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白デブピッピーへ乗り換え


 色々とあってはならない事もあったが今日も無事にゴロを家へと送り届けることが出来た。ここ最近の日課となりつつあるが、未だ高級車の並ぶガレージに俺のボロいピッピーが居座っているのに見慣れない。


「いや、ほんとに申し訳ない。こういう枕一つとっても高いもんだろ、必ず弁償するから許してくれ……」

「みゃあ、ごめんにゃさい」

「こんなのいつか破けたりしたら取り替えたりするモノじゃないか。気にしないでって」

「エリミネーターも神獣もそんなに腐ってると逆に迷惑だぞ。許すと言ってるのだから、いつか報いて返せばいいではないか」

「それもそうか……うし、次からは絶対にアオーゥされても取り乱さないぞ!」


 アダムの慰めに吹っ切れた俺は改めて安全運転への意識を持ち直し、高らかに無事故宣言を発した。無違反? なんですかそれ?


「ところで話は変わるけどさ、エシャーティやイブさんもそのうち車に乗るんだよね?」

「そうだな〜。となると俺とゴロが運転をして二台体制で行くことになるな」

「それかボクの嫁がいつも使ってるミニバンを使うかい? 一応7人乗りだから全員乗れるよ」

「7人も乗れる車が存在するというのか!?」

「まるでバスだミャ〜」

「外にあるから見に行こうか。いや〜、嫁はガレージにいちいち入れたがらなくてね、野晒しなんだ」


 ゴロに連れられてガレージの脇へと向かうと、まるでちょっとした家にすら感じる巨大なミニバンが雑に停められていた。敷地が広いからノビノビと置けていいですね。


「あっ、このタイプの車は街でいっぱい見かけたな。コレなら確かに大勢乗れそうだ」

「にゃんか近づいて見ると想像以上にデカくてカッコいいミャ」

「長さは五メーター、高さに至っては二メーターだからね。車内でアグニャちゃんやエシャーティが余裕でウロウロできるよ」

「五メーター!? デッケぇ〜! アメリカサイズじゃねえか!」

「高さが二メーターあるということは、俺が中で立ち上がれるのではないか?」

「残念、車両全体は二メーターだけど室内はもっと低いんだな」

「そうか……でもさっきの黒い車が二台積み重ねられてるくらいデカいし、別次元だろうな」


 さらっとアダムはメートルを理解しているが、アトランティスは結構単位の基準がこの世界と同じだったりするのだろうか。便利な世の中だ。それか天界で神様たちが面倒じゃないように仕組んでたりして。


 超ド級の車体に俺たちはなんだか感動しながら見続けていたら、ゴロが鍵を持ってきて車内も実際に見せてくれた。


「うーむ、実は俺、スライドドアを開けるのは初めてなんだ」

「へぇ〜、意外だね。肉体労働の現場ってスライドドアが付いてるワゴン車使ってるイメージあるけど」

「たまたまトラックとかにしか縁がなくてな〜」

「それじゃ電動スライドだけど手で開けてみるかい? めちゃくちゃ重いけど」

「おお、やるやる!」

「この二人が何を言ってるのか分かるか、神獣」

「分からにゃいけど気にしにゃいでいいミャ〜」


 ゴロが電動スライドドアのスイッチをオフにしてくれたので、いざスライドドア初体験といこうじゃないか!


 ドアノブを引き、傷つけたり壊さないよう慎重に優しく横へ動かして……う、動かない!?


「ムゥっ!? 片手じゃ全開まで持っていけない!?」

「あー、まあ若干ここは傾斜ついてるしね」

「どうしたエリミネーター、情けないではないか。俺に貸してみろ!」

「ああ、やってみろアダム。まるで石化したアトラスのようだぜ」

「ほほう、どれ……フンガァァァ!」

「シャー……ぱたん」

「みゃあ〜、ちょっとだけ動いたけど自重で閉じちゃったにゃあ」

「おい、今の見たか!? 半ドア無効のオートクローズでドアを勝手に引き込んだぞ!! かっこよすぎだろ!」

「おじちゃんは一体どこを見てにゃにを言ってるんだミャ」


 だってオートクローズだぞ! シュパ〜って近代的な音を発しながらドアが勝手に閉じきるんだぜ! これを目の当たりにして興奮しないほうがおかしいだろ。うわぁ〜、すごいなぁ、欲しいなぁ〜!


 とまあ個人的な性癖を披露するのはここまでにしておいて、疲れを露わにしてきたアダムを見かねたゴロが電動スライドをオンにして開けてくれた。あんなに重たいドアがスルスルと開いていく様に、俺とアダムは挑戦したが故の感動を覚えた。


「すごい、すごいぞこの車ッ! まるで病院にあった透明な戸のように親切ではないか!」

「おお、お前なら文明のすごさに共感すると思ってたよアダム。すごいよなぁ、最高だよなぁ」

「はっはっは、二人ともまだまだこれからだよ。ほら、足元……」

「にゃあ〜、足場がニュって出てきたミャ」

「なにっ、これはイギリス仕様車のオプション、オートステップじゃないか!」

「実はこれ、日本メーカーだけど輸入車なんだよね。うちの車はほぼ外車だから一つだけウィンカー逆だと嫁が間違えそうでさ〜」

「ああ、なんか分からんが医者の言ってる事のすごさが分かる気がするぞ。俺なんかが乗っても良いのだろうか……」

「あ、コイツもバカだみゃ!」


 とか言いつつアグニャちゃんもデッカいピッピーを前にしてなんだか尻尾がふりふりしてるじゃないの。ホントはどうなってるのか気になって仕方ないんだろ。素直じゃないんだから。


