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命に釣り合う代償


 俺抜きでも異世界転生をすることができるのか調べるため、この日の転生作業にちょっとした言い訳をつけて参加しないでみることにした。


「いや〜、ちょうどボクがオケアノスさんから加護もらった直後でよかったよ」

「すまんなみんな、どうしても歯が痛くてよ。ちょっと歯医者で診てもらうわ」

「さすがにあたしたちでも医療器具抜きじゃ歯の治療できないからね。まっ、親知らずが痛いならスポッと抜いてきてもらえば〜」

「そうするよ」


 トラックに乗り込んだみんなを見送り、滑走路を爆走し始めてどこかへ消え去ったのを確認した俺は、口実のためにとりあえずは歯医者へ行くことにした。


 もちろん歯など全然痛くない。この頃はストレスも皆無だし、疲れるようなこともあまりしていないので快調そのものである。


 まあせっかく空港跡地から市街地へと向かうのでなにか買い出しでもするとしよう。


「そういえば久々に一人で行動するなぁ」

「どこか寂しかったりする自分が新鮮だ」

「あいつらは俺がいなくなったら、寂しがってくれるだろうか?」

「……」

「あいつらはいいヤツだもんな。きっと悲しむさ」

「そして強くもあるから、すぐに立ち直って俺のいない未来を楽しんでくれる」


 冥護の加護を破るにはどういう代償を払うべきか、俺は未だに決めあぐねていた。


 命だけでは足りないのだ。母親と父親を倒すにはもう一つ、命と同じくらい大切な何かを捧げなければいけない。


 まったくおせっかいな世界だぜ。どうして俺の両親まで無敵化するのだ。そんなおせっかいがなければこの世界へ戻ってきたときに好きなだけドつき回しておしまいだったのに。


 それに冥護がなければゴロの家族も大怪我をすることはなかったはずだ。なぜなら俺が両親へちょっかいを出しに行ったのはあの忌々しい事故の前の出来事だったからな。


「はぁ、何を捧げればいいんだよ」

「命と同じくらい大事なもんなんて、そう思いつかねえよ」

「マキマキおじさんに聞いても、そういうのは人間が自分で考え出すものだと言うし」

「なんかねえかなぁ」


 歯医者の受付を済ませ、ぼんやりとテレビを眺めながらいいアイデアが浮かぶのを待つ。


 ニュースチャンネルがついており高齢者についての特集を流していて、認知症の父と過ごす娘の苦労に満ちた日常を語っている。


 へぇ……介護も辛いけど、父が自分のことを忘れてしまい近所のお姉さんだと思い込んでるのが一番きついんだなァ。


 忘れる、か。


「あ、そうだ。いい事思いついた」


 俺の頭に一つの閃きが走る。そうだ、命と同じくらい大事なものが一つあるじゃねえか。


 命とはすなわち未来の別名でもある。命を捧げるということは、これから起こるであろう全ての幸福を投げうって、これから来るであろう全ての不幸を帳消しにすることだ。


 つまり”命”は未来限定なんだ。


 じゃあ過去については?


 未来と同じくらい大事なものといえば、間違いなく今まで生きてきた中で積み重なってきた思い出だろう。


 そう、そうだよ。思い出なんだよ。過去というのは思い出の事なんだ。


「けれど俺一人の思い出、記憶だけじゃ命に釣り合わない」

「なぜなら俺の命は”俺を中心として別の人間にも影響を与える未来”という解釈をされるだろう」

「なら思い出に関しても”俺を中心とした、別の人間たちの中にある記憶”に影響を与えるモノでないといけない」

「これは言うなればナゾナゾだな……」


 複数人の記憶……そうだな、例えばアグニャ、エシャーティ、アダムとイブたちの記憶にも影響を与えるようなワードが必要だ。


 それはいったいなんだろう。みんなが俺に対して抱いているイメージ……?


 それをひとまとめにできる一言の言葉ってなんだろうか。


 う〜ん、難しい。ここ最近はずっと誰かに相談できる環境だったから一人で考える力がまるで消え去ったみたいだ。


「あの〜、順番きましたよ」

「あ!? すいません、ボケっとしてました」

「チッ……」

「!?」

「ハゲが、早くいけよ。優雅に午前中から歯医者なんか来やがって」

「プー太郎だろ。もう雰囲気が社会不適合者なんよ」

「てか汗だくだけどココまで歩いてきたんかな?」

「今の時間に歯医者来れるのはワシらみたいな金の余ってる年配くらいじゃろうに」

「チャリンコをキッコキコ漕ぐような底辺は場違い」

「ぷくく……あ、お客様、早くいらしてくださいね〜」


 うわ〜〜〜〜〜! みんな聞いたァ!?


