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体力測定


 それから夜が明けて翌朝。朝食を済ませた俺たちはエシャーティがどの程度動けるのかを確認するために、エシャーティ専用フロアに用意されたエシャーティ専用リハビリルームにいた。何もかもが専用なのである。もう病気自体は治ったそうなのに、未だ扱いは以前のまま。


 エシャーティが退院したらゴロは生き甲斐を失ってポックリ死んでしまうのではないだろうか、と思わせるほど特別扱いをしている。だってこのリハビリルーム、設置したはいいけど当のエシャーティが使える体調でも無かったからずっと放置されっぱなしだったと言うではないか。絶対スペースの無駄になってたでしょ、ここ。


「どうだいエシャーティ、いつかキミが動けるようにとあらゆる器具を揃えてずっと待ってたんだよ」

「あのねゴロ、あたしはムキムキになりたいわけじゃないよ。どう見てもオーバーな設備じゃない」

「ずっと使われてなかったにしてはホコリも無くてキレイな状態だな」

「昨日業者を呼んで掃除したんだ。さて、それじゃ体力測定をはじめようか」


 そう言うとゴロはマキマキおじさんが物珍しそうに触っていた握力測定器を指さした。てっきりゴロが用意した器具だからえらい高級なデジタル測定器でも用意してるのかと思ったら、案外普通の中学校とかに置いてあるアナログなやつだった。まあこういう小物は無駄にデジタルなものより、電池が要らない方が便利だったりするしな。


「ワシの持ってるコレがどうかしたのか?」

「今から体力測定で使うから貸してくれないかな……うわ! 握力100キロ!?」

「スゲー! マキマキおじさんゴリラかよ!」

「なんじゃなんじゃ、これどうやって使うか分からんからとりあえず指で摘んだが……あってたのか」

「指で……って、人差し指一本!?」


 リセットした握力測定器を渡すともう一度実演してくれたが、ほんとに人差し指一本で針がスケールを振り切ってしまっている。うーん、マキマキおじさんって体格もめちゃくちゃ良いし神だし実はめっちゃ強いのでは?


 まあ今はエシャーティの体力測定をするのが目的だから放っておこう。


「へぇ〜、これを握ればいいのね……結構重たい」

「手の大きさにあわせてレバーをクルクルして調整するんだよ」

「ここね! コリコリコリ」

「なんかエシャーティがやってるとホントに子供が学校で体育してるみたいでほんわかするな」

「しっつれいねー! 見てなさい、異世界仕込みのパワーを見たら子供だなんて言えなくなるわ! ふんぎー!!」


 ぷるぷると右腕を震わせながら必死に握力測定器を握っているが、その結果は悲惨なものだった。アナログな針も「えっ、もう終わり?」と言いたそうに停止した。せっかく握りの部分を丁寧に調節したのに、なんとも悲しい結果になってしまった。


「ふう、どれどれ……わっ! スケール振り切ってスタート地点に戻っちゃってるよ! すごいじゃない、あたし!」

「誠に申し上げにくいのだが、エシャーティの握力は……」

「4キロだね……」

「へぇ〜! それってすごいの?」

「ある意味すごいな。いやでも寝たきりにしてはめちゃくちゃ良い結果か?」

「そうだね、エシャーティの今までの生活環境から予想してた結果を大きく超えてる」

「ふふ〜ん、あんま褒めないでよ〜。そうだ、試しにあなたたちもやってみなさいよ」


 えー、マキマキおじさんとエシャーティがやった後だと面白くないだろ、俺たち普通の人類が普通に握力測るだけの絵面なんて。


 まあでも力に定評がある身としてはやったほうが良いのだろうか。というか俺も自分の握力がどの程度かは気になってたし、20年ぶりにやってみるとしましょうかね……あ、先にゴロが受け取った。


