ガソリン満タンで納車お願いします
ゴロと俺は近場の中古トラック販売業者を片っ端から当たり、動きさえすればいいからダブルキャブのトラックをバックヤードから出してもらうよう頼み込んでおいた。
そして在庫の移動が終わったと連絡を受け、遂にみんなでトラックを見に行く事になったのである。これから数日間に渡り何店舗も回るのだ。
「いらっしゃいませ! ダブルキャブをお求めの会社さんですよね?」
「そうそう、突然在庫の移動を頼み込んでごめんなさいね。早速みんなで見たいんですけど」
「はいはいご用意しておりますよ! あちらの方へどうぞ!」
「みゃん〜、ホントにデカピッピーがズラッと並んでるミャ!」
「壮観だ! おいエリミネーター、あんなの動かしたら絶対に……数十人くらいひいてしまうぞ!?」
「いいじゃねえか、そのために買うんだから」
「ちょっとあんたたち、店員さんの前で物騒な事は言わないのよ……」
大型トラックに乗っていた事もあるにはあるが、トラックターミナルよりもさらに高密度に密集したトラックが何十台と並ぶのは思わず圧倒されてしまう。
店員に案内されて少し歩くと、今度はダブルキャブの車両がズラリと並んだゾーンへ入った。俺たちのためだけにこんなに用意してくれて本当にありがたい事である。
こちらの注文通りまだまだキレイな車両からライトが外れてしまったようなトラックまで多種多様に揃っている。
初めてトラックを目の当たりにした面々は恐る恐るといった様子で近づいてなんだか愉快な絵面だ。
「どうですお嬢さん、後ろは4人座れますよ」
「へぇ〜、ホントにベンチみたいな感じなんだね。しっかし大きいわねぇ。乗るのに一苦労しそう」
「ピラーに付いてます手すりを使っても、まあ乗りにくいのはどうしようも……」
「エシャーティは考えがあみゃいんだミャ! 乗り降りなんてジャンプで十分だミャ! ぴょいーん」
「わっ、すごい! スポッと入り込んだ!」
「背もたれが直角で猫背が矯正されるミャ……」
実は俺もダブルキャブは初めて乗るが、後ろの座席は護送車なのかってくらい簡素でちょっと心配になるな。そこに本当に人間を4人も乗せていいのだろうか。横幅はほぼ2メーターあるのでゆとりこそあるが……
反対側から俺も後ろの座席に乗ってみる。向こう側のドア横でちょこんと座るアグニャに手が届かないほどの広大な空間で、動いていなければ意外とまともだ。
というか、動いていてもエンジンやタイヤの真上にシートが位置する前の席より衝撃自体は少なくて想像よりも快適かもしれないな。いい感じに前の席の背もたれ部分に掴まれと言わんばかりの手すりもあるし。
しげしげとダブルキャブについて思いを馳せていたら、急にドアが開いて金髪の小さな美少女が俺を見上げてきた。うわ〜、かわいいなぁ、ジッと見つめてどうしたんだろう?
「……」
「どうしたの、エシャーティ」
「の、乗れないの! 引っ張って!」
「ああ……まあ無理もない。無理もないよ。ほら」
「きゃー!? ちょっと、お腹掴んでなんなのよ!?」
「ほら、頭下げないとぶつけるぜ」
「分かった……うう、これじゃ子供じゃない」
めちゃくちゃ軽いエシャーティを持ち上げて車内へ入れてあげた。少し不服そうな顔をしていたがすぐに質素な造りの居住空間に興味を持ち始めて色んなところを触り始めた。
ゴロの車とは対局に位置するトラックだが、この何もない空間が逆に面白いようだ。
アグニャもエシャーティもドアに付いているクルクルを回し窓を開け閉めしたり、鉄板が剥き出しのボディや腰にだけつけるシートベルトに興味津々ご様子。
「車ってほんと色々あるのね。なんかあなたやゴロが好きなのもちょっぴり分かったわ」
「そうだろう!? なあ、運転してみたくないか!? 運転したいよな!?」
「運転してみたいけどそんな食い気味には……」
「みゃん〜、ピッピーにゃんて何でもいいニャ」
「はっはっは、まあ何十台も乗ることになるからその内トラックが好きになるさ」
そう、これから何十台も買い、そして乗らなければならないのだ。しかも全員が一台に乗らないといけないからみんなで協力しないといけない。
まあともかく数が必要なのでこのトラックはとりあえずお買い上げだな。心配だった後部座席はキレイだったし、運転席周りも使用感こそ大きいがどうせ乗り潰すから気にしなければいい。
前の席へ移りふとシフトレバーを見ると左上にリバースが位置し、その下に1速という懐かしい配置が目に入った。
そうそう! このポジション! 走りの5速って感じがしてたまんねえな〜!
