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はじめての手術


 20年ほど前に製造されたボディとエンジンを持つこの車は、最新の高級スポーツカーの二倍の排気量で四倍のガソリンを消費し、半分の時間で目的地まで辿りついた。出発前の準備を含めても半分。まさに魔物である。


 まあコイツは400キロまで刻まれたメーターを付けてんだもんな。普通に売ってる車じゃ敵わねえさ!


「よくやった! よくぶつけなかった! よく燃やさなかった! キミは生粋のラリーストとして生きるべきだった! 今からでも遅くはない!」

「そんなこと言ってる場合じゃねえ! はやく奥さんと子供のとこへ向かうぞ!」

「そうだね! それじゃ出してくれないか、この車は助手席から自力で出れないんだ」

「知ってるって! えっと、まずどうするんだっけ!?」

「もー! 窓を開けて外側からドアノブ引っ張るんだよ!」

「ああそうだったな! クソ不便な車だぜ!」


 ちなみに本来ならこの車のベースはラグジュアリーグランドツアラーなのでパワーウィンドウは標準装備のはずだが、あろうことかクルクルレバーで開けるタイプに改造されていた。うーん、突き詰めた機能美とか俺は好きなタイプだけど、これは詰めすぎだ。そのくせにカーボンは全く使用していない頑固さがあるし。


 まあともかく俺たちは悪戦苦闘しながらも車内から脱出することに成功し、大急ぎでゴロの奥さんたちが待っている手術室へと向かった。


「搬送から20分か……よし、大急ぎで手術を執り行うぞ!」

「おう、奥さんたちが一命を取り留めるように祈っとくぜ!」

「ありがとう。うーむ、しかし今日手隙な外科医はいただろうか……二人同時に執刀はできないぞ」

「こんなデカい病院なのに人手が足りないのかよ!」

「仕方ないだろ、そういう時勢なんだから!」

「まあそう焦らないの! あんた以外にも腕のいい医者はいるのよ!」

「こ、この声は……エシャーティ!?」


 驚いて振り向くとそこには自信満々の顔をしたエシャーティと、目を見開いて満足げなアダム、そして青ざめた顔のイブとアグニャがいた。


 いやおかしいだろ! なんでゴロの家で待っているはずのコイツらが病院にいるんだよ!


「みゃん〜、気ににゃるから着いてきたミャ!」

「エリミネーターよ、そなたから教わった運転の基礎が役に立ったぞ!」

「なんだと〜!?」

「アダムの運転でお前たちのあとをついてきたのだ。が、オケアノスと一緒に待ってればよかった……うっぷ」

「ついてきたって……あのモンスターマシンの後を見失わずに追いかけてきたのかよ!?」

「そなたから教わったナビとやらの履歴に残っていたこの病院をセットして、見失ったらナビの案内を頼ったのだ。しかしエリミネーターよ、死物狂いで飛ばしすぎだぞ」


 この異世界人は機械に対する順応性がハンパなくてすげえな。それに俺たちが車から降りるまで少し時間が掛かったとはいえ、その間に追いつくとはやるじゃねえか……


 ちょっと俺、運転技術には少しばかり自信があったけど免許持ってないどころか車に乗ったことがほぼ無いアダムにいい勝負されてしまい、なんだかプライドがズタズタだよ……


 しかも車の性能は圧倒的にこちらが良いのに。あ、無理!


「クソ! 俺だって運転うまいもん! クソ! ボケアダム! ああああ! センスもテクも見せつけやがってよう! 街中だとそっちの車が強いんだから! ちきしょうめ! ああっ!?」

「おじちゃんが壊れたミャ!」

「やかましいわね! ほらゴロ、患者はどこにいるの! あたしの最初のクランケになる子はどこ!?」

「いや、キミは腕はともかくとして、手術に耐えられるほどの体力がまだ養われてないじゃないか。オペ任せられないよ」

「そんなのマキマキおじさんが一時的にパワーアップさせてくれたから心配ご無用よ!」


 ええっ!? 俺たちが移動してる間にそんな事までしてたのかよ……いや待て、もしかしたらマキマキおじさんがアダムのドライビングスキルを一時的に開花させた可能性もあるワケか!?


