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異世界からの来訪者


 握力測定のほかに上体起こしや柔軟性の測定などまさに中学で行うような体力測定を一通りやった俺たちは、結果をまとめるために私室へ向かったゴロと別れ昼飯を済ませた。


 さて、そろそろ今後の予定を考えるとするか……


「これからどうしよっかなぁ」

「アグニャのお母さんに会うんじゃないの?」

「そうじゃなくて、今無職の身だからエシャーティが退院したあとどうにか職を探して、隣にいても恥ずかしくない男でいないとって思うと不安で」

「そっか、働きたいんだね! あたしももう今すぐにでも医者として人を助けたくてウズウズしてるから分かるよ」

「いや、どちらかというと働きたいワケではない」

「そうなの? そのいいカラダがもったいない」

「おっ、力こぶ触るか?」

「さわるさわる!」


 不意に肉体美を褒められたので少し自慢の力こぶを触らせてあげる。特に鍛えたわけではないがずっと肉体労働の世界に身を置いてきたので、歳の割には結構いいカラダをしている自負がある。


 これで顔があと少し、せめてパーツの一つでもマシだったら少しは生きやすかったのにな。薄毛で繋がりマユで細目で団子っぱなでおちょぼ口で下膨れ。全部乗せすぎて泣けてくるぜ。


「すごいね〜筋肉。あたしもそういうの欲しい!」

「ハッハッハ、欲しかったらくれてやるよ。まああげられたらだけど」

「おっ、ワシのクァァの出番か?」

「遠慮しとくわ」

「即答。ワシ、こっちの世界に来てからはおぬしらに代価として信仰を求めてないのに……」

「だって頼んでないもん」

「みゃあ、いつも勝手に気を引こうとしてやってるニャ」

「なに、みんな今日イライラしてる? シークァァ飲む?」


 うーん、シークワーサージュースも最近結構飲んでるから飽きてきたんだよなぁ。あと小さなことだけど毎回マキマキおじさんがシークワーサーをシークァァって言い直すのが気になるし。


 まあそれは置いといて、ほんとにこれから何をするべきかな。エシャーティはこのまま体力をつけていって働けるほどの状態になったら医者として活動するだろうし、俺はそれを支えるような事をするべきだろうか。


 ……そうだよ、何も無能な俺が一生懸命に力仕事を頑張るよりも頭の造りが別次元のエシャーティとかゴロの元で働けばいいんじゃね?


「なあエシャーティ、医者って助手とか秘書とかつけるものなの?」

「藪から棒にどうしたの。ゴロみたいに院長だったら事務作業とか学会へ赴くこともあるから秘書をつけてる人もいるでしょうけど」

「いや、なにも俺がイヤイヤ肉体労働しなくても医者として活動するエシャーティの助手、つか雑用になればよくね、って思って」

「あなたがあたしの……助手!?」

「みゃ〜、にゃんか想像できにゃい」

「なんだよ、そんな嫌なのか」

「ううん! あたしの夢を支えてくれるってことでしょ!? それってつまりさ……」


 小さな顔を少し赤らめながらモジモジとし始めるエシャーティ。なんだなんだ、また俺なんか妙なことを言ってしまいましたか? 女っ気の無い人生を送っているものでして、言葉選びがヘタクソなのはご愛嬌とみなすってくださいよ、エシャーティのアネゴ。おいら一生懸命カバン持ちしまっせ。うほ、うほほ!


