憎しみは募り続ける
「うっ、ビールってホントに苦いのね……」
「ベッ! べ〜ッ! これ飲めにゃいみゃ!」
「だと思ったよ。仕方ない、マキマキおじさんと俺で飲むから違うの飲みな」
「うひょひょ〜! 魚の脂が流されて爽快じゃ〜! ゴッキュッゴッキュ!!」
「すごいわね、もうジョッキがカラよ」
「あの飲み方は危ないから真似すんなよ。ゴクゴク」
案の定初めてお酒を飲む女の子たちはビールの苦味に屈してしまった。まあ仕方がないよ、誰だって初めて飲むビールは苦くて我慢して飲むもんだから。それがいつの間にか苦味は感じるけどそれを我慢する事がなくなり、やがてうまく感じるんだよ。
とはいえ俺たちがビールをかっ喰らってるのにこの二人に茶や水を飲ませるのはあんまりなので、せめてもう一度トライするチャンスを与えよう。
「ビールは苦いけどチューハイは甘いよ。まあ寿司屋だからレモンサワーしかないけど」
「こっちにリンゴジュースとかあるし、それを混ぜればいいと思うぞい! ゴッキュッゴッキュ」
「そうだな、それならハイボールがいいな。じゃあまずは好きなジュースを選ぼうぜ」
「わーい! それじゃあたし、メロンソーダ!」
「みゃん〜、一度コーラを飲んでみたかったミャ」
「ほいほい。ほんじゃ頼むとするわ」
まるでファミレスのドリンクバーで遊んでいるみたいだ。色んな種類のジュースを混ぜまくりオリジナルドリンクを生み出すけれど、スパークリング烏龍茶(コンポタ風味)なんていう危険物が出来上がったりして、苦い顔をしながら飲み干す経験は誰しもあるのではないだろうか。
でも今回はシンプルに美味しいものを作ろうとしてるからね。コーラとハイボールなんてそれこそコークハイだし、メロンソーダとハイボールだって侮れない気がするぞ。おじさん一口ずつもらおっかしら。
「来たわよ! ねえ、満タンにお酒入ってるけど少し飲んでいいの?」
「ハイボールだからあんま甘くないけど、まあ物は試しだし飲んでみな」
「みゃ〜……ん? あんみゃり味がしにゃい……」
「そうね……なんか薬品っぽい炭酸?」
「俺たちが空けたジョッキに水入れて一回飲み干しといたから、これに半々ずつ入れて少し混ぜて飲みな」
「ほっほ〜。水も適度に飲むと酔わんぞい。ゲッフ」
言われた通りに二人はジョッキへハイボールとジュースを注いでいく。エシャーティは少々手元がおぼつかないが、アグニャがジョッキを抑えたりしてフォローしてて偉い! すかさずありがとうと言うエシャーティも偉い! どっちもかわいいね!
いよいよ特製ドリンクを完成した二人は恐る恐る口にしてみる。ビール、ハイボールと2連敗し若干お酒に苦手意識が出てそうだが、すぐさまその表情はにこやかになった。
「くぴくぴ……う~ん、おいしい! なんかサッパリしたメロンソーダは新鮮でおいしい!」
「みゃん〜。コーラってうみゃいみゃ〜。ジュルジュル」
「でな、こうして食うマグロやイカがまたうめえんだわ。モグモグ」
「みゃん〜! いつの間に頼んでたミャ!? エビを食うミャ!」
「あたしもイクラ食べる〜!」
こうして楽しい昼ごはんはもうしばらく続いたとさ。さて、初めての飲酒運転がんばらねえとなぁ……。
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人から借りてる車で飲酒運転とは言語両断すぎるが、この車は以前に試したように素晴らしい運転サポート技術が搭載されているので、ほとんど自動で全ての作業をこなしてくれるから酔っていても全く危なっかしい目にはあわなかった。
夕方に差し掛かる空を眺めながら俺たちはゴロの病院の廊下を歩き、いつものエシャーティの病室へとやって来た。エシャーティもすっかり自分の足で歩くことに慣れた様子である。
「お、ようやく帰ってきたな」
「ヤケに長い母親との再会になったのだな」
「あー、実はちょっと寿司食いに行っててさ。アダムたちを連れてかなくてすまん!」
「別に気にするな。俺たちは俺たちで医者からハンバーガーと……」
「ポテトという珍品をもらったからな! あれは美味しかったね、アダム!」
「ふふ、ポテトだって。あたしたちもお寿司屋さんで食べたわ〜。美味しいわよね〜」
まあともかくアダムたちも楽しく食事をしていたようでよかった。俺たちだけがキャッキャしてたら何だか申し訳ないしな。だったら一回帰ってきてアダムたちを連れてけって話になるけど……
で、こうしてキャッキャしてると決まってゴロが見計らったかのように部屋に入ってくるワケだ。ほら来た!
