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車の事ばかり書いて申し訳ございません


 可憐なお姫様二人はゴロ殿下の所有するお車になかなかの高評価を付けてくれた。やはり巨大で高機能なピッピーこそが正義なのだ!


「これホントに動かせるの!? めちゃくちゃおっきいけどぶつけないわよね!?」

「安心しろって、ゆっくり走るから。それにこの車なら四方八方から同じ車がぶつかっても乗員が死なないような造りしてるから」

「ほほう、そんなにこの車は頑丈なのか。すごいな車ァ! かっこいいぞ車ァ!」

「見てアダム! 玉座みたいなイスだ! おもしろいぞ!」

「ワシはこの後ろの秘密基地感がたまらなくそそられるのじゃ」


 誰も助手席に座ってくれねえ。アダムとイブは二列目の豪華なシートに座ってイチャイチャしてるし、エシャーティたちは一番後ろに座って談笑している。早くゴロを乗せて話し相手になってくれないとおじちゃんイジけちゃいそう。


 ……ハッ!? もしや今の心境って全国のパパたちが味わう”家族みんなでキャッキャして幸せなのに、なぜか寂しい”という謎現象なのか!? 俺、パパになっちゃう〜!?


「イヤ~ン! まだみんなを養う覚悟できてないよ〜! うおおおおん!」

「にゃにバカにゃこと言ってるミャ〜?」

「早く迎えに行かないと医者が待ちくたびれるぞ」

「そ、そうだな。それじゃ発進するけど怖かったらすぐに言ってくれよ」


 大勢の人間を乗せてイキイキとエンジンを唸らせるミニバンを駐車場内で軽くグルグルさせて様子を見てみる。一般道よりも急角度な曲がりをして若干強いGを発生させて、最後尾に座るエシャーティの様子を伺うと……


「わっ! すごい快適じゃない! 救急車と比べたら天国ね!」

「おーい、大丈夫そうかー?」

「ミャ〜! 平気だミャ」

「そっかー! じゃあそろそろスピード出すからなー」


 流石に走行中に運転席から三列目へと会話を行うのは声を張らないとキツイが、想像以上にみんなくつろいでるので心配は杞憂だったようだ……と思ってたら、急にのんびりしてたイブがイスごと前へ発射されてきた。何事だ!?


「わっ、わあ〜!?」

「なんだなんだ? シートはキッチリ固定されてるはずだが」

「ご、ごめんイブ! なんか足元に生えてたレバー踏んづけたら、イスがシューって飛んでっちゃった……」

「あー、エシャーティの席から降りるとき、イブが座ってるイスを後ろからどかせるレバーだな。仕方ないよ、許してあげてくれイブ」

「ごめんね、イブ……」

「ふ、ふぅ、ビックリしたけど大丈夫だ」


 幸いまだ病院の駐車場内だったし誰もケガをしなかったから結果オーライだ。むしろ今のうちにどういう部分がどんな事になるのか実際に使って覚えといた方がいいくらいだろう。


 ところでイブよ、いつまで助手席に密着して窮屈そうに縮こまっているんだ? そういえば背もたれもほぼ直角で姿勢がキツそうだし、その割には足置きは最大まで持ち上げられてて邪魔くさそうだ。さすがに見かねたアダムがイブに声をかけた。


「なあイブ、その姿勢はキツくないか?」

「アダム〜、このイスってどうやって動かすのだ」

「……すまんエリミネーター、一度車を停めてもらえないか」

「おう。すまんイブ、俺も最初にイスの動かし方を教えればよかったな。気が利かなかったよ」

「ああいや、私こそ……クッ、この玉座はなんで座面がこんなに広いのだ。脚を開かねば座れないじゃないか」


 ……よく見るとイブは脚を大きく開いて座っていた。車を停車して後ろを振り返ってみると、なんとも素敵な光景が目に入る。うーむ、エシャーティやアグニャと体格がまるで違うのに、着けている物は三人の中で最も布面積が少ないとはおみそれ致しました。やっぱ女騎士ってそういう人なんだなぁ〜。


「クッ……なにかイヤらしい視線を感じる」

「気のせいだろう。ほら、後ろにイスを押すから気をつけろ」

「あっ、アダムの腕、おっきい……」

「ムッ、みんなの前で舐めるな! 恥ずかしいぞ」

「ペロペロ」

「みゃあ、目の前でバカップルがイチャつき始めたニャ」


 何はともかく、アダムの助けもありイブは快適に座れるようになったようだ。今度こそ発進しよう。もし何かあったとしても、車に興味を持つアダムがだいたいこの車の機能の扱い方を覚えてくれてるから大丈夫なはず。アダムは要領のいい男で羨ましいぜ。


x x x x x x x x x x x x x x x


 いつもより若干送れてゴロの家に到着した俺たちは、まるで修学旅行の学生みたいにワラワラとミニバンから降りて周囲をキョロキョロ見渡した。見渡すのも無理はない。だってゴロの家はもはや観光名所になってそうなくらいの豪邸なのだから。


「うーん、初めて日本のゴロの家に来たけどデカいわね」

「見てアダムっ! お城みたいなおうちだ!」

「はしゃぐイブもかわいいなぁ……」

「みゃあっ、車庫の中にあったおじちゃんのピッピーが消えてるミャ」

「おいおい、あれはゴロの奥さんに使ってもらうって昨日言ってただろ。しかしホントにあのボロを使ったんだな」

「ワシ、次はこっちの屋根がないピッピーに乗りたいのぅ」


 ガヤガヤとゴロの家の敷地内で談笑してたら、血相を変えたゴロが出てきた。バタバタと走ってきたゴロの顔には異様な焦りが浮かんでおり、何か大きな問題が起こったと俺たちに感づかせた。