「それじゃ一般男性の平均をお見せしましょうか……ふぐーぐぐぐ!」

「やるじゃない、針が半分を超えたわよ」

「ハァハァ。ま、そんなもんでしょ」

「どれどれ? お、56キロじゃねえか。ジャスト平均って感じですな〜」

「ハハハ、ま、日頃からペンを握ってたのが幸いしたみたい。はいどうぞ」


 ゴロから握力測定器を受け取った俺は正直焦っていた。意外とゴロがいい結果を出してしまったから内心超えられるかドキドキモノである。ていうかゴロが56キロってなんだよ。わざとか。狙ってるのか。そういう面白いことされると後でやるやつが辛いんだぞ。ちきしょうめ。


 最後に測ったのは高校の時だっただろうか。あのときは体を動かすことはあんまりしてなかったから、結果は40キロほどと微妙だったのをよく覚えている。あれから20年以上が経ちどれほど強くなったのか、はたまた衰えてしまったのか試してみようじゃないか。


 では力を込めるため、久しぶりのあの言葉を放つとしましょうかね……せーの!


「エェェェェェェェリミネェェェショォォォォォォォォォォン!!!!!」

「みゃみゃー!? 敵がいたのかみゃー!?」

「きゃー! 久しぶりのエリミネーションね! マキマキおじさんが死んじゃう〜!」

「ワシャ一度食らってて耐性ついとるって」

「な、なんだなんだ、エリミネーションって言葉はなぜキミらに興奮をもたらすんだ」

「ハッハッハ、まあちょっと異世界にいたときに思い入れのある呪文でな」


 体力測定に使うであろうヨガマットの上で寝ていたアグニャもビックリして飛び起きてしまった。さてさて結果はどうかな〜。


「おお!? 75キロもあるじゃねえか」

「さすがだね、やっぱ肉体労働してたからすごい強いんだねぇ」

「……ねえ、なんかあたしだけめっちゃ低くない?」

「そんなことないぞ、今の体調だったら4キロ出せるのは破格だ。普通の生活をしていけばすぐメキメキ上がるだろう」

「ほんとかな。なんかヘナチョコすぎて自信がなくなりそう」

「うーん……そうだ、アグニャちゃんも試しに測ってみればどうだい?」

「みゃあいいけど。どうやるんだミャ?」


 ある意味での真打ち登場だ。エシャーティとか俺とは違い、アグニャに関しては完全にどういう結果が出るのか想像がつかない。だって元々ネコなのだから。


 というかアグニャはジャイアント・マッシブネコだけど、この結果はネコが人間になった際の値として非常に参考になるのでは?


 アグニャはそこら辺のノラネコどころか普通に売っている血統ネコより圧倒的に体格が大きい子だから多少数値が高く出るとは思うが、ネコの身体能力を人間に当てはめるとどのくらいになるのかの指標として非常に有用なデータが取れそうだ。


 むろんそれを察したゴロもアグニャがどういう姿勢で握っているのかとかをメモして記録に取っている。これは面白くなってきたぞ。


「さあアグニャ、それを全力で握るんだ!」

「わかったミャ! フミャっ!」

「みてみてすごいよ、アグニャのツメがジャキーンってなった!」

「ホントだー! これどっから生えてきたんだ? さっきまで普通のツメだったよな」

「にゃあ〜ご、もういいかニャア」

「あ、ご苦労さま。結果は……」


 ゴロに握力測定器を渡したアグニャは疲れたのか再びヨガマットに寝転がり、大きなノビをしたりしてくつろぎ始めた。色々と面白いものを見せてくれたし好きにさせてあげとこう。


 さて珍獣……じゃなくて神獣たるアグニャの握力はいったいどのくらいなのかな。やはり数十キロもの重さのカピバラさんを鷲掴みして持てるほどだから40キロ以上はマークしてるのかな。