 などとのんきな事を考えていたらガラリと病室のドアが開かれてゴロが入ってきた。何か資料も持っているし体力測定の結果がまとまったのだろうか。


「あら、結果ができたのかしらん」

「それもだけどちょっと別の話があるんだ。こないだ言ってたドナーの提供者さんの事を覚えてるかな」

「なんか怪しい外人さんって言ってたな」

「そうそう。昨日まではキミたちとは面会したくないと言ってたんだけどね、気が変わったのか一度会いたいって言い始めたんだよ」

「どうするみゃん、エシャーティ」

「そんなの決まってるよ、絶対お礼を言うって決めてたもん。今すぐにでも会いたい!」

「そう言うと思ったよ……無害そうだしそもそも臓器をくれた恩人ではあるけど、怪しいよ?」

「へっ、危害を加えそうなら俺が守るって」

「みゃん! おじちゃんはガチれば頼もしいみゃ〜」

「それじゃ部屋に入れるね。おーい」


 ゴロが例の人物とやらを部屋に入れると俺たちはみな固まってしまった。まず一人だと思ってたら男女の二人組だったこと、そしてその顔にはよーく見覚えがあること、さらにそいつらは絶対にこの世界にはいるはずのない人間だってこと。


 あと……俺たちの敵だった人間ってこと。


「探したぞ、エリミネェェェタァァァァ!」

「そこの神獣と重病人も久しぶりだな〜!」

「うわあ、出たァ! おいゴロ、なんてやつら連れて来るんだよ!」

「ひぇ~! ガイア呼ぶ!? 絶対あたしたちにリベンジしに来たのよ! やられちゃう〜!」

「フシャァァァァァァァァァ!!」

「そなたらはワシが……守るッッッッッッ!!」

「ちょ、ちょっとちょっと、みんな落ち着いて!! なんなんだよ、もう! ボクにも分かるように少しは話してよ! 毎度毎度さぁ!」


 この中で唯一当事者ではないゴロが一番デケえ声で最もなことを叫んだ。その慟哭はあまりにもその通りで、俺たちは一度頭の中で次に言おうとしていたトゲトゲ言葉を反芻し、飲み込んだ。そして落ち着いた。さすがは院長先生、人の扱いに慣れてらっしゃる。


「「「「「シーン」」」」」

「うわっ、急に大人しくしないでよ……」

「いや、すまないお医者さん。私達とこの者らはこことは別の世界で死闘を繰り広げた敵同士でな」

「そ、そっか〜、と言っていいのかな……」

「まさかあなたたちがドナーになってくれたの!?」

「いや、ドナーとやらはイブだけが出来るみたいで俺は何もしていない。というかイブは車椅子なのに俺は元気に歩いてるから分かるだろう」

「それもそうだな。しかしよく敵に内蔵分けてくれたな」

「私には心に刻まれた女騎士としての矜持がある。無差別大量破壊をした貴様にはわからんだろうがな」


 うーん、いまいちこの異世界から来た二人組のやりたいこととか言いたいことが分からないな。いったいこの二人は何のためにアトランティスからこの世界へやってきたのだろう。


 まさか俺たちがアトランティスを破壊し尽くして無の世界になったから食料も飲み物も得ることができず、あの後死んでしまったのだろうか!?


「まさかお前ら、俺たちのせいであのまま死んだのか……」

「あ! だから転生して来たのね! なるほど〜」

「勝手に末路を想像して俺たちを殺すな! お前らがぶち壊した世界をイブやアトラス様と共に再生していって、今やあそこは動植物が豊かに暮らす楽園になってるんだぞ!」

「マジで!? やっぱあんたらは俺が尊敬する立派な人間だよ……すごいな、ほんと」

「色々とあったけどあなたたちにドナーをもらって病気を治した事はどれだけ恩を返しても返しきれないわ。イブ、本当にあたしを救ってくれてありがとう」

「な、なんなのだ、急に素直になられると私も照れるじゃないか」

「イブ……そうだな、俺もエリミネーターと対面して思わず取り乱してすまなかった」


 若干俺の事をモンスターみたいな扱いしてる気もするが、まあ実際俺のやってきたわがままな悪事の数々と醜い見た目はモンスターに負けず劣らずだから取り乱すのも無理はない。


