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復讐の準備


 みんなが寝静まり暗闇と静寂が俺をノスタルジックに包む頃。俺とマキマキおじさんは密かに病室を抜け出して”いつもの深夜会議”を始めるのであった。


「で、決心はついたのか」

「最初からハラを決めてるって言ってるだろ。マキマキおじさんの方こそ順調なのか」

「そりゃもちろん。天界の神々も、神殺しのエリミネーターが親に強い怨念を持ってるなんてビックリしてたが」

「はぁ、神様たちが俺を神殺しだなんだって注目するから、俺の親が釣られて”神殺しを産みし者”なんてワケ分からん存在になっちまったんだよ」

「ほっほ。普通なら両親に加護が付いて喜ぶのじゃが、まさかそれがお節介になる者もいたとはのぅ」


 俺はずっとずっと小さな頃から自分の両親が嫌いで仕方がなかった。まず俺の要領の悪さに失望し、成長するにつれて醜さを増していく風貌に愛想を尽かし、次第に微塵も抱いてなかったはずの期待を裏切ったなどと難癖をつけて不条理に俺を責め立てた。


 いつだって俺は必死だった。要領が悪くて相手がイライラするのなら腰を低くして少しでも揉め事を避けるように努めてきた。


 見た目が悪くて第一印象が最悪なのだから、せめて誰の記憶にも留まらぬようこちらから接することを避けてきた。


 そして期待に添えられなかったのならば、せめて言いなりになろうと不向きな肉体労働に身を置いてなけなしの対価を差し出してきた。


 それでも……それでもまだ嫌われ続けるのだから俺の心には不条理な仕打ちに対する怒りが何十年もの間積み重なり続けた。その怒りはエシャーティたちと出会って心にゆとりが生まれても、決して消え去ることはなく俺の記憶にへばりついたままだった。


「色々と俺を虐げてきたヤツらもいたが、その中の誰よりも先に俺の両親には死んでもらう」

「じゃが、生憎そなたの両親は神を何人も倒した者の親として勝手に加護が付いておった。神殺しの正反対の加護……冥護の加護が」

「皮肉すぎる加護だ。どんなことがあっても俺の両親は寿命を全うするまで神様たちに守られて死なない体になってるとはな」

「さらに万が一その加護を貫いて殺されたとしても、どこか異世界へ必ず転生する二段構えの加護だとはのぅ〜」


 俺はあまりにも多くのわがままをアトランティスでしすぎてしまった。自分のやりたい事を押し通すためにガイアを倒し、アトラスも二度倒し、さらに天使も倒してしまっていた。その結果こうしてこの世界へ帰ってこれたわけだが、俺にとっていい事だらけでは無かったということだ。


 強大な力を持つ神々にとって死ぬという行為は数千年に一度あるかないかの大イベントであり、しかもリスポーンするから死というものが軽い扱いである。そこへ短期間でド派手に、ドラマチックに俺が何体もの神を倒したという事実は天界に大きな賑わいをもたらしたようなのだ。


 そして久々に、それこそ神々の最終戦争(ラグナログ)に匹敵するほどの面白い出来事を巻き起こしてくれた俺に対して、何か礼をしようという事になった結果が俺の両親の不死身化。お節介にも程がある。


「けどたった一つだけ、俺には理不尽を押し通せる最強の力が備わっている……」

「そう。神をも殺す破壊の呪文(エリミネーション)……」

「アトランティスで無制限に使えたエリミネーションはこっちじゃ使えないものだろうと思い込んでいたけど、どうなんだ?」

「天界からそなたを詳しく見た結果、エリミネーション自体はそなたが元来持っている技じゃった。じゃが異世界(アトランティス)とは違い強力な封印が施されておる」

「つまりエリミネーションを使えるけど、それには封印を解かなければいけないんだな?」

「左様じゃ」


 この世界でマキマキおじさんを召喚してから、密かに俺はエリミネーションを使えないか調べてもらっていたのだ。というのも、実はマキマキおじさんが時間を止められると知った俺はアグニャたちには内緒で一度家に帰り、怒りに任せて両親を殺そうと試してみた事があったのだ。


 マキマキおじさんに時間を止めてもらい、俺は母の頚椎を全力で捻り潰し、父の頭を車の窓ガラスを緊急時に破砕するハンマーポンチで何十回も刺しまくった。さらには念入りに2、30回ほど家の二階から地面へと投げ飛ばし、仕上げにスタッドタイヤ(というか、単にタイヤの内側から釘を打っただけのボロタイヤ)を装着した原付で数時間以上に渡り両親をひきまくったのだ。


 時間が止まっているので目に見えるダメージは無いものだと思い、俺は道路に横たわった両親を見下しながらマキマキおじさんに時間停止の解除を告げた。すると……


「なあ母さん、最近あの親不孝者いなくね?」

「そうね〜。やっと出てってくれたわね〜……って、あれ!?」

「な、な、なんで外なんだ……あ! お前〜!!」

「まー! 最近見なかったから何処ぞでくたばったかと思ったのに、ノコノコ顔を出して!」

「ほんとだぞ、手切れ金も寄越さずに出ていったクセに、どのツラ下げて親の前に顔出せるんだ? お?」

「う、う、う……うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「おい、どこへ行くんじゃ!」

「頭の出来が悪い子を持つと疲れるわね」

「母さんや、家の鍵を交換しといてよかったねぇ」

「念のためにもうしばらくは戸締まりを強化しましょう」

「ぬ、ぬぅ、なんて親じゃ。鬼かこいつら」


 なんと俺の必死の数時間などまるで無かったかのようにピンピンしてやがった。その後も遠くからアイロンやトンカチなどを投げつけて攻撃してみたが、ちょっと痛みを感じるだけでダメージが通らなかったのだ……!


