感動の再会
色々とふざけすぎて危うく警察沙汰になるところだった。というか追っかけられたワケだが、まあなんとか逃げ切ったので大丈夫だろう。いざとなればマキマキおじさんに頼んで手配を取り消してもらえばいいし。
以前はよく足を運んでいたペットショップへ久しぶりに来たが、相変わらず高級志向な動物やペットグッズを取り揃えていて俺は場違いな感じがするんだよな。でも今日は美少女を二人も連れてきたから頼もしいぜ!
「すごいわね〜、色んな種類のネコがいるわよ。でもアグニャよりおっきいのはいないわね」
「みゃ! みんにゃ優雅な暮らしを堪能してるみたいだみゃ〜。活き活きとおしゃべりを楽しんでるにゃ」
「おお、そういうのやっぱ分かるのか。なんか急にネコッぽく見えるな」
「ここならママが生活してても安心にゃん〜」
事実ここの店員は俺のような気持ちわりいツラの客でも丁寧な接客してくれるし、どれだけ大きく成長した成体ネコでも決して安売りしたりして乱雑な扱いをしない、ある意味客泣かせの店だからな。
それにアグニャが大好きなフランス製パウチフードをはじめ、外国産のペットフードや日用品の輸入代理もしてくれるしすごくいい店だ。
「あ、いつもありがとうございます。今日はお連れ様がいらっしゃるんですね」
「ああ、どうもこんにちは。あの〜、今日はアグニャの母猫を見に来たのですが」
「そうでしたか、いつもの場所にいますよ。お連れ様がネコを飼うご予定で?」
「ごめんなさい、あたしたち冷やかしなの」
「あ、全然大丈夫ですよ! 可愛らしいネコに癒やされに来ただけでも私どもは大歓迎です」
「ありがと! ふふ、すごくいいお店じゃない。あなたもスミに置けないセンスあるわね〜」
「このお店は日本のトップブリーダーも在籍してるし安心できるよ」
店員に案内されて俺たちは店内の奥にあるショーケースがいくつも並ぶ部屋へやってきた。このお店で購入できるブランドネコたちの中でも特に高額な種類のネコたちが集まっているゾーンだ。
ここで俺はアグニャの母が身ごもっているのを発見し、さっきの店員さんに真剣にお願いして生後間もないアグニャを特別に販売してもらったのだ。
「にゃんだか懐かしい気持ちがするみゃ」
「そうだろうな。俺とアグニャが出会った場所だし」
「きゃ〜、ロマンチック!! そういうの憧れるわ〜!」
「で、あちらにおわすのがアグニャの母親でございますぜ」
「みゃ……あれがママ……!?」
二畳ほどもある広大な飼育スペースにたった一匹だけ入っている超ド級のスーパークソデカにゃんこ……美しい銀色の毛並みとその図体の凄まじさはアグニャと肉親であることを物語っていた。
アグニャがそろりそろりと母親の入るショーケースへ近づくと、何かに気づいたのかアグニャママも起き上がって近づいてくる。その様子はとても静かで神秘的で、そしてすごいスケール感だった。いつ見てもアグニャママはデカすぎる。
「なぁぁぁぁぁぁぁご!」
「みゃ!! みゃぁぁぁぁご!!」
「ふんにゃぁぁぁぁ」
「みゃん〜! にゃんにゃん!」
「ころころりん」
「にゃんごろにゃぁぁぁん!」
「あれは……あなたから見てどう写ってる?」
「うーん、感動の再会……だと思う」
「ドシン、ドシーン!」
「ガリガリガリガリ!」
「お客様ー!? ショーケースにはあまり触れないでくださいね!?」
今まで珍妙な声を発していたアグニャを苦い顔で見ていた店員さんも、さすがにアグニャがエキサイトしてきてショーケースにツメを立てたら止めてきた。申し訳ございません……
が、何かを察した店員さんは気の利いた提案を俺たちに告げてきた。
「よろしければあの子をこちらへ出してあげましょうか」
「えっ、いいんですか?」
「いつもアグニャちゃんと一緒にこの店に来てくださりますし、いっぱい買い込んでくれますから。それにアグニャちゃんの母親も今日は遊びたそうにしてますし」
「ありがとうございます! それじゃぜひ触らせてください!」
「はいはい、少しお待ちを〜」
「よかったなアグニャ、実際に会えるぞ!」
「みゃん! あの人神だみゃ! そうだみゃ、せっかくだしネコ化して会うみゃ」
