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偉大なる巨神の名を持つトラック


 それからトントン拍子で物事が進んでいった。地方の小さな競馬場でデビューを果たしたアダムは同じくデビューしたての馬を駆り、華々しい勝利を重ねていったのだ。


 やってることがやってることなのでコネの通じない大きな舞台には上がれなかったのだが、それでもアダムは人気を欲しいままにして大金を稼ぎ出す人気騎手へ一瞬で成り上がったのである。


「いや〜、ホントに日常的に馬と接してきただけあって乗馬が上手いね!」

「この世界の騎手は馬と話さずムチだけで制御してるからな。というか、他の馬にお願いすれば全体の順位すら好きにできるぞ」

「お前そんなことができるのか」

「アダムくんは凄まじい才能を持ってるよ。もしきちんとライセンス取って大舞台に出れたとしたら……」

「考えただけでヤバいな」

「まあ馬も一枚岩ではないから確実に頼めるわけじゃないがな。ところで資金はどのくらい貯まったのだ?」

「ふっふっふ……元手の200万が数百倍に!」

「数百……数百倍!?」


 それって……


 もう2億以上はあるのかよ!?


 いやぁ、負けたわ。完敗。アダムが騎手になって1ヶ月ほどしか経ってないのにもう数億稼いじゃったのか。月収数億。すごろくゲームの終盤みたいな稼ぎ方してるよコイツ。


 そんだけ金があったらアダムの目的の重要素材であるトラックの調達なんて不自由しなくなってしまったな。


「おいゴロ、お前の試算だとどんなトラックが何台買える見込みがある?」

「そうだね〜。乗り込む人数的にダブルキャブになるから、最大でも2トン車辺りになるね」

「大型のダブルキャブは教習車でしか見ないもんな」

「で、何万人もの衝突に耐えるには少しでも頑丈に改造し、さらにはみんなが長く乗れるようなキャビンに仕上げるとなると新車1台で1000万はいくかもね」

「それでも20台はとりあえず買えるのか……」

「す、すごいねアダム! トラックとやらが20台変えるそうだ!」

「20台もあれば1台くらいイブが運転してもいいな!」

「わ~! やるやる! 楽しみだなぁ!」


 異世界のカップルたちはトラックに乗りたくてうずうずしているようだ。ふふふ、仕様的にワイドのダブルキャブ2トン車になるだろうが、間近で見る巨大さに仰天するに違いないぜ。


 目の前で見るトラックは小振りと言われる4ナンバー車でもマジで家みたいに感じるデカさだからな。それが金に糸目を付けないダブルキャブの最大クラスとなると、もはや山のような領域に入ってるよ。


 ……山か。そういえばアトランティスで初めてアトラスと遭ったのも山だったな。


 ……アトランティスへ転生するのに使うトラック、しかも2トン車でダブルキャブがあるヤツか。


 いや、いやいやいや。それはまずいって。


 お、俺は消されたくないから絶対に言わないからな!


「……ねえ、キミたちの世界はアトランティスって言うんだよね」

「そうだぞ! アトラス様という偉大な神が作り上げ、多くの神が愛した平和で美しい世界だ!」

「ふーん、アトラスか……」

「おいゴロ! それ以上は危ないぞ!」

「おや、そう言うってことはキミもアレが頭に浮かんだんだね」

「みゃん〜、また車バカたちだけで盛り上がってるミャ」

「いやいや、アダムくんとイブちゃんにピッタリなトラックが一つあるんだ。それはもうドンピシャでね」


 ゴロも俺も頭に浮かんでいるのは縦長なヘッドライトが特徴的な、特にトラックの中でも燃費がいい部類に入る国産の有名トラックであろう。


 宅配屋はあんまり使っていないので町中でこそ見かけることは少ないのだが、木製の荷台の造りが実に良くできていて工場から卸先へ商品を移動する際やなんやでよく使われているイメージがある。


 しかしそのトラックはダブルキャブの評判はいまいちだったような。後ろの席はオプションでもパワーウィンドウ付いてないし。


「ねえ、アトラスっていう神にちなんだトラックがあるんだけどそれにしない?」

「なんとそんなトラックがあるのか!」

「アトラスさまがトラックとどう関係するのかは分からないが、親近感が湧くし私は賛成だ」

「あたしたちはあんたらに任せるわよ」

「じゃあ決まりだね! 早速ディーラーと架装屋に連絡して20台発注してくるよ!」

「サラッと2億の金が動いてる……やべえな」


 でもそれでも数万人、とりあえず10万人を転生させるとしたらまだトラックの数が足りないよな。


 一台でまあがんばれば500人いけるとして、10万人倒すのに200台はいるからな!


