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意外な才能


「まずはサイドブレーキをおろして」

「は〜い、先生!」

「次にシフトレバーを下に動かす。ブレーキはまだ踏んだままだぞ」

「んしょっ、んしょっ……固いわよ?」

「どれ、手を貸してやろう」

「あっ……ふふ、なんだかやっと好きな人同士でやりそうなこと、できた」

「なななななんだよ! て、照れるじゃねえか!」


 頑張ってシフトレバーを動かすエシャーティを見兼ね、俺は手を重ねて一緒に引いてあげただけなんだけどね。


 ちなみに動かなかったのは横の誤作動防止のボタンを押してなかったからPから動かないだけだった。むろん今乗っているのはオートマトラックである。


 まあ実を言うと俺も最近はミニバンやら最新スポーツカーやらでオートマばっか乗ってたけど、どれも誤作動防止のボタンなんて廃止したスタイリッシュなシフトレバーだったから、そこを押すように説明するのを忘れていただけだったりするが。


 ともかく無事に人生初のドライブ・ギアへ入れられたエシャーティは、次はどうするのか指示を待っている。さっき教えたでしょ。


「ね! もうブレーキ離すよ!」

「オッケー。なるべくゆっくりめに離してみろ」

「わかった! そ~っと……」

「ゴモモモモ」

「なかなかやるミャ。コンフォートにゃん〜」

「あのエシャーティが運転を……うっ、なんかボク、泣きそう」

「なーにビビってんのよ。ぶつけても大丈夫な車なんでしょ!?」

「いや、そういう意味じゃなくてね」


 ゴロが感動するのも無理はない。エシャーティが小さい頃からずっとそばにいて体が弱いのを間近で見続けてきた男だもんな。


 もしかしたら運転なんて一生できないかもしれなかったこの小さな女が、今こうして楽しそうにハンドルをくるくる回して大きなトラックを走らせている。


 それに自分の趣味にエシャーティが入り込んでくれる気持ちは、俺ですら一際嬉しいのに……


 もうゴロは泣いてもいいよ。誰も文句は言わないよ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉん! エシャーティ、すごいよ! 感動するよ! それはそうとブレーキ踏みながらアクセル踏むのはやめたほうがいいよ!」

「えっ!? あ、ホントだ! ヤケに遅いと思ったら両足でペダル踏んじゃってた!」

「あぁ、力加減がわからんエシャーティがめっちゃ上手く発進させたと思ったらそういうことだったか……」

「ほぅ、多少変な扱いをしてもトラックは動かせるのだな。エシャーティが動かせているし、私も乗れそうな気がしてきたぞ!」

「その意気だイブ! 車は楽しいから後で運転しような!」


 さて、ブレーキを言いつけ通りに再びゆっくりと離したエシャーティはグングンとトラックを加速させていく。


 ワープの必要速度に達したとマキマキおじさんが判断したのか、練習を行っていた滑走路から一転し学校の通学路と思われる空間に出た。


 目の前には男子高校生のグループが! しかしエシャーティ、とっさの事態に身が強張ったのかさらに加速ゥゥゥー!


 無慈悲な巨大トラックは計5名の男子高校生をアトランティスへ送ったァァァー!


「きゃー! 遂にやっちゃった! お医者さん失格になるかもー!?」

「大丈夫だ、異世界転生したってことはあんま楽しい思い出とか無かったんだろう」

「そうだね〜最近はクラスまるごと転生とかもあるし、団体さんを一斉に跳ねればさらに短期間でノルマクリアできるね」

「おお、元々こっちの世界で仲良くしてたグループが来てくれるのは嬉しいぞ。そういう者たちが街を作り繁栄の礎となるからな」

「あっ、今度はセーラー服を着たおじさん達をひいちゃった!」

「すまん、そういうのはいらない」


 おいおい、セーラー服って本来は男性用の軍服だったんだぞ。まあ今ひいたおっさんはモロ女の子用のスカート履いてたから変態なんだろうけど。


 しかしエシャーティは動作一つ一つは急な動きであるが、狭い通学路へ最初にワープしたのに脇の電柱や住宅をうまいこと避けたからセンスあるかもしれない。


 ゆっくりだとそんなの避けられて当然だが、エシャーティはさっきからずっとアクセルベタ踏みしてて時速100キロを超えてるのだ。それで狭い路地に連続で飛ばされてるのにぶつけてないのはなかなかすごいことだぞ。


「うーん、エシャーティって結構上手いな。俺だとぶつけちゃいそうなトコいくつかあったわ」

「ホント〜? ミラーとか見れば普通に避けれるよ?」

「世の中にはミラーを見れない運転者も多いんだよ。ほら、今も飛び出してきたイヌは紙一重で避けて人間だけ跳ねた」

「あんなの余裕よ〜。ねえ、あたし上手い? ねえねえ!」

「めっちゃ上手い。あとは同乗者に気を使えれば完璧」

「ミャ……ゆっさゆっさ揺れて気持ち悪いミャ……」


 まあこの操作の大雑把さは恐らく筋力が非常に少ないことが原因だろうから、一般的な体力がついたらほんとに言うことなしのドライバーになれるな。


 ふとエシャーティの横顔を見てみると活き活きとした喜びに満ち溢れた、とてもかわいらしい少女の顔をしていた。


 運転はそこまで興味ないと言っていたが、それでも大きな車を動かしている非日常感と、初めてエンジンのついた乗り物を動かす達成感に思わず笑みが浮かんでいるようだ。


 いつ、どんな時でもこのエシャーティという女は美しく、そして全力で今やってる事を楽しもうとする必死さがかわいらしいのだ。


「えいえいっ! あはは、ペシペシ!」

「ピッピィィィィィィィ!!」

「はわぁっ!? なんかおっきい音が出た!」

「はっはっは、それクラクション。ハンドルを押すと鳴るんだよ」

「みゃん。ビビってたみゃ! チビッたみゃ?」

「ちょっとビックリしただけよ! こ、今度はビビらないんだから……ポシポシ」

「シーン」

「あれ!? 鳴らないよ!」

「押す力が弱いんだよ。ちなみにチョップの要領で叩くと、いい具合にサンキュークラクションができる。べチッ」

「ピッ」

「へぇ〜今度からボクも真似してみよ」



アグニャ「うみゃ〜、トラックはイスにしっぽを逃がす穴が無いから嫌だミャ」

アダム「そういえば今までミニバンなどに乗ってた時はどこにしまっていたのだ?」

アグニャ「ミニバンの3列目には良い具合にしっぽを通せるミゾがあったミャ!」

イブ「あ〜、なんかイスを分割して跳ね上げる時の分割点か。確かにあれはしっぽを通すのにちょうどいいな」

アグニャ「ふみゃ〜。落ち着かないにゃあ。ベシベシ」

アダム「や、やめろ、毛が散って鼻がムズムズする!」


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