「それがいいわね。ああ、モコモコ丸が二匹も目の前にいるなんて夢みたいな空間……」
店員が裏手に回ったスキにアグニャはネコヘ変身し、ショーケースの前で母親が退室するのを見届けた。店員さんは急にネコのアグニャが現れてギョッとしているが、すぐさまアグニャの母親を箱に入れて移動した。
アグニャもそうだが、巨大すぎるネコは抱きかかえるにしても持ちきれないのだ。少しの距離を移動するならまあ何とかなるが、基本移動させてあげる時は何かしらの箱に入れて動かす。
「よいしょ……アグニャちゃん連れてきてたんですね、気づきませんでしたよ」
「ははは、すみません。今日はいつにも増して人見知りしてたみたいで……」
「しかしデッカいわね〜! アグニャも世界最大級だと思ってたけど、上には上がいるものね」
「そうでしょう! この子たちは数あるネコの血統でも一、二を争うサイズですからね。よっと……」
「にゃぁぁご! ペロペロ」
「みゃあん〜! ペロペロ」
「はは、二人とも毛繕いしあってるよ」
「本来は親子といえどほぼ初対面だと威嚇してもおかしくないですが……こんなに仲良くしてるのは素晴らしいです!」
あっ、ダメ、おじさんなんか泣きそうになってきた……
だってアグニャが嬉しそうに他のネコを毛繕いしてるのを見るの、これが初めてなんだもん。
それはつまり、アグニャが毛繕いをされる様子を見るのも初めてであり、要するに俺は育ての親として感動を抑えきれないのだ。うぉぉん、かわいいねぇ〜!
「ひっく、ひっく、よかったなあアグニャ、お母さんに会えてなぁ……」
「な、なに泣いてるのよ……あたしまで泣けちゃうじゃない! びぇぇぇん!」
「にゃん〜……」
「みゃぁぁご」
「お客様、アグニャちゃんたちが何だか呆れてますよ」
「ホントだ。こいつら〜、幸せそうな態度しやがって! わしゃわしゃ!」
「あたしも撫でる〜! わしゃわしゃ!」
「にゃんごぉ〜」
「うにゃ〜」
そうだ、この感動の再会はビデオに収めるべきだろ! えっと、スマホスマホ……
あ、スマホは確かゴロの家で待ってるはずだったエシャーティたちに預けておいたんだっけ。ちゃんと持ってきてるのかな。
「なあエシャーティ、この様子を撮りたいからスマホ使いたいんだけど、俺のスマホ持ってきた?」
「あ、マキマキおじさんが持ってるよ。あの人だけゴロの家で留守番してるのよね」
「そうか……残念だが、俺たちの目にしっかりと焼き付けて記憶しよう」
「お客様、よろしければ私が撮影してデータを差し上げますよ」
「マジですか!? いや、何から何までほんとすみません……」
「こんなに動物を愛する人がいてくれて本当に嬉しいですから! さ、撮りますよ〜!」
ペットショップの店員さんの多大な協力のおかげでアグニャと母親の再会劇は永遠に残されることとなった。
その映像には俺とエシャーティが笑い合いながらアグニャたちの腹へ顔を埋める様子や、俺がアグニャのケツに顔を近づけてるのを見てアグニャの母がネコパンチをかましてきているハプニングなどが長い時間に渡り収録された。
こういう思い出はいつまでも、何度見ても色褪せない美しさに溢れている。これからは少しでも多く思い出を残すように動かないとな。
アグニャ「ママ〜! 会いたかったミャ!」
ママニャ「あなた……私の娘なの!?」
アグニャ「そうだみゃ、ママに似てこんにゃに美人ににゃっちゃったミャ〜!」
ママニャ「そうだね、私そっくり! でもまだまだ子供だわね、あなたはもっともっと大きくなって、いつか私の倍くらいになるわ〜」
アグニャ「当然だニャン。ところでパパはどういう人だったんだみゃ?」
ママニャ「実はね、あなたを育ててくれたそこの人に似たネコだったのよ」
アグニャ「お、おじちゃんそっくり!?」
ママニャ「パパに似なくて本当によかったわね……!」
アグニャ「みゃあ〜! 想像するとゾッとしたみゃ! ぷるぷる!」
ママニャ「あらあら、落ち着きましょうね〜。ペロペロ」
アグニャ「ありがとみゃ〜! お返しペロペロだみゃ!」
おじ「はは、二人とも毛繕いしあってるよ」
エシャーティ「でも何だかあなたをチラチラ見てる気がするわね」