 それをマキマキおじさんに相談したら件の冥護なる加護が付与されていたと判明し、どうしたらそれを破れるか相談し合った結果、エリミネーションに行き着いたワケだ。


 そしてエリミネーションをどうしたら再び使えるようになるか、マキマキおじさんは時たま天界に行って調べてくれていたのだ。今日は遂にエリミネーションの発動条件が判明したようで、俺の復讐心も心躍っている。


「さて、エリミネーションをこの世界で使う条件だが……正直かなりキツい条件じゃよ?」

「もったいぶってないで早く!」

「条件とは……大事な物を一つ捧げる度に、一度だけエリミネーションの封印が解けるというものじゃ」

「大事な物を捧げるって……つ、つまりアグニャを生贄に!?」

「それもありじゃが、他にもそなたの記憶や視界の自由といったものも含まれていよう……」

「記憶や視界か……それはデカいな」


 けれどエリミネーションの破壊力を考えれば安いものでもある。なんせ一度放てば絶対の破壊を巻き起こし、どのような加護があって相手が神であろうと無条件で倒すことができる呪文なのだから。


 しかもマキマキおじさんはエリミネーションについてもう一つ嬉しい情報を教えてくれた。


「そうそう、おぬしが何度も使ううちにエリミネーションも成長し、異世界渡航の実行がキッカケで”存在の除去”という効果が加わったようじゃ」

「存在の除去? どういうモノなんだそれ」

「ワシら神にとって身の毛もよだつ効果じゃよ……あのな、今までのエリミネーションは単に強大な破壊をするだけじゃったろう」

「そうだな。それで十分最強だったが」

「実はのぅ、今までエリミネーションで倒された人間のうち僅かではあるが、そなたらのように奇跡に恵まれて異世界転生した者もおったんじゃよ」


 まああんだけたくさんの人々を、それこそアトランティスの全人類をエリミネーションしたんだから、限りなく低い確率とはいえ数撃ちゃ当たる戦法で数人くらいはアトランティスから別の異世界へ転生した者もいるだろうな。


 けどそれがエリミネーションの進化についてどう関係するんだろうか。存在の除去と異世界転生って何の関係性も無さそうな単語同士だけど……


「ズバリ、存在の除去とは神のリスポーン性すら破壊し、それに近い現象である異世界転生の奇跡性すらも破壊してしまうえげつない効果じゃ!」

「……え、それヤバくね? じゃあ例えばさ、これからマキマキおじさんにエリミネーションしたらもう二度と復活できないの?」

「安心せい! ワシは既に耐性が付いとるから多分大丈夫じゃ!」

「ホントかよ。クソ、確かに強くなってるけどさぁ、どれもこれもお節介なんだよ!」


 両親の冥護といい、エリミネーションの進化といい、勝手に恩恵を押し付けてこられてもこっちは迷惑しちゃうよ。


 もしもマキマキおじさんに誤射して消し飛ばし、しかもリスポーンできないとなるとさすがに俺は泣くよ。こんな巻きヒゲで変な格好したおっさんでもさ、もう長いこと一緒にいて色んな事を乗り越えた大事な友達なんだから……


「なにが存在の除去だよ。不便なだけじゃねえか……」

「何故そんなに浮かない顔をする? 存在の除去のおかげであの両親にキッチリ復讐できるのじゃぞ」

「ん? どういうことだ?」

「あの両親は現在強力な冥護により、従来のエリミネーションで倒したとしてもどこか異世界へ転生し再び冥護の元に安寧の日々を送るじゃろう」

「考えただけでもムシが良すぎてイライラする」

「ところが進化エリミネーションじゃと、その転生の奇跡も確実に破壊するどころか、輪廻転生の輪からも除外されてしまうじゃろう」

「輪廻転生の輪を除外されたらどうなるんだ……?」

「生物みんなが持っている、生きて死ぬ喜びを奪われた者の末路は……ああ、恐ろしすぎて言えないのじゃ」


 いつもひょうきんな態度でシリアスさを微塵も感じさせない”あの”マキマキおじさんが、想像だけで身を縮こまらせて震え始めている。結局どうなるのか分からないが、とんでもなく恐ろしい事になるのは確かだろう。


 ……なんだ、それなら俺の復讐に使うのにちょうどいいじゃないか。あのクズどもには死んでも晴らしきれない恨みが積み重なっているんだ。どれだけ恐ろしい目にあっても晴らしきれないくらいのな。


 けれど両親二人に対して復讐するのなら、異世界でアトラスと最終決戦した時のように腕にエリミネーションのパワーを込めて放つ感じになるだろう。


 基本的にエリミネーションは超広範囲を破壊して大勢を巻き込む技だが、ガイアやアトラスなどの強力な相手に使う時は一点集中型になっていた。それは恐らく相手の持つ守護能力を突破するためにそうなってるのだと思う。


 ということは強力な加護である冥護を得た俺の両親も、一度のエリミネーションで一人しか倒せないはず。ということは……


 俺は大事な物を二つも捧げないといけないってことだ。



ガイア「最近オッくんが人間界と天界を頻繁に往復してて気になる……」

ガイア「まさかかわいい人間の子に心を奪われたのだろうか!?」

ガイア「気になる……母親として非常に気になる!」

マキおじ「さーて、調べ物も終わったし地球へ行くかのー」

ガイア「キタッ! オッくんの後をこっそりつけちゃお!」

ガイア「コソコソ……」

ガイア「……」

ガイア「なんかうちの息子、汚えおっさんと密会してるんだけど……」

ガイア「まっ、多様性の時代ですものね!」


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