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入浴タイム


 ゴロの送迎を終えた俺たちは夜飯を食いながら先ほど体験した事をエシャーティたちへ語る。特にアダムがはしゃぎながら色々と感想を言ってるのが新鮮でおもしろい光景だ。そして車を知らぬ乙女たちはそのエキセントリックな話に釘付け。口達者な男め。羨ましいぞ。


「それでな、黒いスポーツカーとやらは恐ろしく速かったんだよ。もしや俺、またエリミネーションされたのかとビビっちゃったぜ!」

「エリミネーション!? 車ってそんなすごいの。よくもまあ無事だったわね〜」

「いや! 実は道に生えてた電柱という木に危うくぶつかりそうになったのだ。それを車がひとりでに止まって九死に一生を得た」

「あれはヤバかったミャ〜。おじちゃんが調子に乗って飛ばしてたから少し尻尾で叩いたら、まさかあんにゃ目に遭うにゃんて」

「うう、車って怖そうだな……」

「そんな事ないぞイブ。次に乗った白い車はまるで動く城のような安心感があった!」

「お、お城!」


 城という例えにキラキラと目を輝かせるイブ。やっぱり乙女はロマンチックな単語に惹かれる生き物なんですね。おじさん勉強になりました。


 ちなみにエシャーティは城のような白い車と聞いて何か思い当たる節があるのか、そこまで目を輝かせていなかった。この反応の差は一体?


「城のように大きくて白い車、ねぇ」

「あんまり興味が湧かないようだな」

「だってそれ、救急車とまるきり同じじゃない」

「あー、そっか。エシャーティは救急車なんて乗り慣れてて面白いイメージが無いのか」

「そうなの。それに救急車って車とはいえずっと寝転がされてるだけでつまんないし」

「安心しろ、救急車とは全く別物だからきっと楽しいはずだぞ」

「そうだみゃ〜。あれはデッカいし落ち着くし、にゃによりおじちゃんが無謀運転しにゃいし」


 そ、それはもうホントに申し訳ございません。でも車のオーナーであるゴロがあの荒い運転を気に入り、毎度ご所望だから期待に応えなきゃ悪いだろ。まあでもさすがにミニバンで飛ばせ、と頼むことはないだろう。


 おしゃべりをしながら夕飯を大勢で食べる。その何てことない生活に俺は心から満ちてくる充足感に笑顔が浮かぶ。


 そして飯を食ったら各々入浴をすることに。さてさて、俺は第30話でも言ったように体臭がしないよう気を使っていて、そのために結構な長風呂をしている。


 なのでみんなが入浴を終えてから俺は風呂に入ろうと思って様子をうかがっているのだ。このエシャーティの部屋の隣にはエシャーティのためだけに設えられた浴室があるので、誰か入りに行くのをジッと待っている。


 しかし何故か誰も入りに行く様子がない。何を躊躇しているんだ?


「誰も風呂に入らんのか?」

「風呂か……実は俺とイブは浴室の使い方が分からず、毎度水を浴びて寒い思いをしてるのだ」

「医者も今日は体力を使うことは控えろと言ってたので、風邪をひきそうだし入浴は控えようと……」

「そうだったのか。お湯の出し方教えるから入ってくればいいよ」


 アダムたちはどうやらシャワーとかの温度調整が出来ずにいて困ってたようだ。まあ温度の調整など一瞬で覚えられるから無事に解決と。


 一安心した様子のアダムたちを見たエシャーティも、ついでとばかりに悩みを打ち明けてきた。さてさて何かな、おじさん相談に乗るよ。


「あ、あの、実はあたし、今まで看護師に入れてもらってて自分で入れない……」

「ええっ!? エシャーティおまえ……異世界ではどうしてたんだよ!?」

「異世界だと力があったし、助けた人たちが宿を貸してくれた時に一緒に入浴したりして清潔にしてたわよ!」

「なるほど。でも困ったな、補助できそうなイブは今ちょっと弱ってるし、アグニャはそもそも入る気が皆無だし」

「みゃん! お風呂はイヤだみゃ!」


 入浴一つとってもここにいる人たちは一苦労するようだ。イブはアダムと一緒に入ればいいとして、アグニャは俺が強制的に入れさせる。エシャーティは……


 今までは看護師に補助してもらい入浴していたと言うし看護師を呼ぼうと思ったが、一つ気になることがある。エシャーティの入浴は毎日の日常であるから、決まった時間になると看護師の方からこの病室へやって来てエシャーティを浴室へ連れて行ってくれるものなのじゃないか?


 なのにそのような感じが全くせず、それどころかエシャーティは何だか自力で入るような素振りを見せている。ということは……


「エシャーティ、もしかして自力で風呂に入ってみたかったりする?」

「……うん。でもちょっとだけ不安」

「そうだよな。それじゃ看護師を呼ぶか?」

「待つニャ。それじゃ今までと同じじゃにゃいかみゃ」

「そうだな」

「じゃあ……エシャーティをお風呂に入れてあげるミャ!」


 アグニャの提案に思わず俺は耳を疑った。あの風呂が苦手で油断するとまだ体中に泡がついてるのに体を拭いて水浴びを終えていたアグニャが、なんと自分から風呂を入る事を選んだのだ!


