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全員集結


 自販機で水分補給を終えすっかりリフレッシュした俺は意気揚々と車を発進させたのだが、どうやら目的地の病院は既に裏手にあったようで、広大な駐車場の一角に車を停めてマキマキおじさんへ話しかける。


「なるほどね。”病院”という名称に囚われてしまったが、こういう”国立医療センター”って名前の医療機関もあるわけだわ」

「みゃん〜」

「ま、正確にはまだエシャーティはここにいないんじゃがのう」

「どういうことだ?」

「すぐに分るぞい。それじゃ時間停止を解除するぞ」


 車の窓を開けてクァァと水を発射したら突然辺りからは生活音が聞こえ始め、急に押しかける都会の喧騒の騒々しさに思わず耳を塞いでしまった。後ろの席で優雅にケージのクッション力を楽しんでいたアグニャもどこからか聞こえるピーポーピーポーという音にビックリして飛び跳ねてしまった。


「う、うみゃあ〜!?」

「大丈夫かアグニャ。ビックリしたなぁ。」

「みゃん……」

「このピーポーピーポーという音が消えたら、いよいよじゃよ」

「いよいよ、だと?」


 音の聞こえ的にこのピーポーピーポーの音源はさっき交差点でぶち抜いたあの救急車であろう。後ろにパトカーを付けていたので事故かなんかの急患だと思ったが……まさかな?


「まさかとは思うがエシャーティは……」

「そうじゃ。あの白いピッピーに乗っている」

「みゃあ!?」

「ははっ、なるほどね。あいつもあいつなりにどうにか生き延びる方法を見つけたんだな」

「さあ行って来い。ワシらはここで待っておるから」

「みゃん〜!」

「……ああ。行ってくる」


 アグニャとマキマキおじさんに見送られて俺は車から降り、けたたましくサイレンを鳴らしながら駐車場へもったり入ってくる救急車へ近づいていく。緊急走行していた割りには急いでいる様子がなく、やけにのんびりとした動作が目立っている。


 間違いない。きっとあの救急車はエシャーティを運ぶために使ってるから、動作の機敏さよりも体に障らない慎重さを重視してるんだ。


 けどいくらバタバタしていないとはいえ、救急車に不用心に近づくのはかなり勇気がいる。なにより俺は今の状態だと無関係な人間で、もしも今運ばれて来たのががエシャーティではなかったら救急隊員の作業の邪魔をしたことにより捕まってしまう可能性も……


 そんな懸念が思い浮かび、足がすくんで立ち尽くしていたら俺の車の窓が開き背後から怒鳴り声が発せられ、体に喝を入れられた。


「なにをのんびり観察しとるんじゃ! はよ行かんかい!」

「うみゃあ! みゃみゃみゃみゃ!」

「……そ、そうだよな、行かなきゃな!!」

「エシャーティも待っておるぞ! 行くのじゃ!」


 救急車からゆっくりと降ろされ病院へと運び込まれていくストレッチャーに勇気を振り絞って近づいていく。ニュースやドラマなどで見る慌ただしさは微塵もなく、すんなりと近くまで来ることができてしまった。


 しかし急にストレッチャーに近づいてきた俺に対して、当然ではあるが付き添っていた医者たちは声を荒げながら拒絶の意を向けてきた。


「どきなさい! 病人を運ぶ邪魔をするとはなんて非常識な人間だ!」

「す、すいません。でもあの、その人もしかしたら俺の知り合いじゃないかなー、なんて」

「我々にあなたのような知り合いはいない。これ以上何かあるのなら、まずは後ろの警察に相手してもらう」

「はいこんにちは。お父さん、今日はどこか具合が悪くてここへ来たのですか? 私らが診察まで付き添いますよ」

「ぐ、ぐぐぐ……」


 医者が後ろに引っ付いていたパトカーに手を振ると中から警察が降りてきて俺を威圧してきた。そうこうしてるうちにストレッチャーは俺の前からどんどん離れていく。クソ、俺が家庭を持ってるような風貌に見えるかよ、ボンクラ警察め!


 まるで不審者を見るような目を俺に向けながら、医者はストレッチャーに寝かされた病人と話をしている。


「ねえ、何か騒がしいけどどうしたの?」

「何でもないよ。ふぅ、念の為に警察を連れてきといてよかった」

「ちょっとちょっと〜。それって大変なんじゃない!?」

「キミの急なわがままに付き合うほうが大変さ……」

「あっ、そういう事言うの。つーん」

「ははっ、そうプリプリしないで」


 ……あの声、あの口調、あの雰囲気!

 あれはまさしくエシャーティだ!!


 本当にあのストレッチャーで運び込まれているのはエシャーティだったんだ! そうと分かれば腹はくくってる! 俺たちだけの”合言葉”で我ここに在り、と伝えるんだ!