 そうだな、そうに決まってる。じゃなきゃ俺たちが乗ってきたバケモノよりはマイルドとはいえ、相当なジャジャ馬であるあの高級スポーツカーをカッ飛ばせるわけないし! うんうん、安心した!


「がっはっは、さすがマキマキおじさんだぜ! エシャーティの手術を受けられる子が羨ましいな〜! ハーッハッハッハ!」

「今度は急にゴキゲンににゃった……こわ」

「でもその通りよ。あたしなら難度の高い子供の手術が初執刀でもなんのその。ゴロの子供だし絶対に助けてあげるわよ」

「そうかい……それじゃキミは第一オペ室へ行ってくれ。ボクは第二オペ室で嫁の執刀をする」

「ラジャ! さあ行くわよ毛玉丸!」

「みゃん〜? 行ってにゃにするみゃ?」

「あたしの目の保養をするのよ」

「みゃあ……おじちゃん、部屋に帰るかみゃ」

「そうだな、俺たちはエシャーティの病室で待っとこうか」


 なんだか緊急事態なのにどこか気の抜けたやり取りが続いていたが、いざ手術室へと歩みを進め始めたエシャーティとゴロの顔はとても凛々しくて、これから命を扱おうとする人の顔付きだった。


 なんだ、あいつら結構頼もしいじゃん。


x x x x x x x x x x x x x x x


 いったん部屋に戻った俺たちは先ほどの移動について話し合う。いくら俺たちに友好的なマキマキおじさんとはいえ、さすがに縁がある俺のいない場で無条件にクァァ出来るのは都合が良すぎではないか、という疑問についてだ。


「実際のところ、マキマキおじさんがエシャーティに力添えしたのは確かなのか?」

「さっきも言ったじゃないか。それ以外にどういう手があるというのだ?」

「いや、なんかあまりにもマキマキおじさんって便利な存在すぎるなあと」

「オケアノスはキチンと代価をもらっているぞ?」

「えっ、そうなの」


 マキマキおじさん、意外とちゃっかりしてるな。でも代価っていっても何を受け取ったんだろう。というかそもそも誰が何を差し出したのか……


「あの医者は自分でも気づいてないようだが、妻と子供が命の危機に瀕してる時に延々とオケアノスへと祈りを捧げていたようだ」

「その強い想いを受け、病院の人手がを足りないのを見越したオケアノスはエシャーティに一時的にだが力を与えたのだろう」

「うにゃ〜、なかなか気が利くみゃんね。ホントに人手が足りにゃかったみたいだし」


 なるほどな、確かに今のゴロなら神にもすがりたくなってるだろうし、その祈りが身近な神様であるマキマキおじさんへと向いていたとしても不思議ではない。


 世の中は全て上手くいくようになってるんだなぁ。これで奥さんと子供の手術が無事に終わってくれれば一安心だ。


 しかしよりにもよって俺が貸したオンボロの車で事故を起こしたがためにこんなに重篤なケガをしてしまっただろうから、俺は何も悪くないのに何だか申し訳ない気持ちになってしまう。


 ホントはいつものミニバンで送り迎えをするはずだったのに、俺たちが使ってたからあんなボロを使って……


 そういえばゴロの奥さんたちは後ろから追突されたとゴロは言っていたが、その加害者はどこにいるのだろうか。奥さんたちが大きなケガをしてるようだし、ぶつけた側も多少はケガを負いここへ搬送されててもおかしくないけど。


 ま、無事なら無事で警察のお世話になってるか。こんなどうでもいい事は後でゴロにでも聞けばいいし、今はみんなで無事に手術が終わるよう祈るとしますか。



 おじさんとゴロが病院へ向かった直後……


エシャーティ「さ、それじゃあたしたちも行くわよ!」

アグニャ「行くって……ここで待つんじゃにゃいのかミャ?」

エシャーティ「だって気になるじゃない! そうだ、マキマキおじさんにちょっとお願いが……」

マキおじ「もしや手術を出来るような体力をくれとか言うまいな」

エシャーティ「その通り! ね、おねがーい! いっぱいお祈りするから!」

マキおじ「はぁ、仕方ないのう。ゴロもワシを頼ってくれとるみたいじゃし、一肌脱ぐか! クァァァァァァァァ!!」

エシャーティ「いやァァァ! 急にそれしないで!」

アダム「うわっ! 俺にも掛かってる! 汚いぞオケアノス!」


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