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良い知らせと悪い知らせ


 いよいよアトランティス再興の兆しが現実的となり喜んでいたのもつかの間。トラックメーカーに発注の電話をしていたゴロが浮かない顔をして俺たちの元へやってきた。


「みんな、いい知らせと悪い知らせがある。どちらから聞きたい?」

「うわ、出た! 映画でよく見るやつ!」

「みゃあ〜、お決みゃりのやり取りだみゃん」

「もったいぶってないで早く言いなさいよ、悪い知らせからでいいから」

「それじゃ……あのね、トラックって納期がすごく長くて20台だと8年くらい掛かるって」

「8年!?」

「さらに追加改造もするし、用意するだけで10年以上掛かるのは確実だろうって」

「さすがにそんなには待てないな。で、いい知らせは?」

「悪い知らせはこの一個だけだという事だ」

「なんだよそれ……」


 とんだ肩透かしだよ!


 まあでもトラックなんて中古でもいっぱいあるし、そっちを購入して使い潰す方向で行けばいいだろう。さらに適当にフロントバンパーに殺傷力高そうな鋼管パイプでも装着する程度の改造に収めたら割りとすぐに計画が実行できそうだぞ!


 それにワープしまくって道端を転々とするのなら車検が付いてる事にこだわらなくてもいいし。というか燃料入れて走ってくれるならライトがつかなくても窓が開かなくても、整備不良で廃車寸前であっても全然構わんしな。


「どうすんのよ。トラックが異世界転生にちょうどいいんでしょ。でも用意するのに10年掛かるのはキツイわよ」

「そこで中古の出番だ。みんなも一緒に何を買うか考えてもらうからな」

「みゃあ?」

「これから長いこと乗るモノだし、各自1台くらい好きなの乗りたいだろ?」

「そうだね、せっかくだしみんなで買いに行くのがいいね」

「おお! どんなトラックがあるか楽しみだ! 早く買いたいなぁ、今日は行かないのか?」

「今日は車がミニバンじゃないからなぁ」

「そうだった! あの魔物をボクの病院とはいえ駐車場に置きっぱなしにするのは危ない! 一度家に持って帰ろう!」

「あんな化け物のエンジン掛けれる人間なんて滅多にいないから、盗もうと思ったらレッカーが必要だよ……」


 でも盗まれるときは盗まれるもんな。それにあのバカみたいなレーシングカーはエンジンだけで数億、車体なら数千万円だからな。


 まあその化け物エンジンをまともに扱うのに数千万円の車体が必要で、いくら単品数億のエンジンを引きずり出したとしても、とりあえずで用意したくらいのスーパーカーに載せても全然本領が発揮されないはずだ。


 だからまあ、あれのヤバさが分かってるヤツほどそう迂闊に手を出さないとは思うけどね。


「しっかしいつ乗り込んでも狭っ苦しいなぁ!」

「はっはっは! まるで冷蔵庫に入り込むもんだね!」

「さあて発進しますかね。燃えるなよ〜、頼むぞ〜」

「あ、ちなみに最低速度が80キロだからね。それ以下でダラダラ走ってるとホント燃えるから」

「……だよなぁ! ま、コイツはカーブを200キロで曲がれるし問題じゃねえか!」

「それじゃ頼んだよ〜。夢のマシンを見せびらかすんだ!」

「おうよ! ドッグゥン……ピシャー」

「ゴゴゴゴァァァァ……バババババババァァァァ!!!!!!!!」


 これ見よがしのスーパー・トルクが6000回転で襲いかかってくる!


 少し遅れてデカトルクを覆うように発生する無過給のナチュラルな出力が、まるで炸裂弾のように襲いかかってくる!!


 トルク80キロ、そしてレッドが7000! 計算では750馬力以上も出ているんだぜ!?


 なんの過給器も付いていない20年以上前の車がだぞ!?