ニュートラルの定位置の上に2速があるのはトラック的には理に適った配置だしな。1速は過積載時の舗装されてない土の道などでしか使わないから、実際はリバース+4速ギアな使用感なんだよね。いや〜、いいよいいよ。これがしっくりキますわ。
「おーいゴロ、これ買おうぜ!」
「お、6台目が決まったね。店員さん、次行こっか!」
「うひょひょ〜! ホントにバンバン買ってくれますね〜! ダブルキャブの在庫が全部ハケそうだァ〜!」
「す、すげえ、俺たちがのんびり見てる間にあっちのグループはバンバン買ってんな」
「ねえ、これっていくらぐらいするの?」
「大体200万だな」
「200万……って、聞いといてなんだけど高いのか分からないわね!」
「安いよ。トラックとしたらかなり安い」
まあ実際はオドメーターが30万キロを超えてたりしてて何とも言えないが、キレイな割りにはだいぶ安いと思う。これの新車だと500万は下らないだろうし。
まあこの後かなり頑丈に改造するからどのくらい値段が跳ね上がるかは分からんけどな。
さてさてこの車両は売約したし他のを見に行くとしますかね。
トラックなんて全部同じだろうと思われるかもしれないが、意外と細かな差があって違いを楽しめるんだよ。
例えばこっちのダブルキャブには珍しくリアエアコン吹き出し口が付いていて、しかも風量の調節レバーまで備えていて快適性がダンチだ。のクセにヘッドレストが無かったり、手すりの類が少なかったりとチグハグだが。
「おお〜!? 見てアダム、このいかにも引っ張ってくださいと言わんばかりのレバーはなんだろうな!? ガッコガッコ!」
「お客様〜!? PTOレバーをクラッチも切らず、というかエンジン掛けてない状態で動かさないで!」
「あーごめんごめん! 買い取るから許して! えー500万か。まあいい具合に架装してて補強要らずだね! いい買い物したー!」
「ほ、ほ、本気ですか!? こんなダンプを病院のどこでお使いになられるので!?」
「それはあんまり気にしないでいい」
ヒュー……無知とは怖いもんだぜ。知らない人も多いと思うのでPTOレバーについて説明すると、ダンプカーやゴミ収集車、あとミキサー車みたいに荷台に強力な動力を必要とする装置にエンジンからパワーを供給するかどうかを切り替えるレバーの事だ。
数トンもの砂利なんかを詰めたダンプをバッテリーで動かすと一瞬でバッテリー上がるし、そもそもパワーが全然足りないから大型装置はエンジンからパワーをもらうんだ。
けどその供給源のオンオフはトランスミッションのような物を動かすので、クラッチを踏まないとぶっ壊れるのだ。
そして油圧で動く物なのでエンジンも掛けておくのが好ましい。
イブよ、やってはいけない事を数秒でやり遂げたな。それでこそ異世界人だ。アダムは理屈を考えて下手に触ろうとしなくてつまらないもんな!
……しかし数日の間はこのようにワイワイしながら豪勢にトラックを買い漁る日々が続くのか。かなり非日常的な経験をこんなにポンポン行えるなんて夢みたいだ。
「みゃん〜、この広々とした荷台も気になるミャ!」
「ねえねえ〜あたしもそこ乗ってみたーい!」
「はいはい、今持ち上げますよお嬢さん。ほらたかいたかーい!」
「キャッキャ! あなた力持ちね!」
「はーっはっはっは。おじさんフィジカルだけはガチだからな!」
おじ「ふぅ、だいぶ買ったな! さすがにアダムの稼いだ金も無くなったんじゃないか?」
ゴロ「そうだね、ちょっと口座をネットから見てみるよ……お!?」
おじ「どうした!? 足りなかったのか!?」
ゴロ「ち、ちがう……まだ振り込まれてなかったアダムくんの賞金やらが振り込まれて、減るどころか増えてる……!」
アダム「おお、それはいいな! じゃあ明日はもっと買えるということか!」
イブ「結局今日行ったお店は結局用意されてたの全部買ってしまったからなぁ」
おじ「まるで次元が違うぜ……」




