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決心


 いよいよ決心がついた。生まれてからずっと俺に不条理な世界を突きつけてきた両親へ復讐を果たす決心だ。


 きっと俺がやろうとしている事は、せっかく俺と仲良くなってくれたみんなを裏切るような行動だと思う。


 けれど……けれど良い方法を思いついたのだ。


 なあ、マキマキおじさん。


 今から話す計画、あんたはどう思うかい?


「こうして夜に二人で話をするのは久しぶりじゃのう」

「そうだな。色々とすべき事があったからね」

「ワシは両親への復讐なんかもう諦めてくれたのかと思ってたんじゃが」

「そうできたら一番いいんだがな。けどどうしてもやりきりたいんだ」

「……まだまだアトランティスへは人を送らねばならないぞ?」

「それについてなんだが」


 ずっと俺は自分の中に抱いていた違和感を打ち明ける。それは何かと言われると、どうしてこんな俺にマキマキおじさんとの縁があったのか、である。


 だってどう考えても他の神の加護や縁を授かったピュアピュア人類たちと比べて、俺は邪気にまみれて自己中な人間だから場違いな存在だろ。


 かなり前から俺はマキマキおじさんは親近感こそあれど、縁やら加護やらを結んでいるような関係は違うなぁと思ってたんだよ。


 だから出来るかどうかはさておき、一つ提案をしてみたのだ。


「マキマキおじさんはさ、俺と縁があるわけだろ」

「そうじゃよ。ちなみにそなたが死ぬまで誰かに移したりとかできんからな」

「ギクッ……そ、そんな悲しい提案しないって」

「ほんとかの〜?」

「あ! そうだ! 加護を授かってる人間はいないんだろ?」

「今はフリーじゃな」

「ゴロに加護を授けてくれないか。あいつのことはよく知ってるだろ。どんなヤツより加護を受けるに相応しい人間だ」

「別にいいんじゃけど急にそんなことを言い出すなんて何を企んでおるのだ」


 よし、ゴロに加護を授けてくれるのが分かったなら、もう隠す必要もないな。


 マキマキおじさんには最後の最後まで世話になりっぱなしで結局お礼ができそうにないが、ここまで来たら俺の終わりまで一緒に来てもらうぜ。


 さて、一度アトランティスへこの世界の人間を転生させる条件をもう一度思い出してほしい。


 何人もの神と、何人もの神殺しと、神獣とが揃っていないとアトランティスを指定して転生させる事は出来なかったのを以前マキマキおじさんから聞いたはずだ。


「俺が抜けたとすると神殺しはエシャーティ一人になるだろ? アダムとイブはエリミネーション使えなかったから神と戦える土俵に立ってなかったし」

「そうじゃな。そのエシャーティもそなたとの協力でダブルエリミネーションを放った際のワシ、アトラス、母ちゃんの三キルだけじゃ」

「あのさ……神殺し枠を加護と縁に恵まれたやつら数人で代用とかできたりしない?」

「なるほど。加護を得た人間は神に攻撃出来るようになってるし、理屈はイケるはずじゃ。けど結局人数が減っとるから、そなたの代わりの縁か加護を授かっとる人間を探さねばいけないぞ」

「それがゴロなんだよ」

「あっ、なるほどー!」


 マキマキおじさんの加護を手にしたゴロを俺の代わりに入れたら、俺がいなくなってもアトランティスへと人を転生させ続けることができる。


 一応それで出来るのかテストはしてみないといけないが、マキマキおじさんの反応からしてできるはずだ。


 そうなればもう俺は必要ないメンバーだ。ようやく復讐へ専念できる身になるわけだ。


 ……そうだよ、こんな冷めた心を持ってんのが俺なんだよ。こんなにも恵まれた友人たちに囲まれながら、それを捨てて自分のやりたいことをする自己中心的な男なんだよ。


 けどさ、ゴロが奥さんと息子をひかれた時の焦燥と悲しみと不安に満ちた顔がどうしても頭から離れないんだ。


 その表情を引き出したのが誰でもない俺の親父だって言うのがどうしても許せないんだ。


 だから俺はゴロへのケジメとして、全てを賭して冥護の加護を打ち破ってみせる。


 たとえみんなが俺を忘れようとも……


x x x x x x x x x x x x x x x


 翌朝。俺の目的は伏せつつゴロへマキマキおじさんの加護を付与する旨を話したら大喜びで乗ってきた。


「うわーい! ずっと平凡な車好きの医者だったボクも、遂に何だかカッコいい存在へと昇華できるよ!」

「よかったわね〜。マキマキおじさんも人が悪いわね、どうして今まで加護あげなかったのよ」

「い、い、いやぁ、なんちゅうかその、ゴロも人をひきまくっとるうちにレベルアップしたようで、それが恐らく関係するのじゃ!」

「へぇ〜、何でもやってみるもんね」

「すまねえマキマキおじさん、ナイスアドリブ」

「いいのじゃ……それじゃゴロよ、早速やるか!?」

「お願いするよ! ひゃ〜、楽しみだなぁ!」

「クァァァァァァァァ!」

「おわっ、きったな! ちょ、みんな助けてー!」

「我慢するんだゴロ。それが洗礼だ……」


 マキマキおじさんの口から噴射されるいつもの汚水にまみれ、ゴロは早くも後悔したような表情を浮かべている。それを見たアダムたちはうんうんと頷きながら各々の加護や縁を授かった時の感想を振り返っていた。