 けどコイツの怖いところはエンジンの獰猛さだけじゃないんだよ。あのな、まるで冷蔵庫のように重いアクセルを蹴り飛ばしてタコメーターをレッドまで引っ張る。するとこんな大トルクを発生すると四駆であってもすっ飛んでいくもんなんだが……


「ギャプッ! バオオオォォォォォォン!」

「かァァァッ! なんでこのスピードでミシリとも言わねえんだ! まるで車体全てを山のようなアルミからクリンと削り出したかのような剛体性だ!」

「いいぞ! 流石はドイツ生まれイタリア育ちのアメリカ人父を持つ車だ! まるで時のしがらみを20世紀に捨ててきたような荒れっぷり!」


 ……いや、何度も何度も本当に申し訳ない。このようなシーンを書くと露骨に読み飛ばされるのは知っているのだが、どうしても気分が乗ってしまうのだ。


 というわけでゴロのお家までスキップ。みなさん今回もピッピーの戯言にお付き合いいただいて感謝しかございません。


「おや? もう少しボクの家は遠いと思ったけどもう着いたね」

「このマシンが凶暴だからな。さ、ミニバンに乗り換えようぜ」

「そうだね……あ、コイツを車庫に入れるにはボクらで押さないといけないんだ」

「そういえば出してきたときは牽引してたな。ま、四駆とはいえ車重は軽よりちょっと重いくらいだろ」

「そうなんだけど……タイヤがデカいから転がすまでが大変なんだよね……」

「ああ……なるほど」


 全く、ホントに利便性の欠片もない車だぜ。恐ろしいことにバックギアも無いから駐車するときは慎重に場所を選ばないと、泣きながらこの薄らデカい車体を押すことになるぜ。バイクじゃねえんだからさ……


 そして化け物と交代で現代の世相が産んだ快適車両、クソデカミニバンくんが無音でご降臨する。


 ああ、便利だ。こういうのでいいんだよ、こういうので。


「やあ、たまにはボクが運転するよ。乗ってよ!」

「おっ、それは楽しみだ! いや〜ずっと運転を担当してたから一回くらい横乗りしたかったんだよ。ありがとな!」

「だろう? ボクもさ。キミが運転上手いからじっくり後ろの席を楽しめて本当にありがたいんだ。それじゃ行くよ!」

「ムォォ〜……ボボボボボボ!」


 先ほどとは雲泥の差だ! うんうん、やっぱりミニバンはいいよ。偉大だよ。少なくとも公道を走るならコレの悪い点は挙げられようもないくらいだ。


 それにゴロは運転が上手いもんだ。だんだん眠くなってきたよ。やっぱ子持ちは常々安全な乗り方を意識してるから感心だわ。


 ……


 …………


 ………………


「ハッ!?」

「起きたね〜、ぐっすり寝てくれてボクも嬉しいよ」

「すまんゴロ! せっかく運転してくれてたのに眠りくさっちまった!」

「いいんだよ、運転手としてはこの上ない喜びさ」


 気がつくと病院の駐車場だった。やっぱあれか、医者だし救急車を丁寧に乗り回すテクニックも持ってるんだろうか。


 少し重たいまぶたを開きながらゴロと共に病室へと向かう。俺はエシャーティたちの元へ、ゴロは家族の元へ。それぞれ向かう先は違えど、俺たちの頭には別れたという認識はない。不思議な感覚だ。



 ドゥッグン! ピシャー……


 ゴゴゴゴァァァァ……バババババババァァァァ!!!!!!!!


ゴロ嫁「あの音は……お父さんったらとっておきに乗ってきたのね」

ゴロ息子「でもお父さんはあの車はサーキット以外で走らせちゃいけないって行ってたよ〜」

ゴロ嫁「ふふ、それだけお父さんは急いでくれたのよ。でもおかしいわね、あの車は二人掛かりで動かさないとエンジンすら掛けられないのに」

ゴロ息子「きっとあのネコのおじちゃんが手伝ってくれたんだよ」

ゴロ嫁「お父さんが大事な車を貸すくらいだしきっと良い人なのね〜」

ゴロ息子「うん! またネコ触らせてくれるかな」

ゴロ嫁「優しい物腰の方だったし、良い子にしてれば触らせてもらえるわよ〜」


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