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連続エリミネーション


 服についたゲボもだいぶ乾き、すっかり夜となった頃に俺たちは小さな村へ到着した。この世界の住民たちは夜になると真面目に家へ帰りすぐ眠ってしまうのか、まったく人気のない村の中をアグニャと並んでトボトボと歩き回る。

 朝までそこら辺に寝転がり村人たちの活動時間がやってくるまで過ごしてもよかったのだが、それだとつまらんだろう? なので俺はどうにかこうにか村の憩いの場を探し出したんだぜ。


「あったあった。いや、分かりやすいな」

「にゃ〜。ここはなんだろみゃ」

「酒場だな。異世界に付き物の」

「みゃあ?」

「メシも食えるはずだし、入るか」

「ごはんにゃ!!」


 もはや酒場らしい酒場すぎて白々しさすら感じてしまうほど分かりやすい酒場に入ると、まあ早速ウェイターさんに声を掛けられてきたわけだ。さてさて異世界の接客はどんなレベルかな? 俺は接客業大国の日本から来たからサービスの質にはうるさいぞ。なんせ俺みたいな弱者男性は居酒屋や飲食店の店員くらいにしか偉い口を聞けないからな。


 それに親に給料取られて月に1回行けるかどうかの外食だったから、俺は少しでも楽しむためにピンポンは100連打したり、そもそも何も決まってないのにピンポン押したりして店員がイライラする様を眺めて楽しむクソ客だったから手強いぞ。


「いらっしゃいま……うわ、きったな!」

「うわー、おっさんゲロまみれじゃねえか」

「よく見ると景気の悪そうなツラしてるぜ」

「ああいう客は無駄にうんちくを語るよな」

「分かる。そんで利き酒させると外すのや」


 はいクソ〜。やっぱこんなゴミみてえな規模の村に構えてる店なんて程度が知れてましたヮ。従業員はちょっとアグニャのゲボが付いてるだけでまだ何も言ってない俺の悪口を言ってきたし、便乗して既に酔っ払ってる外野のおっさんやら、ようやく飲酒ができるようになったばかりのクソガキどもも好き放題言いまくってきたよ。こういう無礼な態度を”温かみ”やら”家庭的”などと表現しちゃうんだろうなぁ、死ね。


「シャー!!」

「うわ、なんかエッチな子がいる」

「ボクちゃんチューハイ作ってあげるよ」

「フー……! ミギャッ!」


 イライラして店を出ようとしたら後ろの方でアグニャにうざ絡みしている汚い声が聞こえた。しまった、あまりの無礼さに一刻も早く立ち去ろうとしすぎて、向こうの集団どもがアグニャにちょっかいを出しているのに気が付かなかった。人見知りなアグニャはどうすればいいのか分からず、背中を丸めて必死に威嚇しこちらへと助けを求めている。


 俺はなんて馬鹿なんだ!! アグニャが怖がっているのに気づかないなんて!!


 己の失態への失望と救い難い愚かな男どもへの怒りが、俺の内なる激情を呼び醒ました。


「エリミネーショォォォン!!!」

「パァァァァ!?!?!?」

「ぎゃんぎぐぐげ!!!!」


 激しい怒りに任せ俺が両の手の平をバシィィィン! と勢いよく合わせると、たちどころに酒場にいた者全員の体が爆ぜていき、かつて生命だった成れの果てが飛沫のように飛び散り酒場の壁や床を汚く彩った。ここでさらにもう一発!


「オラ! エリミネーション!」

「ぎにゃ〜、さらに!?」

「ほれ、パンパンパンパンパン!」

「うみゃみゃ、ペンペンペンペン」


 面白かったのでもう四回くらい手をバシバシ叩き若干拍手のごとく雑にエリミネーションしたら、アグニャも楽しそうに手をペシペシ叩き始めた。すると俺たちの異様なハイテンションに合わせ、ポンポンポーンと飛び散る肉骨片がさらに爆発し始めた。その様子は、そう、レンジで銀ホイルをあっためた時のようだ。


「ふははは、きったね!」

「にゃにゃん、結局ここは何をするとこだったか分かんみゃいにゃ」

「ああ、ストレスを和らげる場所だよ」

「にゃ〜、にゃるほど」


 そうだ、せっかくだから服を貰っていこう。アグニャのゲボがついたままのこの服はさすがに臭っているし、替えの服は必要だしな。あと食料も持てるだけ持って、ついでにお金らしき物やなんやも……って、まるで強盗みたいだな。でも初対面で相手がどんな人間なのか知らないのに、酒の勢いだけで煽ってくるのが悪いんだぞ。アル中め。だからこれは正当な拾得なのだ。


