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もう一つの方法


「あ、おかえりなさい」

「ちゃんとボクが落とした荷物も持ってきてくれたんだね」

「当然じゃろう。しかしこの道具、いったい何に使うのか全く検討もつかんのぅ」

「これが何なのか分からない!? 失礼だけどキミって原始人?」

「ゴロよ、このマキマキおじさんは実質原始人だからホチキスや電卓がどういう物か知らないんだ」

「詳しくはこれから話すけど、決して変な人じゃないから。さて、それじゃ何から話そうかしら」


 そうエシャーティが言うとゴロはベッドの隣にある豪勢な造りの椅子へ座り、じっくりと腰を据えて話を聞く姿勢へ移った。それじゃ俺も人外二人組から天界でどういう事があって、どうしてアグニャは記憶がそのままだったり変身できるようになったのかを聞くとしよう。


「アグニャ、マキマキおじさん……説明を頼むぞ」

「わかったミャ!」

「それじゃおぬしにも分かりやすいように、まずは異世界と異世界を行き来する方法が何種類あったかを思い出してほしい」

「ああ、何となくだけど一応覚えてるぜ。えっと」


 第43話にてマキマキおじさんが言っていた事を思い出してみる。異世界を行き来するには”3種類”の方法があり、一つは最初の最初に俺やアグニャ、エシャーティが死後に偶然アトランティスへと転生したような、数少ない可能性がもたらした巡り合せによる奇跡の現象だろう。


 そして2種類目は今回俺たちがアトランティスからこっちへ戻ってきた方法で、神獣を生贄に捧げアトランティスからこの世界を指定して移動してくる方法だ。


 こうして振り返ると、もう一つの方法を聞いていなかった事に気がついた。


「あれ? そういえば2種類しか方法聞いてないぞ」

「そうにゃん〜。実はおじちゃんたちは隠されていた3つめの方法でこっちに戻ってきたのミャ」

「その方法はアグニャの記憶に影響が出ない方法だったのか?」

「そうじゃよ。神獣に影響が出るのは2種類目の方法だけじゃ。そして今から話す3つめの方法は、アグニャの変身能力にも大きく関わってくる」


 アグニャの記憶に影響も出ず、正確にこの世界へ戻れるどころか地震の起こる日の朝という時間指定まで出来てしまう方法とは一体なんだろう。2種類目のアグニャ生贄案がアグニャの記憶を代償にするほどだったし、この方法もかなりの代償を払わねば実行できないのが道理だと思うが……まさか勝手に俺の寿命を10分の1にしてたりしてないよな!?


「3つめの方法って一体どういうものなんだ」

「ずばり天界に名を響かせて異世界渡航をする、的なものじゃ!」

「は?」

「みゃん〜。おじちゃんは中々の戦績を残したってことミャ」

「そ、そうなのか」

「まあこんな事を急に言われても分からんじゃろうし、詳しく説明するとだな……」


 マキマキおじさんが説明するところによれば、天界では神を絶対的頂点に望み、その下に天使、神獣と権力の席に名を連ね、文字通り地上に住んでいる人間や動物などとは天と地ほどに隔絶された差があるという。


「人間と神は存在の格が違いすぎるから、本来おぬしやエシャーティのようにワシを視界に捉えるような事はとても不可能なのじゃ」

「それはまあ分かる。俺もマキマキおじさんは実際すごい名の知れてるオケアノスだって言われると、こうして喋ってるのが不思議だもん」

「急にそんなこと言われると照れるのぅ……」

「うにゃあ、それはどうでもいいミャ。問題はなぜ神に接することができにゃいおじちゃんが、異世界では縁までもらえたかニャ」


 縁については俺もずっと気になっていた。だってエシャーティとかアダムやイブが縁や加護を貰うのは、まあなんか純粋な性格してたりクソ真面目に神様を信じてたりするヤツらだからという事で納得もできる。


 けど俺は大して真面目な性格でもなければ信心深くオケアノス崇拝をしていたというわけでもないのに、なぜかマキマキおじさんに接触しいつの間にか縁まで授かっていた人間だ。というか、未だに縁や加護についてほとんど何も知らないワケだし。


「それにはこの、転生した際にただの動物から神獣へと昇華を果たしたアグニャが関係しているのじゃ」

「にゃんと神獣に懐かれている人間は、その存在性が格上げされて神が興味を持つそうみゃ〜!!」

「なるほど……でもそれじゃエシャーティやアダムはなぜ神獣を連れてないのに神の加護を?」

「そ、それはだミャ、おじちゃんと違って天性の資質があったから……だそうだミャ」

「そう言い澱まないでいいよアグニャ。実際俺とあいつらには明確にカリスマ性の差があったし」

「みゃあ〜……」


 それに俺はアダムやイブとは終始敵対していたとはいえ、最後にはあの二人の一貫した思考や大勢の人間を引き連れてくる統率力、それに根は悪いやつでもないと分かっちゃったから嫌いというわけじゃないしな。


 さて、それで神が見えるようになるのと異世界を行き来する3つめの方法がどう関係するのか教えてもらうとしようじゃないか。


「で、神が見えることでどう事に関わるのかな」

「色々とあるが、今回の話に関係することだけを絞ると……まず神や天使を視認できることにより、攻撃することができるのが一番大きいじゃろう」

「正確に言えばエリミみゃーみょんが当てれるようににゃる、みゃん」

「神を攻撃することがどう異世界を行き来するのに関わってくるんだ?」

「実は人間が神や天使、あとは神獣を倒すと天界にその名が広まって徳が積まれてゆく」

「へぇ〜。神殺しってバチ当たりもいいとこなのに、逆に徳が積まれるのか」


 そこも裏があって、以前マキマキおじさんが「ワシの信者が格式高い神のガイアを倒してくれて鼻が高い」と言ってたように、意外と天界では人間と神々の争いは好まれる行為だとマキマキおじさんは語る。