 むしろ俺たちが敵対心を捨ててきちんと謝り感謝を告げれば歩み寄ってくれたではないか。このアダムとイブという人間はそういうサッパリしたところが良い。


 ひとまずお互いに持っていたわだかまりも無くなった事だし、俺は気になっていた事をアダムたちから聞くことにした。


「それでお前らはなんで楽園と化したアトランティスからこっちに来たんだ?」

「現在あの世界には動植物こそ豊富にあるが、人類が俺たち二人しかいなくて寂しすぎるのだ」

「そうね、確かにあたしたちが壊滅させちゃったからあなたたち二人だけだといずれ絶滅しちゃうね……」

「わ、わ、私としては二人の力だけで100人くらい人類増やしちゃおっかな〜、とか思ってたんだけどな……なんて」

「え、イブってそういう人なの?」

「エシャーティよ、女騎士って皆そういう人だぞ」

「うわぁ……」

「おいイブ、こいつらが誤解して俺を冷めた目で見てるから変なことを言うな」


 そういえば以前会ったときよりアダムとイブはかなり距離が近くなってて仲良くなってる気がする。二人で一生懸命に終わりを迎えた世界を立て直してる間に友情を超えて恋愛が芽生えたのだろうか。よかったねぇ。


 なんかおじさんはここ最近さぁ、見知った若い子たちが人生を謳歌してるのを見ると嫉妬じゃなくて励ましの念が浮かぶようになってきたわ。今の俺の心に大きなゆとりが出来たからだろうか。


 ニヤニヤしながらアダムたちを見てたらどこか気に触ったのか、それとも照れ隠しだろうか、急にマジメな口調で場を仕切り直してきた。かわいいやつめ。


「まったく……本題に入るとしよう。俺たちはその問題をアトラス様に相談したら、この世界に異世界へ行きたがってる人間が何億人もいると聞いてやってきたのだ」

「あー、まあ、今そういうの流行ってるからなぁ」

「えっ、流行ってるの? あたし流行に疎いけどまさかそんなものが流行ってるなんて! すごいわね!」

「クッ、さすがエリミネーターだな。異世界転生の識者だったとは……」

「いやすまん、誤解だ。異世界転生モノっていう創作が流行ってるだけで、実際に死んだり転生したりして遊んでるやつはいない……はず」

「アトラスさまは異世界転生については実際に2回もこなしてるヤツらが想像してる方法でイケるって仰ってたが」


 え、どういうこと? それはつまり俺とエシャーティとアグニャを指してるんだろうけど、その中の誰を指定してるんだ?


 ……アグニャか! そういえばアグニャはマキマキおじさんと一緒に天界へ行ったから、転生について何か知っててもおかしくないな。というか今ここにマキマキおじさんがいるんだし、コイツらに聞けばいいじゃん。


「なあアグニャ、マキマキおじさん。こいつらがやりたい事を満たすような異世界転生とかある?」

「海神オケアノスよ、私たちはこの世界の人間を少しあちらへ分けていただきたいのだ。出来れば数万人ほど……」

「うーん、異世界転生は3つしか方法がないしのう……あ、でもそなたたち全員が力を合わせれば、無理やりじゃけど意図的にただの人間を指定の世界へ飛ばせるかも」

「おお、さすがはマキマキおじさんだな! やっぱ持つべきものは事情通の神だ!」

「ふぉっふぉ、照れるのぅ」


 おだてられたマキマキおじさんは無駄に大きな顔……じゃなくて頭をかしげながら色々と考えを巡らせ始めた。少しの間思考を張り巡らせた後、何かを閃いた様子で俺たちに異世界転生の例外な方法を提案してきた。


 その方法は俺もよく知っているし、皆さんもきっとどこかで一度くらいは見かけているありふれた方法の”異世界転生”のやり方だった。それは……


「異世界転生とは、トラックにひかれる事じゃ!」



ゴロ「ところでみんなが言ってるエリミネーターってどういう意味なんだい?」

アグニャ「エイミニャーニャーはおじちゃんのことだミャ」

ゴロ「うん?」

アグニャ「おじちゃんは異世界で自分の事をエーミにゃ~みゃ〜って名乗ってたんだにゃあ」

ゴロ「あっ……うん、そ、そっかぁ」


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