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異世界転生の裏側


 俺から呼ばれたので気合を入れてハリケーンを纏いながら参上したマキマキおじさんはあまりの強風に周りが見えなかったそうで、とりあえず俺のいる方へと向かったら巻き込んでしまったらしい。


 まあでも巻き込んだおかげで俺たちの存在に気づき無事に再会を果たせた。


「ほっほっほ、昨日はすまんかったのぅ」

「いいんだ。マキマキおじさんがいなけりゃ風呂に入れなかったし」

「ボクも新鮮な体験が出来て楽しかったよ。ハリケーンに巻き込まれるなんてなかなか出来ないからね」

「さて、それじゃいよいよトラックに乗って異世界転生といくか!」

「みゃん〜。遂にえいみみゃーみょんフェスティバルが開催されるのかミャ!」


 滑走路に数十台ほどトラックを並べ、俺たちは端っこにあったトラックへ乗り込む。最初に選んだトラックはやはりアダムたちにも縁のある”あのトラック”だ。


 マキマキおじさんは荷台に乗って天界のやつらと連絡を取り合うそうなので、俺たちはマキマキおじさんが荷台でジャンプして合図するのを待った。


「エリミネーターよ、このトラックはマニュアルという機種なのだろう。いつも乗っているのと何が違うのだ」

「やっぱ興味があるか。俺の隣からでも足元の動きは分かるか?」

「もちろんだ、俺は目がいいからな」

「お前なら適当に動きを見て気になった事を俺に聞いてくれればすぐに理解できるはずだ」

「みゃっ、マキマキおじちゃんが暴れてるみゃ! 発進するミャ〜」

「オッケー! それじゃいくぜ、セコ発進!」

「グモモッ……ボゴボゴボゴ」


 右足を重力に委ね、使い込まれてすり減ったシフトレバーのミゾを思いっきり前へ押し入れると、車内のみんながどこか不安になるくらい巨大なエンジン音と振動を放ちながらモッタリと発進した。


 いつものスポーツカーとは違うベクトルの騒音に女性陣はうんざりしているご様子。逆にゴロとアダムはうきうきしながら俺のシフトさばきを見ていた。


「ホォー! これをちょくちょく動かすのだな!」

「アダムくん、あれめっちゃ楽しいんだよ。早く動かしたいねぇ」

「だろうな、だろうな! しかしエリミネーターよ、いつになくゆっくり走るじゃないか。やっぱそのガコンガコンするやつは難しいのか?」

「いや、トラックっていうのは遅いもんなんだよ……って、なんだなんだ!?」

「ちょっとー! 景色が急に住宅地になったわよ!」

「ミ゛ャッ! おじちゃん前! あぶにゃーい!」

「あ、あ、あぁァァァ!! リターダオン! リターダオン! リターダ……オンンンンンン!!!!!!!」

「ぶつかるよ!?」


 やべえぇぇぇぇぇ! よそ見してたら人がいた! クソっ、なんだってこんな滑走路に人が……


 って、バカか! 俺たちは人をひきに来たんだぞ!


 しかし空荷も同然で強力なブレーキ補助装置類を作動させたトラックはビッタァァァァンと跳ねる直前で停止し、うずくまった転生予定だったであろう女の子を見下す形になってしまった。


「あ、ひいてよかったんだったミャ」

「でもさ、やっぱこの方法は心臓に悪いわよ……」

「すまんみんな。俺としたことがドライバーとしての本能で停まっちゃって……」

「い、いや、誰もキミを責めないよ。ホントに人を殺めるって段になるとドキドキしたもん」

「おい、オケアノスが後ろで怒っているぞ。思いっきり頭をぶつけて血が出ているが……」

「マキマキおじさんなら大丈夫だろ。まあいいや、この女の子の前にワープしたってことはひいていいんだよな……?」

「う、うむ……」


 納車整備を終えて不必要なほど透明なフロントガラスを覗き込むと、女子高生と思われる子が腰を抜かしたのかうずくまったまま。


 ……よく見ると手首にミミズ腫れのようなものがいくつもあり自傷癖がある様子だった。


 もしかしたら学校でいじめられているのかのしれない。以前の俺のようにこの不条理な世界に別れを告げたいのかもしれない。


 そう自分に言い聞かせ、俺はシフトレバーを左下へと潜り込ませた。


「ゴモモモモモッッッッ! ブルルン」

「おぉっ!? 急発進!?」

「ちょっ……ひくって! あんた躊躇とかないの!?」

「すまんエシャーティ! けどあの子は異世界転生したがってるはずなんだ! じゃあやるしかねえだろ!」

「みゃ……こわいみゃ……」


 ……ゴォォォォォォンッ!


