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賑わいを増す日常


 そういえばエシャーティの体力測定の結果はというと、マキマキおじさんのクァァが効いたのか、はたまたゴロの腕が凄まじくよかったのか、もしくは異世界で過ごした際にいっぱい運動したのを身体が覚えていてくれたのか、あるいはその全てが合わさったのか知らないが普通では考えられない良好な数値を叩き出していたようだ。


 思えば最初に握力を計ったときからずっと寝たきりにしては良い数字を出していたし、明日からは少しずつ自分の足で外を歩いてみよう、ということになった。


「イブの臓器が最高に体に馴染んでるみたい! 気分は絶好調だよ!」

「喜んでくれて私もなによりだ。私も腰回りがほっそりとして嬉しいしな。ほら」

「ほんとだ! 車椅子に座ってたから気づかなかったけど、すごく痩せたね〜」

「イブさんの生活に支障がないようにはしてるけど、もし体調が悪くなったりしたらいつでもボクかエシャーティを呼んでね」

「あたしたちは世界的な名医だから安心してよね!」

「それは心強いな。ありがとう」


 イブとエシャーティは臓器をやり取りした関係で急速に仲良くなっていて微笑ましい。アダムも色々と話をしてみるとこの世界の文明に興味を持ち、俺やアグニャに色々な機械などをどういう事に利用するのかを聞いてきたりしてこの世を楽しんでいる。こういう順応性の高さは人生を楽しいものにするから、40を迎えた俺も見習いたいものだ。


「それではイブの座っている車椅子とやらに付いている黒い輪がタイヤという物か」

「そうそう! アトランティスの馬車は木枠に鉄をリベット打ちしてて乗り心地が固かったけど、タイヤは衝撃を吸収するから優しい乗り味だぜ」

「う、うむ、その節では理不尽に捕まえてしまってすまなかった。あの時の俺はお前を見た目で悪者と見なして失礼をしてしまった。本当にすまない」

「みゃあ! 許すミャ! そもそもあの草原からは自力で出れにゃかったし」

「アグニャの言う通りだ。もしアダムがパトロールしてなかったら野垂れ死んでた可能性があったし」

「……この世界を頼ってよかった。お前たちの本当の姿を見れぬまま一生を終えるのは、余りに惜しい事だからな」


 な、なんだよ照れくさいな。お前そういうキャラだったっけ? もしかして初期も初期に登場したから自分がどういうキャラだったか忘れたとかじゃないよな。もっとこう、イキった精悍な男って感じだったんだけど。


 まあでもアダムとイブがとてもいいやつなのは少し一緒に過ごして分かった。こいつらならかつて敵だった相手にも無条件で臓器を分け与えようとするし、自分たちの故郷を蘇らせるためにそこを破壊し尽くした相手に頭を下げる事もしちゃう純粋さがあるって納得したもん。


 エシャーティといいコイツらといい、なんか俺の周りの人間は第一印象は最悪なのに親しくなるとめちゃくちゃ良いやつだったってパターンが多いな。


「……さて、それじゃボクはそろそろ帰るとしようかな」

「よし、それじゃ今日も俺が送ってくぜ」

「みゃん〜。一緒に行くにゃ!」

「なんだなんだ、どこへ行くんだ?」

「ゴロは家庭持ちだから夜はお家に帰るのよ。そうだ、アダムも車に乗せてもらえば?」

「なに!? いいのか!?」

「全然構わないよ。ボクの車は4人乗れるし、トラックに乗る前に慣れといたほうがいいしね」

「いいな〜アダム、私も乗りたいな」

「あなたはまだ体力が戻ってないからあたしと待っときましょう。あのね、あたしも普通の車は乗ったことないんだよ」

「ほんとか! ねえアダム、どんなだったか帰ってきたら教えてね」


 女の子たちはあいにく体が弱っているのでまた今度ということになった。まああの二人はみるみるスタミナを取り戻していって、一緒に立ち上がったりして窓の外を眺めたりしてるし近いうちに夢は叶うことだろう。


 そうだ、せっかくだからこの”生まれて初めてエンジンの付いた乗り物を味わう男”をゴロにスマホで撮影しておいてもらおう。こういう思い出をきちんと形として残すのはとても大事なことだからね。


「アダムくん、これが車だよ。乗るのは怖いかい?」

「ふっ、医者よ……俺は元々は馬車の運転をしていた男だ。こういう物は勝手は違えど慣れているぜ」

「ほほーう、言うじゃない。じゃあキミ、”いつものコース”でお願いするよ」

「みゃあ〜……またアレかみゃ……」

「へへっ、ダンナさんもエリミネーションに虜ですねェ! ほいじゃアダム、シートベルトを付けて……怖かったら目を閉じろよッ!」

「どんと来いッ! 車とやら!」


 ……美しい漆黒のボディがいつものように一呼吸のセルをモーターし、その心臓にエレガントな鼓動を奏で始めた。さあ、毎度お馴染みのエリミネーションコースの始まりだぜ!