「どうだった、アグニャの握力」

「普通だね。一般的な女性の平均範囲よりは下回っているけど、これといって変わったところは」

「平均を……下回ってる!? 何かの間違いじゃないか!?」

「うーん、でもこれはどう見ても22キロでしょ。アグニャちゃんの若さと体格から見ると少ないように感じるかもしれないけど普通だよ?」

「それでもあたしの4倍くらいはあるのね」


 そりゃ一般的な人に当てはめたら至極普通の結果だろうけどさ。22キロでニャンニャン〜とかいう語呂合わせがしっくりくるようなネコじゃないぞ、うちのマッシブネコは。


 握力=持ち上げられる力、というわけでは無いがかつて異世界にてアグニャは50キロはあるだろうカピバラさんを捕獲して持ち上げた事もあるんだ。それならもうちょっと握力あってもおかしくないだろ。


「アグニャはカピバラさんを片手で持てるしシマウマを仕留められるんだぞ! 22キロなわけあるか」

「アグニャってそんなの仕留めたことあるんだ……」

「そうだぞ、エシャーティと初めて会ったジャングルではカピバラさんに反撃されて助けを求めてたんだ。お前もよく覚えてるだろ」

「……あー! あれね! はいはいはい、アレか〜!」

「うにゃ、恥ずかしい事を思い出すみゃあ」

「いや、ジャングルってなに。キミら異世界でどういう生活してたの?」

「その話、ワシも聞いたことない。詳しく聞かせてほしいのぅ」


 うーん、さっきチラッと測定してた時の針の動きを見る限りではマキマキおじさんみたく凄まじい力を持っててスケール振り切った、という感じでもなかったしなぁ。


 ……いや待てよ、異世界に転生した俺たち三人は全員素の体力やら筋力やらが大きく跳ね上がっていて、今は幼稚園児程度の握力しか出せないエシャーティも本気ではないとはいえ俺の攻撃を食らって”あたたっ”で済ませるほど強くなってたではないか。


 あの攻撃を普通のアトランティス人にかましたらズバァーンと地面にめり込むか、岩場なら頭を猛烈にバウンドさせて空の彼方へ吹っ飛ぶか、水辺なら衝突のインパクトで水中のお魚たちが脳を揺さぶられ気絶するほどの威力なのに、それを耐えれるほどだもんな。


「ということはアグニャの結果は合っているのか」

「ねえねえ、それよりもさ! どうやったらあなたたちみたいに何十キロも握力だせるようになるの」

「そう言われても普通に生きてたら勝手に75キロ出るようになってたしなぁ……」

「昔はどのくらいだったの?」

「18歳の時は40キロくらいだった」

「そこから35キロも上げたの!?」

「そうだぞ。だからエシャーティも普通に生きてればアグニャと同じくらいにはすぐ上がる」

「そっか〜。そうなんだ〜!」


 というか今の状態で4キロ出せるからアグニャを超えるのも余裕だろうな。このほっそい腕であのパワーを絞り出せる高効率でテクニカルな肉体は将来有望ですらある。


 それにエシャーティは誰よりも生きること、体を動かすことに望みを持っていた人間だ。もしかしたらエクササイズなどにのめり込み、非常に美しい肉体を作り上げるかもしれない。今の幼い体型も確かに魅力的ではあるが、年相応に健康的な身体も見てみたいもんな。



アグニャ「ふみゃ〜、これはにゃんにゃん?」

ゴロ「リカンベントっていう自転車のようなリハビリ道具だよ。試しにやってみるかい?」

アグニャ「おもしろそうだニャ。体験主義者としては避けては通れにゃい提案だミャ!」

ゴロ「それじゃここに座って、ペダルに足を置いて……あっ、片足だけ置いて動かしたら」

アグニャ「あんぎゃあああ! 反対側が勝手に動いてスネ打ったミャ!」

おじ「うわ、しかもカピバラさんにやられた時と全く同じとこ」

エシャーティ「たいへん! またあたしが治してあげるんだから! はい、横になってー!」

マキおじ「おもしろそうじゃのう、ワシもワシも〜」

ゴロ(……ふふっ、エシャーティがこんなに楽しく過ごせるならこのリハビリ室を設置したかいがあったよ)


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