 アダムに騎手としてうまく大金を稼ぎ出してもらうのが大前提な計画だが、このくらいアダムに頼り切りなほうが後ろめたさもないだろう。


 それに新車で買うみたいだし、一定数オートマにしとけばエシャーティたちも乗れるんじゃないか?


「なあゴロ、半分くらいオートマにしといてくれよ。エシャーティたちも運転したいだろうし」

「もちろんさ。ボクも運転してみたいしね」

「え、お前オートマ限定?」

「違うよ! ただヨーロッパにいたとき以来だから、結構乗ってなくてさ」

「そうか。でもディーゼルはめちゃくちゃエンストしにくいから、乗るならマニュアル乗ってみれば?」

「そうだねぇ。キミもついてるしそうしようかな」


 さて、トラックの問題はあらかた片付いたと見ていいな。あとは異世界転生者をどこに集めるかだ。


 10万人もの人間を一箇所に集めるとなるととんでもない敷地がいるし、そもそも世界中から集めるとマキマキおじさんは言ってたので集合に何ヶ月も掛かるのでは……


 こればかりは神様であるマキマキおじさんに意見を聞くしかないな。


「マキマキおじさん、異世界転生者をどこに集めるかアイデアがあるの?」

「ほぇ? 別に集めないぞ」

「集めないって、それじゃどうやってひき殺すんだよ。俺たちがわざわざ一人一人の元へ出向いて、トラックでひいたらまた次の人のとこへ行くのか?」

「そうじゃよ」

「そうじゃよって……」

「まあ説明くらいしてやるかのぅ。そなたは異世界転生モノを読んでるとき、あまりに突然トラックが出てきて人をひいてるとは思わんか?」


 確かにどんな作品でもトラックは暴走しがちである。しかし暴走してるにしても、トラックのような大型で騒音もデカい車両が動いてたら遠くからでも自分がひかれる前に察知できそうなもんだろ、と心の中でツッコミを入れていた。


 そう、まるで突然トラック自体が登場人物めがけてワープしてきたかのような違和感。


 ……待てよ、トラックがワープか。しかも異世界転生者のほぼ目の前に。


「なるほど! 俺たちはただまっすぐ走らせておいて、マキマキおじさんが異世界転生したいヤツの目の前にトラックごとワープさせるのか!?」

「そうじゃ! 厳密にはワシの母ちゃんや天界の神々にも協力を仰ぎ、転生したい者が外に出たのを逐一誰かが察知してワシがそれを聞き、ワープすると」

「異世界転生モノのトラックもこんな裏話があったりするんだろうなぁ……」

「そうじゃろうなぁ。ワシもあのご都合主義は実は超合理的で理にかなっておると思う」


 となるといよいよ問題らしい問題も無くなった。それどころかマキマキおじさんがワープさせてくれると言うのなら、俺たちはなにもまっすぐ走るだけじゃなくて適当にハンドル切ってみたりしてもいいんじゃないか。


 それにエシャーティたちも運転を体験できるし一石二鳥の計画だ! よーし、おじちゃん久しぶりにトラック運転してみんなに色々教えるぞー! 楽しみだなぁー!



アグニャ「みゃん〜、出番が無かったミャ」

エシャーティ「仕方ないわよ、こればかりはイブたちの夢実現のためにあいつらの車知識が必要なんだから」

イブ「しかし本来の手順を踏んだ異世界転生というのは大変なのだな。ホントに死なないといけないのか」

エシャーティ「そういえばあなたたちはどうやってアトランティスからコッチに来たの?」

イブ「エシャーティたちと同じく異世界渡航をしたんだよ。ただアグニャのように懐いている神獣がいなくてな。それでちょっと苦労した」

アグニャ「いったいどうやってそこをクリアしたミャ?」

イブ「そ、その……ある日私の元にユニコーンが降臨して、なぜか異様に懐いてな」

エシャーティ「あ〜……ま、まぁ懐いてるってことはまあ……よかったじゃないの! 自信持ちなさいよ!」

イブ「ううう、辱めだ……クッ、殺せ……」


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