「やあみんな、おかえり」
「出たなゴロ! いつも見計らったように出てきやがって!」
「はっはっは、前も言ったじゃないか。この部屋はエシャーティが異変をきたしてもいいように常に見てるって」
「そういえばそうだったな。ところでそろそろ家に帰るのか?」
「いや、今日は嫁たちも病院にいるし帰らない。ところでさ、事故が起きたときに近くにいた車がドラレコ映像を提供してくれたんだ。けど……」
おお、それはかなりありがたい話じゃないか。俺のオンボロの軽にはそんなもん付いてなかったし、この言い分だと事故ったヤツの車にも付いてなかったと見ていいだろう。
そこへ親切な第三者が事故映像を提供してくれたってのはかなり大きな助けになるぞ。けどゴロの言い淀みからすると……
「なんだ、まさか奥さんが停止線超えてたとかか? そんくらいじゃ割合大きく変わらねえよ〜むしろ後ろからの追突だし関係無いくらいだって!」
「や、嫁は完璧に停止線の前で止まってたから完全に過失無しなんだ。問題は加害者さんなんだけど……まあ映像見てもらったら分かるよ」
ゴロは部屋にあるDVDプライヤーにディスクをセットしてテレビに事故映像を映し出した。時刻は朝の通勤で少し混む時間帯で、撮影者の前方に見慣れた車が二台あった。
そう、”二台”。一つは言わずもがな俺のオンボロの軽で、その後ろに位置するもう一台は……
「えっ、この車……」
「どうかしたのかい?」
「いや、とりあえず再生を続けてくれ」
「わかった。まあ見ての通りこのセダンが突っ込むんだけどね……ほら、停止してたのに急にアクセル全開してんだ!」
「みゃ〜! ホントにおじちゃんのピッピーに突っ込んで壊されたミャ!」
「バカじゃないの、このセダン? っていう車の運転手! あーあ、エリミネーションしたいわ、こういう人!」
そうだよな、エリミネーションしたいよな、こんなイカれた行動をするようなヤツ。
せめてこのセダンは俺の知ってる車とは別物で、見間違えであって欲しい。そうでなきゃ、俺はもう一生ゴロと家族たちに顔を向けることができない。
が、現実はそう甘くはないもんだ。恐れていた事に限って現実となるものなんだ。
「……で、事故したからセダンの運転手は出てくるんだけどさ」
「なんだコイツ! おい見ろ、ヘラヘラしているぞ。この世界のジジイはとんでもない性格してるのだな」
「そうだなアダム、私も急に道路を歩くのが怖くなったよ……」
「ま、待つみゃ、一回止めろミャ!」
「おや、なにか見えたのかな。はいはいっと」
「おじちゃん……このジジィって……」
「アグニャも気がついたか。だよな、このクソジジィは」
……間違いなく、俺の親父だった。
おじ「それじゃ満腹になったしそろそろ会計するか。さーて……い、一万円!?」
エシャーティ「え? 大丈夫なの? まさかお金ない!?」
アグニャ「うみゃ〜!? 逮捕されるミャ!?」
おじ「……マキマキおじさん、ちょっとお賽銭から2000円くらい持ってこれない?」
エシャーティ「あ! そうだ! ゴロからイザという時に使えって渡されたこの変なカード使えない!?」
おじ「おお、ゴロのクレジットかなんかか!……なんだこれ、ピンクのメタルカード!?」
アグニャ「カードにアダムみたいな絵が彫られてるミャ〜。実はゴロはファンかみゃ?」




