になるなぁ。オケアノスよ、教えてくれないか?」

「どうやら初期の混乱期は無事に過ぎ、転生者たちでいくつものグループができて村が乱立しとるみたいじゃ」

「す、すごいな……! 早く見に行きたいものだ」

「最近はアトラスを向こうの調和に集中させているし、なかなか良い世界じゃぞ〜」


 アトランティスは10万人近くの転生者を得て無事に再興を果たせそうで一安心だ。平和だった時代を破壊してしまった身としては、少しでも復興に携わることで罪滅ぼしが出来ただろうし。


 もちろんアトランティスに元々いた奴らを皆殺しにしたのは今でも後悔はしていない。あの世界の住人はあまりにも悪意を表面的にしすぎだったからな。初対面の俺に向かって酷いこと言い過ぎなんだよ。まあこの世界もそうだけどさ……


 それでも……それでも中には教会で出会った姉弟やジャングルの原住民など、第一印象で俺を悪者だと決めつけない人間もわずかにいたけれど。


 しみじみと終わりが近づき過去を振り返っていたら、みんなが不思議そうな顔をして俺を眺めていた。


 そうか、みんなにとってはこの異世界転生が終わったら、ようやく各自の本当にやりたいことをスタートさせる目処が立つんだ。


 終わるのは、俺だけなんだ。


「ねえねえ〜これが終わったら何しよう?」

「ボクさ、そのアトランティスってとこに一度行ってみたいな。でも行くには転生、つまり死なないとダメなのかなぁ」

「そなたらはもう自由に異世界渡航できる身になっておるよ。ここ数千年で最も天界を盛り上げた人間じゃからな」

「そうなのか!? じゃあみんな、一度俺たちの故郷へ行こうじゃないか」

「みゃん〜。アダムたちがどんだけ動物とかを蘇らせたか見てやるミャ。ねえ、おじちゃん」

「……ああ、そうだな」


 そうか、俺たちはもう異世界を自由に行き来できるようになったのか。なんだかどんどん人間離れしていくな。


 しかし出来ることが増えるのはとても素晴らしいことだ。だって今みたいに次にやりたいことがすぐに湧く源になるんだから。


 でもごめんな、俺はきっとアトランティスへは行けない。お前たちとこれ以上楽しく過ごしてしまうと復讐の決心が揺らぎそうなんだ。


 だから決めた。明日、完全にアトランティスへ人を送り終えたら決行する。


 ゴロに加護を付与させたが、結局最後までみんなと過ごしてしまう道を選んでしまった。けれどそれが最後のわがままだ。だから……


「お〜じ〜ちゃ〜ん! 聞いてんのかミャ!?」

「えっ、なんだなんだ」

「ボンヤリしすぎだニャ。明日はお祝いパーティーするって言ってんだミャ!」

「お祝いパーティーか。ずっとトラック乗ってみんな頑張ったし、盛大にやらんとな!」

「そうこなくっちゃ! それじゃ早速パーティーの買い出しをしに行くわよ!」

「もう最後なんだし明日使うトラックで買い出しに行くか。あっちのほうがいっぱい荷物が積めるぞ」

「わっ、いいアイデアね! さすが車好き!」


 幸いにも最後の一台にはほぼ新車状態の極上トラックを温存していたから、そいつなら公道を走るのも全然問題はないだろう。


x x x x x x x x x x x x x x x


 そして夜。残りノルマを100人にまで縮め、明日は昼からパーティー出来るよう色々と手はずを整えた。


 空港跡地のロビーに住んでいるということもありテーブルや椅子には不便しないので、スーパーにやってきた俺たちはとにかく食べ物と飲み物を好きなだけ買った。


「ねえイブ〜、あたしでも飲めるお酒ってどれかな?」

「女の子が好きなのは梅酒だろうな。甘いぞ〜」

「えっ、アトランティスにも梅酒ってあるの?」

「そんなの無いぞ? あのな、私はこっちの世界に来てだいぶ長いんだ。ちょくちょく気になった酒を飲むくらいしてるさ」

「そうだったの!? でも確かに前は鎧着てたのに、今やきゃるる〜んとしたヒラヒラお洋服着てるものね」

「この世界は好奇心をくすぐる服が多いからな……なのに何故アダムたちは同じような服ばかり着るのだろう?」

「イブよ、このジャージという服は実に合理的なんだぞ。なあ!?」


 なあって言われても何とも言えねえよ。ちなみに俺たち男性陣は自力でトラックを整備したりする必要があるので、この空港跡地に来てからはほぼジャージかシャツとジーパンという面白みのない出で立ちをしている。


 対する女性陣は事あるごとに服を買い足しているようで、毎日華やかな姿を俺たちに見せてくれてありがたい。


 ……そう、女性陣というからにはめんどくさがりのアグニャも含まれているのだ。


 アグニャは本来は服など何でもいいというタイプ、というか風呂も入りたがらないし着替えも最小限に抑えたいタイプなのだが、元気になったエシャーティとイブに日夜着せ替え人形の如くおめかししてもらっているのだ。


 ほら、このようにスーパーの陳列棚を眺める今のアグニャはなんと膝まで丈のあるフーディーにニーソックスというとても男ウケしそうな服を着ているぞ!


 ズボンを履かなくていいとエシャーティたちにそそのかされ、こんなハレンチなフーディーを着ちゃってまぁ!


 引き締まった下半身が素晴らしいねぇ!


「うひょひょ、眼福だ」

「みゃんみゃん〜!」

「お、ゴキゲンだなアグニャ。なんかほしいもんがあるのか?」

「みゃ、おじちゃんが久しぶりに笑ってこっちを見てた気がするミャン」

「……おいおい、俺はいつも笑って今を楽しんでるぜ?」

「ホントかみゃ〜。まあ下心があるってことは確かだにゃん」

「うへへ!?」


 明日のパーティーで豪快に食べるであろう巨大なステーキをカゴに入れながら、アグニャは不敵そうなネコらしい表情を覗かせ俺を翻弄した。


 ……こんな表情ももう見れなくなるのか。そうだ、俺がいなくなったときにみんなが不安になるといけないから、せめて手紙を残すとしよう。


 マキマキおじさんにだけは全てを打ち明けるつもりなので、その手紙はマキマキおじさんへ託すか。


 どんな言葉を綴ろうかな。


 今までの思い出?

 最初のうちは敵対しちゃった事に対する謝罪?

 みんなと会えて本当に嬉しかった、なんてクサい言葉?

 どうか俺がいなくなっても悲しむなってお願い?


 もちろん、全部書き綴るに決まっている。さ~て、100枚くらい紙を買うとするかね!



アグニャ「コレ買うにゃ。アレ買うにゃ。ソレ買うにゃ〜」

エシャーティ「そういえばアグニャってネコのクセにコーラは飲むわ野菜は食うわであんまりお魚は買わないよね」

アグニャ「だっておさかにゃはマキマキおじちゃんがいくらでも獲ってくるミャン」

マキおじ「神使いが荒い神獣じゃよ……」

エシャーティ「でもさすがにマキマキおじさんでもイクラとか明太子は獲れないんじゃない?」

マキおじ「ほぅ、それはワシに対する挑戦かな。イクラなぞサケの腹からダイレクトに獲った新鮮プリプリのを持ってこれるわい」

アグニャ「それはスジコだみゃ……」

マキおじ「なぬ!?」


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