 こんな懐かしすぎる展開が来られちゃうと、ちょっとウキウキしちゃってる自分がいるよ!


 そっか〜、最近ずっと大人数でお店に入ったりしてたから忘れてたけど、俺って一人ぼっちだとめちゃくちゃ理不尽に難癖付けられる性分だったわ〜!


 いやしかし腹立つなぁこの暇そうなボケ老人ども。だいたい金が余ってるとか言うんならテメエらの臭え口に銀歯じゃなくてセラミックやジルコニアの入れ歯くらい入れろや。


 あと駐車場に止まってる車の中で俺の乗ってきたスポーツカーが問答無用で一番良い車だからな。あれより車格のいい車はもうスーパーカーじゃないと太刀打ちできんが、こんな足腰がクソザコの老いぼれどもは乗り込むことすらできんだろ。


 まっ、ちょっとだけゴロの威を借りてイキらせてもらうとするか。


「はいはい、ハゲの40でごめんくさいね。さて歯ァ見てもらいますわ。どっこいせ」

「立ち上がる所作がこどおじっぽくてキモい……ん? なんじゃこりゃ」

「おっと、カギとクレカがポッケから落ちちゃったぜ。ジイさん気づいてありがとさん」

「な、な、なんじゃこのカギ! ジスぷれえ(ディスプレイ)が付いとってハイテクじゃあ!」

「このクレジットカードはもしやアメリカ本土のセレブにしかインビテーションが来ない、都市伝説のようなメタルローズカード!?」

「いや〜、”普段使い”するやつだからうっかり扱いが雑になっちゃいますわ」


 ゴロから借りている車のキーと、ゴロから借りているエシャーティから又借りしているメタルローズのすんごいクレジットカードを回収し、肩で風を切りながら治療室へと歩いていく。


 背後ではボケた老人どもがさっきまで年甲斐もなくベラベラと喋っていたのに、うんともすんとも言わなくなっていた。


 おや、よく見ると腕にはどこかで見かけたような腕時計をしているジジイもいるぞ。あれは……バチャロン・コーンスターチ!?


 ははーん、見るからに無理して買った高級品を一個だけ身につけてイキってるタイプだな。うんうん、わかるわかる。じゃ|もっとすっげえ物みせて居場所なくしてあげるね《日本式エリミネーション》。


「お〜っと、スマホも落としちゃう〜んだ!」

「……!?」

「あ、ちょうど第52話でエシャーティの部屋に飾ってたバチャロン・コーンスターチの創業300周年記念の壁掛け時計をアグニャと一緒に持ってる俺の写真が!」

「こっここっこれれれれれれれ!? あのののののおバターン!」

「コーンスター爺!? おい、しっかりするんじゃ!」

「ピクピク」

「ダメじゃ、あまりの悔しさで銀歯を噛み砕くわアゴを粉砕しとるわで大惨事……!」


 おいおいジジィのクセに強靭なアゴ筋じゃねえか。


 まあでも? 一応は? バチャロン・コーンスターチ付けてるし? 


 ちょ〜〜〜〜っぴり、悪いことしちゃいましたかねー!!!!!!!!


 ハーッハッハッハッハッハ! そんじゃお先に歯ァいじくってもらってきますわ!


「あれ、なんも悪くないですね。なんで来たんです?」

「ですよねー。帰ります」

「はい。あと出禁です」

「……ですよねー」


 ……ですよね〜。






いかあとがき



 一方その頃……


アグニャ「ぷるぷるぷるぷる!」

エシャーティ「あ、アグニャがおしっこしたそう! 一旦止まりましょう!」

アダム「なにっ、こんな山の頂きでか!? トイレなんてどこにもないぞ!」

アグニャ「ぷるぷる……」

エシャーティ「アグニャは見せたがりの開けっ広げな女の子だからいいのよ! 早く止まって!」

アダム「そ、そうか。キキッ」

アグニャ「ふみゃぁぁぁぁぁぁん!」

イブ「た、たいへんだー! アグニャがその、下着を脱いで私にお尻を突き出してる!」

エシャーティ「やばいわっ! イブ、今すぐ外に出してあげて!」

イブ「任せろ!」

ゴロ「ああ、トイレのついでにひかれた少年が憐れ……」


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