「はぁっ、はぁっ……あ! ちょうどいいトコに!」

「どうしたゴロ、そんなに慌てて。エシャーティたちは見ての通り元気だぜ」

「ごめん、ちょっと急いでるんだ! キミの運転技術が必要なんだ!」

「何があったの? 少し落ち着きなさい」

「落ち着いてられないんだ! ボクの……ボクの嫁と子供が車の運転中に後ろからをぶつかられたんだ!!」


 なんだって!? そりゃ落ち着いてもられないな。どうしよう、俺はいったい何をすればいいのだろうか。事故現場へ向かう……いや、ゴロに話が来てるということは嫁さんか警察が連絡してきたワケで、移動してる可能性もある。


 それにどこで、どんな事故をしたかによって移動するか否かも変わる。交通量の多い交差点とかだったら現場から少し離れたコンビニなどに一度向かうだろうし、もし自走できない状態になってたら病院へ運ばれてる可能性もある。


 とにかく今はエシャーティの言う通りゴロには落ち着いてもらって、俺たちはどこへ向かえばいいのか聞き出そう。


「エシャーティの言う通りだ。少し落ち着いてくれないと、俺もどうすればいいか分からん」

「そ、そうか……それじゃ、大勢で駆けつけても意味がないし、いったんボクの家に入って連絡を待ってくれないか。あ、キミは運転を頼む」

「わかった。それじゃスマホを貸してちょうだい」

「俺のをエシャーティたちに貸そう。ゴロのスマホは警察とかから連絡来るかもしれないしな」

「そうね! あなた車に関する事なら頭が回るじゃないの」


 いや、恥ずかしながら俺は過去に事故を起こした経験が何度かあって、その経験からだいたいどういった事があったかなぁと思い出しているだけだ。決して機転が利いたワケじゃなくて、単に慣れているだけである。


「それとボクの家の鍵も渡しておくね。もしかしたらみんなが家を離れる事もあるかもしれないし……」

「それでゴロよ、奥さんたちは今どこにいるんだ。とりあえず会いに行ったほうがいいよな」

「救急車でボクの病院へ運ばれたそうなんだ。ここから一番近いのがボクの病院だし、身元を確認した救急隊員が融通も利くだろうと……」

「なるほど、それなら10分で着く。いや、俺とゴロだけで向かうなら7分だな」

「いや、5分だ。一刻を争うからとっておきの車を出す」


 いや待て、普通に走ったら数十分はかかる距離だぞ。それを5分に縮めるにはどれほどの運がいるのか……


 そもそも10分の時点であらゆる信号は無視し、本来通れない道を通り、車両にダメージが入ることも懸念される。それをさらに半分程度でイケってことは、壊れてもいい車を出すのだろうか。


 いや、それは逆に不可能だ。ゴロも馬鹿ではないから平均時速を計算しただろうが、ここから病院まで5分で向かう時点で公道をxxxキロで走るから、最近乗ってない車を出すとタイヤは熱ダレし油分が劣化した油脂類は不審な挙動を見せてしまい、最速で向かえるはずもない。


 が、ゴロがガレージの奥にあるベールに包まれた車を他の高級車で牽引しながら出してきたら、そんな懸念は無駄だと理解した。そう、その車とは……


「……おいおいおい、幻の世界限定56台の怪物まで持ってんのかよォ!」

「このグロース・サビオに塗られた怪物ボディの心臓には、世紀末に爆誕したあのマシンの”56×5+6+5+6エンジン”を搭載している……」

「世紀末の”56×5+6+5+6エンジン”……それってあの、数億以上する!?」

「よく知ってるじゃないか! 数千万円のボディに数億円の心臓! そして”たった数百万”のタイヤを履いてるのさ!!」

「わァァー! そんなの運転できねえよ!」

「こんにゃ時にふざけてる場合じゃにゃいミャ〜! ピッピーなんてどうでもいいから、早く行けミャ!」


 どうでもいいわけねえだろ! このピッピーはアラブの石油王だって道を譲るバケモノだぞ! エンジン、車体どちらをとってもスワップしたのがもったいないレベルだ! なんでこんなバカなマシン作ったんだ! ゲームじゃねえんだぞ!


「アグニャちゃんもそう言ってるし、キミの腕を見込んで”真のエリミネーションコース”を任せる」

「そんな……俺、こいつのエンジンすら掛けられねえよ……」

「いや、キミならイケる! ボクの嫁と子供は一刻を争う事態だ! さあ頼んだぞエリミネーター!」

「クソッ! クソクソクソォ! じゃあやるよ! この魔物なら3分で行けるからな! オラ乗れやァァァァァァ!」

「よく決めたァァァァ!! えっと、まずは便座並に極厚のサイドシルに収納してるパーツを取り出して……」

「おい、説明書がドイツ語で読めねえ!?」

「ちょっと待って、まずはハンドル付ける前に助手席の消火装置を付けないとアラームが……」

「ねえ、あの人たちは車の前で何分も喋ってて無駄じゃない?」

「エシャーティもそう思うか。私もだ」

「いや……俺はあの二人の気持ちがよく分かる! おーい、俺も手伝うぞ〜!」

「あ、コイツも馬鹿だったミャ」

「うん、馬鹿だね」

「男ってみんな馬鹿なんだな」



 ※作中に出てくる自動車及びその構成部品の名称などは実在する自動車とは全く関係がございません。ただのゴロ合わせだと思って楽しんでいただきますようお願いします。


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