「おじちゃん、お魚たべたいにゃん」

「おお、あるぞあるぞ。せっかくだからゆっくりしていくか」

「みゃん〜」


 辛うじて肉片が飛び散っていない席へ座り、料理をする俺の姿を楽しそうにアグニャは眺めている。この笑顔を今日も守れて俺は大満足だ。まあ異世界来てからまだ一日も経ってないんだけど。


x x x x x x x x x x x x x x x


 アグニャと一緒に山盛りに作った魚の塩焼きを食いまくり、満腹感から強い眠気に襲われたのでそのまま酒場の休憩室で今日は夜を明かすことにした。布団に入るとアグニャはさも当然のように一緒に入り込んで来たので、思わず俺は向こうを向いてしまった。


「にゃ〜ん」

「うっ、今まで気にしないようにしてたけど、やっぱ人間だと距離感がキツい……」

「みゃみゃ!?」

「嫌いとかじゃなくて、その、女の子と接することがなかったから気まずいんだよ」

「知らんみゃあ、いつも通り撫でるにゃ」

「ああ、そうか、いつも通りでいいのか」


 そうと分かればアグニャの扱いなんてお手の物だ。早速俺は見慣れた銀色のツヤツヤ毛並みを撫でて、実によく知っているサラサラの感触を楽しんでみるとアグニャはすぐにゴロゴロとノドを鳴らしながら目をキュッと閉じ、ぐいぐいと小さな頭を俺の胸に押し付けて嬉しそうな仕草を見せてくれた。


「みゃん……」

「そうだ、ケツをペシペシするのも好きだったよな」

「そ、それは今はやめるみゃ」

「どうして!」

「にゃんごろ」

「あらら、寝ちゃった」


 あんなにケツ、というか尻尾の根本を撫でたりさすったりすると喜んでいたのに嫌がってきたのは意外だ……なんて、鈍感なことは言わんぜ俺は。もちろんメスネコにとってそこがどんなポイントなのかは百も承知で聞いてみたのだ。てっきり俺は物欲しそうな顔をしてそのポイントを弄るよう懇願してくると思ったが、アグニャは清純だったみたいですごく安心した。ちょっぴり残念だったけど。ちょっぴりね。


 と、ニヤニヤしながら眠っているアグニャを観察していたら突然アグニャは目を見開き叫んだ。


「あ!!」

「うおお!? な、なに!?」


 いきなり大声を出してきたから俺はビックリして、40を迎え脈が不規則がちになってきた老心臓を急発進させてしまう。やめろよアグニャ、シャレにならんぞ、俺くらいの歳になると……!


「おじちゃん、寝る前いつもアレするみゃん!」

「アレ……?」

「ジッと見てると、どかしてくるにゃ」

「な、なんだっけ」

「ほら、ティッシュを敷いてもぞもぞしてるみゃ」

「あ、ああ、あれね。あれは今日はしないんだよ」

「ウソにゃ!! 毎日してるにゃ! 気分が悪くてもしてるみゃ!!」


 何言ってくれてんの、この子。するわけねえだろ女の子の目の前で。ていうか、ネコの時ですらジッと見られてると落ち着かないからソッと布団からアグニャを出してやってたのに、なんの意味もなかったのかよ。


「しないみゃん?」

「しないしない」

「そもそも、あれはにゃんにゃん?」

「そう言われても、にゃんにゃんとしか……」

「うみゃあ、人間のやる事はよくわかんにゃいみゃあ」


 そう言うといきなりズドドドドと布団から出て走り出し、休憩室に置いてあった着替え棚をホジホジと引っ掻きはじめるアグニャ。恐らく爪を研いでいるのだろう。それにしてもいちいち唐突すぎてビックリするわ。むしろネコのほうがよく分からんわ。


 こんな騒々しい夜を過ごすのはいつ以来だろう。もしかしたら人生で初めてかもしれない。そう思うと一度死んでみるのもアリだなぁとのんきな考えが頭をよぎり、うとうととしながら暴れるアグニャを眺め早く寝ないかなと願う。いや、待てよ、アグニャってネコなんだよな……


 おいおいおい、夜行性だからこれから朝までずっと暴れてるのか? 勘弁してくれよ……



エシャーティ「どこなのよ、ここは!?」

エシャーティ「だれなのよ、あなた!?」

精悍な男「おい、エリミネーターに気をつけろ!」

エシャーティ「エリミ……ネーター……?」

精悍な男「少しでも大勢に危険を伝えないといけないから、それじゃあな!」

エシャーティ「あ、行っちゃった」


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