「コォォォォォォ……ピロロロカァァァァァン! バグダッ! スコーン!?」

「うにゃァァァァ! にゃんか乗るたびに聞いたことにゃい新しい音が増えてくみゃ!」

「おいエリミネーター、こ、こわいぞ! まるでエリミネーションで吹っ飛ばされた時のスピード感だぞ!?」

「へぇー! ていうことは、ボクの車は異世界スケールなんだ! 随分と異世界とやらは遅い世界線みたいだね、ええ!? もっと速いもんだと思ったけどなァ〜!」

「へっへっへ、そのとおりでさ! みんな捕まれよ、でなきゃ捕まるぜ!」

「どういう意味だみゃァァァァァ!!」

「あっ、イブの幻影が見える……」


 おいおいアダム、エリミネーションをアトラス越しとはいえ食らった経験のある男がただ車でドライブするだけで情けない声をあげるなんて、イブたちにはとても見せられねえな〜?


 まっ、はしゃぎながら後ろでカメラを回しているゴロには悪いけど、この映像は武士の情けとして誰にも見せないでおくとしようじゃないか。決してなにかあった時に脅しの材料として使おうとか、そんなんじゃないからな?


「ピロロロ……カァァァァァン!!」

「イブ〜! 馬車は揺れるから身を乗り出すと危ないぜ〜!」

「ぶみゃ〜! アダムが目を閉じて変にゃ事言ってるにゃ!」

「おっ、いい絵だね〜。もらいっ!」

「ゴロ、おみゃえはオニかみゃ……」

「いいぞいいぞ、撮れ高撮れ高!」

「……いい加減にするミ゛ャ。いい車を運転してるからって図に乗るにゃにゃ!」

「うわっなんだ!? アオーゥ!!」

「アグニャちゃん、運転中にそれはまずいよ! が、がぁ〜!!」

「わっ、どけよ電柱ー!」


 巨大なアルミボディは吸い込まれるように電柱へ……当たらない!! 緊急自動ブレーキ、作動ー!


「ピーピーピー! ワニワニワーニン!」

「ハァー! ハァー! ハァー!」

「絶対に当たると思った……えらいぞ、ボクの車……ガクッ」

「アハハ! アトラス様、天界って極楽ですね!」

「ぷるぷる」

「アグニャ、お前まさか……」

「ぷるぷるぷるぷる!」

「ヤバい! させるかッ!」

「ふにゃァァァァァ」


 ゴロもアダムも気を失っているので、俺は咄嗟にヘッドレストの部分に増設されていた枕のようなクッションを引き裂き、アグニャの股ぐらに突っ込んだ。


 アグニャもクッションを突っ込まれてどうすればいいのかをすかさず察してくれて、上手い具合におしっこをぶち撒けてくれた。


 クッション表面は耐水性に優れた本革が張られており、内部は非常に吸水性の良さそうな綿かなんかが詰められていた。


 つまりいい具合にアグニャの発射口から放たれた耐衝撃防護水は綿を伝って飛び散らずに本革で覆われた空間へと吸収されていき、緊急簡易トイレとして非常に素晴らしい役目を果たしてくれたのだ。


「ぷるぷる……ふみゃ〜」

「終わったか!?」

「おじちゃん、これどうしたらいいミャ……」

「ジッと待ってろ、今トランクからビニール袋持ってくるから!」

「分かったにゃ! ジー……」

「よしよし、えらいぞ。しかしこのクッションいくらするんだろ。金龍くんくらいしそうだな……」

「は、はやく行くにゃ! 染み込むミャ!」

「おおすまんすまん。しかしよく出たなぁ」

「フシャァァァァァァァァァ」


 あんまりからかうとまたアオーゥされそうだし、俺は大急ぎでビニール袋を取ってきてアグニャの使用済みトイレを中に入れた。念のためアグニャに一度降りてもらって被害が無いか確認する。


 結果は人類とネコの機転の勝利であった。確認作業は電柱アタックよりドキドキしたが、パツンと張られた高級シートの座面には一滴の敗北も見当たらず、アグニャの器用さに思わずうなった。


 おや、こんなところに脱ぎ散らされたアグニャのおパンティが!


 ……あ、こっちは少し敗北してる。



ゴロ「どうだい、これがボクの車だよ」

アダム「なんだか街で見かける車より薄らデカいな。さて、どうやって乗るんだ?」

アグニャ「にひひ、窓をノックしたら開くミャ」

アダム「ほう! コンコンコンコン!」

車「パァー! パァー! パァー! パァー!」

アグニャ「ドキーン! ズドドドド!」

アダム「な、なんだこの音は!?」

ゴロ「おや、ちゃんとセキュリティが機能してるね。安心したよ」

おじ「オーナーさん、これどうやって解除するんですか……」

ゴロ「ど、どうやって……? 勝手に鳴り止まないの?」

アグニャ「ズドドドド……ドシーン!」

車「ぷぁ! ガチャリ」

アグニャ「あ、開いたミャ」

アダム「車とやらは開けるのに苦労するのだな」


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