「い、い、今の音……」

「フロントガラスに血が……」

「おい! エリミネーターを責めるな! 見ろ後ろを、血痕はあるが死体はないぞ!」

「みゃん! マキマキおじちゃんがグッジョブしてるニャ!」

「ということは成功か。ふぃ〜、よかったわマジで」

「心臓に悪いね……キミは本当に強い男だよ。ボクたちがトップバッターならきっとやりきれずにいたもん」


 ギアを3速へ上げてスピードを出すと再び景色が代わり、今度はコンビニの前に出た。どこか生気を失い疲れ切った様子のスーツの男は、一本のタバコを吸いながらフラフラと道路を渡ろうとしている最中だった。


 ……ズドドォォォォォォォォン!!!!!!


 巡航速度で急に何トンもあるトラックに跳ね飛ばされた男は、まるで昇天するかのように消えてしまいアトランティスへ転生したのを予感させた。


 人をひいたことは一度も無かったのだが、跳ね飛ばすとすごい音が車内に響き渡るのだな。


「にゃん〜、今度は交差点だミャ!」

「なあエシャーティ、あのデカいカニはどういう原理で動いているのだ!?」

「へぇ〜! 遥か遠くの関西に来たのね! 次はカーナビがついてるトラック乗るとおもしろいかも!」

「なあ医者よ、マニュアルの乗り方を教えてくれないか」

「もちろんさ! あのね、まずは……」


 って、みんな慣れるのが早すぎるよ!


 なんだよ、カニの看板って! それよりスゴいことが目の前で起こってるよ!


 あ、ほら、今度はおっさんをひいちゃった。かわいそうなことにプラモデルを買った直後のようだ。けどプラモデルごと消えたということはアトランティスへ一緒に飛んでったのだろうか。あっちで楽しく組み立ててくれよ。ニッパーも買ってなかったら地獄だろうけど。


 しかし50人も跳ね飛ばしたらフロントガラスは血まみれでどんなヤツをひいてるのかすらわからなくなってしまった。いよいよ衝突音にも慣れてきたし、人ってとんでもない生き物なんだなと痛感する。


 それにやってることはただまっすぐ走っているだけなので、後ろに座っていた女性陣たちはゆっさゆさ揺さぶられながら眠ってしまった。


「えーっと、今ので何人目だ?」

「あ、だいたい100人目」

「1時間で100人か。なかなかの高効率だな!」

「一日10時間やってたら100日でノルマクリアか」

「スピード上げたら次の地点へワープするのも早くなるし、実際はもっと短い期間でいけそうだな」

「500人ひく頃にはガソリンも車体も終わってるだろうし、一日に2台を潰す感じか〜。お金かかるねぇ」

「申し訳ない……」

「あ、アダムくんが自分で稼いだお金だから気にしないでよ!」


 実際に乗ってみると案外10万人を引くのは3ヶ月もあれば十分というのが分かり拍子抜けした。


 まあマキマキおじさんたちを始めとする神々のワープあってのスピードだけど。


 しかしこんな楽な作業だとクルーズコントロールが欲しくなってくるわ。それに半分はオートマで買っといてよかった。マニュアルでも別に問題ないけど、オートマならもっと楽だもんね。


 さて、残り4時間頑張るとするか。ったく、ダブルキャブなんだから軽バンみたいに前の席くらいリクライニングできりゃいいのに。寝そべって運転したいよ。



エシャーティ「ヒマ! ヒマヒマ〜!」

アグニャ「大人しくするミャ。まだ走り出して2時間だミャ」

イブ「しかし景色を楽しもうにもワープばかりで断続的すぎてなぁ……」

エシャーティ「そうだ! ねえアグニャ、ネコになってよ〜」

イブ「そういえばネコのアグニャを触ったことないな。気になるぞ!」

アグニャ「仕方ないみゃあ。ぽん!」

エシャーティ「きゃ〜! でっか! かわいい!」

イブ「なんだこのネコ!? おい見ろアダム、この世界のネコはすごくデカいぞ!」

アダム「そういえば人間のときに着ていた服はどこへいったのだ?」

エシャーティ「!!」

イブ「ふっふっふ……ロマンだ!」

アグニャ(ロマン……だったのかミャ!?)


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