「うおおおおおおお!! エシャーティィィィィィィ!!」

「えっ……この声は!」

「コラ貴様! 警察の前で怒号を飛ばすとはいい度胸してるじゃないか。逮捕する!!」

「やかましいわ万年徘徊職質ヤロォォォォ! エェェェェェリミネェェェショォォォォォン!!」

「が、ガァァ」


 警察の耳元で力の限り喉を震わせて破滅の呪文を唱えたら、結構効いたのかその場にうずくまってストレッチャーへ近づくチャンスが出来た。なんだ、こっちに戻ってきても使えるじゃん、エリミネーション。


「やっぱりあなたね!! あたしはここよ、エリミネーター!」

「おっと。あの汗だくの不審者と……まさか知り合いとは言うまいね?」

「あの人は不審者なんかじゃない! あの人は……あたしが心から尊敬している大切な人よ!!」

「うわっ、正気か!?」


 なんだあの付き添いの医者、めちゃくちゃ失礼な男だな。エシャーティと仲の良さそうなお医者さんだったからもしかしたら俺を見た目で判断しない稀有な存在かと思ったが、そうでもないみたいだな。まあいい、とにかくエシャーティと話をさせてもらう!


「ゼェゼェ……よう、元気かエシャーティ!」

「きゃー! ホントに来てくれた!」

「はっはっは、おじさん約束は絶対守るからな……はッ、そろそろ地震が来る!」

「とうとうあの地震が来るのね。こんなお外でストレッチャーに乗せられて、あげく因縁ある地震が来たら……ちょっぴりまいるかも」

「地震が来るだと!? とは言われても、どうすればいいんだい」


 付き添いの医者はどうしたものかと悩み込むも、お手上げといった状態で俺の方をチラチラ見ている。仕方ねえ、ここはパワータイプの俺に任せとけ!


 しかしエシャーティを地震の揺れから少しでも隔絶させるために、俺ができることはなんだ?


 頭をぶん回せ、記憶を引き出せ、今まで何十年も積み重ねてきた労働の経験から最適解を弾き出せッ!! これまで俺が建築に関わった病院はどういう造りをしていて、どこが最も安全だった!?


「……オペ室だ! エシャーティを今すぐに空いてるオペ室に連れていくんだ!」

「な、なるほど、オペ室なら病院の中でも特に頑健な造り! そうと決まれば、この場から10秒で入れる緊急外来のオペ室に案内しよう!」

「よし、頼むぞお医者さん! さ、突っ走るぜエシャーティ、捕まってな!」

「きゃ〜! はやいはやーい! もっと加速して!」

「エシャーティが他人を前にして無邪気に喜んでいる……う、うれしい!」

「お、おい、あんたはマジメに案内してくれよ」


 ズドドドドと俺たちは勢いよく病院の中へと入っていき、のほほんとしていた勤務医や看護師たちを押しのけて緊急手術室へと突撃した。その慌ただしさ、異様さに緊急オペ室へ入った後に何事かと外部連絡インターフォン越しに声を掛けられるも、エシャーティの付き添いの医者が対応してくれた。


「やあ、すまない、事前に話していた約束と違うのは分かってるさ。でもあいてるオペ室があったんだからちょっと借りるくらいいいじゃない。それに名医を二人も迎えられてこのオペ室も喜んでるよ……え、やかましい? ははーん、さては院長のくせにタバコを辞められないなんて、ってイジられてるんだな。わかる、わかるよ……」


 なんか知らんけど上手くやってくれているようなので、外部との対応は任せることにする。さあ、これで地震への備えは万全だ。いつでも来い!


「そういえばあたし、以前は電源の切れた延命装置類を前にして歯ぎしりしながら死んでったんだよね」

「そうなのか。なんか縁起悪いし、ここにある手術装置の電源つけるか?」

「あ、それいいね」

「でも使い方が分からんな……」

「どれどれ、あたしを近くに運びなさい。この知識だけは世界トップレベルのお医者様にかかれば、こんな平凡な病院にある古い装置類なんて手に取るように使い方が分かるわよ」

「おお〜、頼もしいな! じゃあまずコレ!」

「ふふっコレはね〜……」


 俺とエシャーティは冷え切った機械に片っ端から灯りを点けていき、意味もなくオペ室を綺羅びやかに彩って死の運命へ歯向かう用意を終えた。


 狭いけど窮屈ではないオペ室を一巡し全ての機械に明かりを灯し終える頃、遂に”あれ”がやって来た……!


「あ、なんか揺れてないけど揺れてるね」

「そうだな。免震が利いてるけど感覚はするな」

「ほほぅ、これが人類最先端の技術か。すごいのう」

「そうだニャア〜。でもにゃんだか不自然な揺れで逆に変だミャ!」


 ……そうだな。アグニャとマキマキおじさんも分かるか。いやー、しかし衛生さが重要なオペ室に髪が長い人の姿したアグニャと、きったねえヒゲたくわえたマキマキおじさんが入り込んでるのは大問題だな! はははははは!


 ……え!? な、なんで人間の姿をしたアグニャとマキマキおじさんがここにいるんだ!?



 その頃の天界では……


ガイア「そうか、そなたももう召喚に応じれるほどの信仰が得られたんだな」

アトラス「は、はい、格上であるあなた様を差し置いて、先にアトランティスへ戻るのは少々差し出がましいですが……」

ガイア「何をそんなにビクビクしている。そなたが丹精込めて創造した世界に出向くのはおかしくないだろう。さ、あの二人組の元へ行くといい」

アトラス「そ、それでは失礼しまーす!」

アトラス(ふぐぅ、やはりガイアを前にするとあまりの迫力にビビるのじゃ。ま、何もなくて良かったのじゃ。それじゃアダムとイブの呼び出しに応じるかのぅ!)


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