 アダムと俺はオートステップだけでは飽き足らず、シートについているいくつものレバー類にすら感嘆の声をあげて見とれ、アグニャは実際にミニバンの中へと乗り込んでその広さを満喫していた。


 モッサモサの毛に覆われた長い尻尾の取り回しに気を使うこともなく、ネコとして狭いところへ潜り込みたくなる本能の赴くまま、まるで吸い込まれるように最後部の三列目シートへ座って中をキョロキョロしている。めちゃくちゃ楽しそうである。


「うみゃあ〜、このイスすごくフィットするミャ。いい感じに落ち着く広さだし窓が開かにゃい以外は完璧だみゃ!」

「窓は開かないけど日除けが付いてるよ。スポーツカーと違って自力で出す必要があるけど」

「天井に付いてる穴はにゃんにゃん?」

「エアコンの風が出るんだ。ふふ、すっかり気に入ったみたいだね」

「にゃあ〜ご。こてん」


 最近のミニバンってすげえな。一番後ろにもエアコンの吹き出し口が備わっているのか。それにカップホルダーや小物入れも小振りながら備わっているし、マキマキおじさんのように大柄な人でもしっかりと乗れる空間が広がっているじゃないか。


 そしてさも当然のようにアグニャがニ列目シートの合間を通っていったが、これがまた非常にスキマが大きくて行き来しやすそうだ。ところでこの車、俺の記憶が確かなら上級グレードはニ列目がパワーシートだったような……


「なんかゴロの愛車だから問答無用の上級グレードかと思ってたが、実用的なトコを突いてきたな」

「お、気づいてもらえて嬉しいよ。ミニバンの後部座席は人力シートのほうが素早く動かせるし、シートの調整幅も大きいしね」

「うーん、渋いチョイス。でも快適装備はふんだんにオプション付けててシート以外は実質最上グレードだな」

「すごいぞエリミネーター、このレバーを引くとシートが前後左右に行ったり来たりする! このボタンはなんだろうか!?」

「それは天井のライトの色が変えられるボタン。エンジン付けたら機能するよ」


 薄々目に入っていたが天井全体に大きな照明が走っていて、しかもその色が変えられる機能まであったのか……


 よく見るとニ列目シートには足置きまで生えてやがるし、さすがに外車のスポーツカーと違って冷蔵庫は無いようだが代わりに巨大なモニターが天井に隠されていた。


 うーん、町中でよく見かけるこのミニバンだが、みんな金持ってんだな。この車両に付いてる機能の一つか二つでも付いてたら立派な高級車だぞ。強者人類多すぎだろ、日本!


「みんなこの車を気に入ってくれたようでボクも嬉しいよ。これならエシャーティたちも余裕で乗れるし、今度からこっちで移動しようか」

「でもこっちは奥さんが子供の送迎で使ってるんだろ? 俺たちが使ってもいいのか」

「それなんだけどね、実は嫁がキミの車をかわいいって気に入っちゃってさ。あっちを使いたいって言ってるんだ。もちろん勝手に使ってはいないけど」

「なんだなんだ、あんなボロなんて好きに乗ってくれていいよ。それこそぶつけても全然いいって」

「ほんとかい! いや〜、嫁も子供も喜ぶよ。ありがとう」


 あんな古くて安い車で喜んでくれるなら俺はいくらでも貸すよ。というか自分の物だと思って好き勝手に使ってくれて構わないくらいだ。そもそもこちらが借りてる車のほうがよっぽどいい車だし。


 というわけで俺たちは高級スポーツカーから一転、実用的なラグジュアリーミニバンへと乗り換えることになった。アグニャはすっかり後ろの席を気に入ってるし、アダムもニ列目の豪華な席と開放感に満面の笑みだ。


「それじゃまた明日の朝、迎えをお願いするよ」

「了解! いつもありがとな、それじゃ!」

「みゃ〜! バイバイだニャ〜」

「しかしエリミネーターはこんな大きな車も動かせてすごいな。尊敬するぞ」

「へへっ、馬車のほうがよっぽど難しいぜ。今度運転してみるか?」

「お、それいいね。ボクの所有土地に広い空き地があるから、今度みんなで運転しに行こっか」

「さすが金持ち! なんでも出来るな」


 別れ際に少し先の予定を立てて俺たちは豪邸から立ち去った。ハイブリッド特有の静粛さとスポーツカーとは別の次元で良い乗り心地が後ろに座るアグニャたちをすぐに夢の世界へと誘い、俺は久しぶりにマイペースなドライブを楽しんだ。



エシャーティ「で、アダムとはいつから仲良くなったのよ〜」

イブ「そっちだってあのおじさんとはいつからデキてたのだ〜」

エシャーティ「あのおじさんはねぇ……あたしを女の子としか見てないのよ。あたしは大人なのに!」

イブ「奇遇だな……アダムも私の玉砕覚悟の誘惑にいつも曖昧な返事ばかりするのだ。女々しい!」

エシャーティ「あなたも苦労してるのね! もぅ、男って本当に女々しいんだから」

イブ「まったくだ! あいつらはあんなイイ肉体美してるクセに、肝が小さくてたまらん!」

マキおじ(めちゃくちゃ居づらいのぅ)


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