 争いの結果神が負けたとしてもその神が格を落とすだけなので、傍から見ている神々にとっては非常にエキセントリックな見世物として大いに盛り上がるのだとか。それに神は死んでもリスポーンするし。


「そしておぬしはアトランティスにて創造神であるアトラスを3度、天界でトップクラスの格を誇るガイアを2度も倒しておる」

「なんか改めて言われるととんでもない神殺し特化人間だな」

「その甲斐あって、おぬしは晴れて”隠された3つめの異世界渡航”をする条件の一つを満たしたのじゃ」

「なるほどね。で、他の条件は?」

「あとは神の一人と縁か加護を結ぶのと、天使を倒した経験があること。そして神獣を連れていることじゃな」

「待て待て待て、縁とか神獣とかは条件満たしてるのは分かる。でも天使って会ったこともないぞ」


 というか天使って単語自体、このページで初めて出てきたし。でもマキマキおじさんの言う条件を満たしてるということは身に覚えこそないけれど、いつの間にか天使をぶっ倒していたということだろ?


 え、そんな存在感がないヤツを自由に異世界を行き来する条件の一つにしちゃっていいの? 他の神と縁を結ぶのとか、神獣を懐かせて引き連れているとかと比べて達成が楽すぎないか。ていうかアグニャ以外に神獣と思わしき者を見たこともないし。


 しかしそんな俺の疑問は予想通りと言わんばかりに、意気揚々とアグニャが得意気に口を開いた。


「おじちゃん、異世界に行って最初の原っぱで倒したちっちゃにゃ人間がいたみゃん?」

「……ああ〜、なんか急にアグニャが地面にいたのを爪でぶっ刺して、俺がアグニャにメェっ! って言ったらうっかりエリミネーション発動しちゃって殺しちゃったやつか!! いたな〜、そんなのも」

「あれ、にゃんか天使だったみたいだミャ」

「え、マジで」


 あのちっこくてピピピピーとかキモい鳴き声を発するギュービーちゃんは小人じゃなくて天使だったんだな。まさかあんな序盤も序盤に天使を倒していたなんて……いや、それを言うと初手ガイア討伐のほうが大金星か。


「ワシもアトラスから聞いたんじゃが、アトランティスに来た異世界転生者は無限ループするガイアの聖域からスタートして野垂れ死ぬ率高いから、ああして最寄りの街へ案内してくれる天使を派遣してたそうなんじゃが……」

「みゃ、みゃはは〜、草むらの間をピコピコ動いてて、つい襲っちゃったミャ〜」

「まあ天使もリスポーンするから気にするでない」

「それにアグニャが天使を倒してくれてたから、こうして何事もなくこの世界へ来れたしな」

「みゃん!」


 犠牲になった天使くんには悪いが、リスポーンするのなら恨みっこ無しでいこうや。ところで今の説明のままなら確かに俺はマキマキおじさんの言う”隠された3つめの異世界渡航”の条件を全て満たしているワケだが、実際その異世界渡航というのはどういうものなんだろう?


「異世界渡航っていうのはどういう現象なんだ」

「その名の通り、恐ろしく難しい条件を達成した者が、縁か加護を授かった神を経由して天界に異世界と異世界を行き来を申請、実行するものじゃ」

「実はその過程でネコと人間に変身できる能力がついたにゃん〜」

「アグニャもワシの加護を受けていたし、しかもワシのかーちゃんを1回倒しとったからのぅ。それで新たな能力に目覚めたのじゃ」

「すげぇなアグニャ。どんどん俺の手に負えないレアニャンゴになってくじゃねえか」

「みゃみゃん〜! おじちゃんが大好きにゃのはずっと変わらみゃいみゃ〜」

「お、このこの! オラぺしぺし!」

「フ、フニャァァァァァ」

「急にイチャつくでない」


 だってもうそろそろ難しい事を考えるのが疲れてきたんだもん。アグニャの尻でもなでなでしないとやってられないよ。まったく、真剣に話をしてるアグニャのお尻ったら無防備に放り出されてとってもキュートなんだから。えい、えいえい!


「ふ、ふみゃみゃんっ、おじちゃん〜……」

「ゲヒヒ、疲れた頭に甘い声が染みるぜ!」

「お前たち、もう聞きたいことないからって遊び始めるでない……」



エシャーティ(ゴロに色々と異世界で起きたこと、身につけたこと、経験したことを話してあげてるんだけど……)

エシャーティ(あたしが異世界に来た当初、力加減が分からずに握りつぶしちゃった小さな人間ってやっぱ街へ案内してくれる天使さんだったんだね……)

エシャーティ(あの後どれだけ彷徨っても草原から出られなくて途方に暮れてたところを、ガイアが出てきて街まで連れてってくれたんだよね)

エシャーティ(そこで加護と縁を授かって……ふふ、懐かしいなぁ〜)

ゴロ「ねえ! それで海にやって来た無限の軍勢はどうやって退けたんだい!? 早く続きを教えてくれ!」

エシャーティ「ああはいはい。えっとね〜……」


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