 そういえばみんなはどういう感じで神から加護やらをもらったのだろう。ていうか俺、マキマキおじさんと縁を結んだ覚えがないんだけど。


「ふふっ、思い出すなアダム。かつてアトランティスで二手に分かれエリミネーターの脅威を世界へ伝えるべく奔走してた私達が、偶然にも出会っちゃったあの日を……」

「よせ! あの時の俺は……ちょっと今とキャラが違うんだ!」

「そういえばアダムはアトランティスで会ったときの小物感が日に日に薄くなっていくわよね。何か関係が!?」

「ふふふふっ、あのな、実はな、私が酒場で」

「やめてくれー! 頼む、頼むよイブ、後生だ! あ、読者のみなさんは俺とイブがどういう出会いを果たしたのか第12話のおまけの後書きで見てると思うが、絶対に読み直したりしないでほしい!」


 やめろアダム! そういうセリフは俺の専売特許だ! しかしどんな出会いを果たしたのかますます気になるじゃないか。


 精悍な男時代のアダムはそれはもうイキリマッチョだったからなぁ。もしかしたらイブに惚れちゃって声を掛けたとかだろうか……いや、アダムがそんなナンパなことしないわな。


「あの日の夜、二人で酔い醒ましにセントラル・マウンテンの近くをぶらついてたら石化してたアトラスさまを発見し、祈りを捧げてたら石化が解けて加護と縁を授かったんだよな」

「アトラス様の長〜い話を聞いてたらいつの間にか付与されてたんだよな。いやぁ懐かしい」

「へぇ〜、ガイアとはまた違う方法だったのね」

「おっ、エシャーティはどういう感じで授かったんだ?」

「あ、聞きたい聞きたい!? あたしはね〜!」


 膝の上で抱えていたネコアグニャをニワカに揉みしだき、ニャアというふてぶてしい抗議の声をガン無視しながらエシャーティは語り始める。強い。ペースを握っている。


「あれは転生した直後だったわ。草原をさまよってたあたしにガイアが声を掛けてくれてね。近くの村まで連れて行ってもらったのよ」

「お! それってもしかして俺の住んでた街ではないか!?」

「そうなのかな。東へ行くとすぐセントラル・マウンテンがあった小さな村だったけど」

「なんだ、俺の街はもう少し西側だから違う村だな」

「ところであたしさ、転生した直後は全く体を動かせなかったの。歩いたこともないし、立ったことも座った事もなかったからさ」

「クァァァァァァァァァァァァァ」

「お、おえー! まだ続くの!?」

「ちょっと、今いいとこなんだから静かにしてよ〜!」


 そういえば以前エシャーティは近くにいた天使を力加減が分からずうっかり握り潰してしまったと言っていたな。


 でもそれも仕方あるまい。だって生前のエシャーティは本当に病室で横になっているしか自由がない女の子だったんだろうから、体を動かす感覚が全くわかんなくてもしょうがない。


 もしかしてそれを見かねたガイアが何か手助けをしてくれたのだろうか?


「で、草原で立つことも出来ずもがいてたら地面に埋まってたガイアを踏んじゃってたみたいでね。それがあたしたちの出会い」

「そういえばあのムチムチおばさんは地面に埋まりがちだったな」

「最初はガイアは怒ってたんだけど事情を話したら同情してくれて、縁と加護をくれて最低限の体の動かし方を教えてくれたの」

「なにっ、エシャーティは一人で両方授かってたのか!?」

「なんかそうまでしないと人間の体に直接干渉できないからって。体を動かせるようにするのも一苦労ってわけね〜」


 あ〜、だからこっちの世界で病気が完治した直後に割りと体を動かすことができたのか。


 結構良いやつじゃんガイア。今回アトランティスへ人を転生させるのにも天界で大きく協力してくれてるそうだし、何回も倒してしまい申し訳ない。


「でも不思議なのよね〜。いつでも呼んでってガイアは言ってくれたから、次の日に一人でセントラル・マウンテン越えるの寂しいから大声で呼んだのに、出てきてくれなかったのよ?」

「……あ、それは転生してきた俺たちがガイアを倒しちゃったからリスポーン期間だったのかもしれない」

「えー!? ちょっと~、そのせいであたし、神は呼んでも来てくれないって思い込んじゃってずっとガイア呼ばずに旅してたのよ!?」

「す、すまん。でもガイアもアグニャに突っかかってきてさ……」


 ワイワイとみんなの話を聞いているとすぐに時間が経つ。


 やがてマキマキおじさんから無事に加護を授かったゴロがいつもと大して様子が変わらないのに少しガッカリした様子で話の輪に入ってきた。


 賑やかな朝に俺は何とも言えない寂しさを感じながら、そろそろ朝飯を食うとするかァと呟くのであった。



 前のページの後日談


ゴロ嫁「すごいわね〜! ホントに頼んだ以上の車になってる!」

おじ「はっはっは、ホントにすごいですよコレ。奥さんもいい趣味してますわ」

ゴロ息子「ねえおじさん、ビーム見せてよビーム!」

おじ「おー、そうだったなァ! すまんゴロ、納車したばかりだけどバンパーちょっと取っていい?」

ゴロ「もちろんさ! 息子よ〜車はいいぞ車は〜! いっぱいこの人から教えてもらうんだよ!」

おじ「ゴロの方が知識あるだろ……よっと。ほら、これがビームだ!」

ゴロ息子「え……ただのフレーム?」

おじ「そうだ。車でビームというのはライトと補強フレームのことを言うのさ」

ゴロ息子「ふーん」

ゴロ「むひょひょ、どう見ても大袈裟なバンパービームかっこいいねぇ!」


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