 いくら人の姿をしていても元々ネコだったアグニャは、お湯に体を浸すだけで限界を迎えてしまいエシャーティの入浴を手伝うどころではないだろう。しかし困り果てているエシャーティを見たアグニャは、自分の苦手を押し殺してでも手を差し伸べているではないか。


「えらい……えらすぎるぞアグニャ! なんて優しい子なんだ! そんなにエシャーティを大切に思ってるなんて見直したぞ! ほれわしわし!」

「にゃ、ふにゃ、にゃぁぁぁぁぁご!」

「アグニャ……あたし、アグニャとなら頑張れるかも! 苦労をかけるけど一緒に入ろっか! もふもふ〜!」

「みゃっ、みゃっ、そこはさわるニャ……ゴロゴロゴロ……」

「うわぁ〜、私も触りたい! 尻尾! 尻尾掴んでいいのかな! グニグニグニ!」

「みゃぁ〜ご!?」

「おいおい、俺だけ仲間はずれはよせよ。そうだなぁ、その大きな耳に一度手を突っ込んでみたかったんだ。ズボズボ……」

「にゃ……にゃんごろにゃァァァァァん!」


 えらいぞアグニャ、やさしいぞアグニャァァァァァァァ!


 みんなから可愛がられて悶える姿もエレガントだな、アグニャァァァァァァァ!


 四方八方からの優しい刺激に顔を歪ませながらヘバってしまうも、誰一人としてナデナデを止めないから段々四つん這いになって腰が上がってきてるなアグニャァァァァァァァ!


 ちょっと変な声が出始めそうだからそろそろ止めてあげるね、アグニャァァァァァァァ!


「ピクピク」

「人間と同じ姿なのに触り心地はネコなのよね。堪能した〜」

「とても太くてたくましい尻尾だった。しかし段々ブルブルと小刻みに震えたのはやりすぎたかな」

「俺の手首まで耳に入っていったが、いったい俺はドコを触っていたんだろう?」

「よし、みんなアグニャをかわいがったな! それじゃアダム、お湯の出し方を教えるからイブと一緒に風呂場で待っててくれ!」

「えっ!? ちょ、ちょっと待て、私は一人で……」

「おう! さあイブ、キレイにしてやるからな〜。お着替えも持っていって、俺が色々手伝うからな〜!」

「おいアダム! 勝手に車椅子を押すなァ! 私にも心の準備が……あァ〜!」


 おやおやおや、てっきりあいつらは既にそういう仲だったと思っていたがそうではなかったようだな。しかしアダムは本心からイブの助けになろうとしてて下心とかが無いのがまた微笑ましい。イブとしてはたまったものじゃなかろうが。


 さて、それじゃこの無防備にヘバッてるニャンコロとエシャーティ嬢のお風呂の用意をするとしましょうかね。えっと、アグニャのお着替えは〜っと!


「フンフンフフーン! パジャマよし、タオルよし、おパンツよし!」

「あたしもお風呂の準備しよっと! ねえねえ、クシとか持ってる?」

「おう、もちろんだ! アグニャのために最近買ったヤツがあるぞ!」

「ありがと! 自分で髪を梳かしたり、友達の髪を梳かすのやってみたかったんだ〜」

「それなら後でイブにやり方を教えてもらうといいな。うんうん、人がいっぱいいると色々出来て楽しいなぁ」

「そうね、ホントに毎日が楽しい。これからこんな生活が永遠に続くなんて……最高っ!」


 日頃の行動一つとってもここにいる者たちにとってはとても大きな羨望の果てに勝ち取ったものなんだ。だから何気ない動作の一つ一つに生きることに対する喜びが覗き、それが結果的に人を惹きつける魅力になっている。


 だからエシャーティもアグニャも、アダムもイブも美しいのだ。生きることを心から楽しんでいるヤツらは本当に純粋な存在だ。


 そんな中に俺はいる。その輪の中心にいると自信を持って言える。だからそろそろ、この世界で俺がやりたかった事をして踏ん切りをつけようと思うのだ。




マキおじ「女子たちのおしゃべりがヒートアップし、だんだんワシにも飛び火したのでいったん部屋から出たのじゃが……」

マキおじ「またあの自動ドアとやらに行く手を阻まれてしまったのじゃァァァ!」

マキおじ「しかもこの病院の自販機にはシークァァァァァが置いてなかったし……」

マキおじ「メソメソ」

アダム「おい、こんなところで何を泣いているのだ、オケアノス」

イブ「どうして自販機の前で縮こまってるんだろう……」

マキおじ「そなたらは……アトラスの信者ッ! 入れてくれー! ここを開けてくれー! もう独りはイヤなのじゃあ!」

アダム「若干キモいな」

イブ「うん、キモいね」


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