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死の10分前


「って、もうこんな時間じゃねえかァァァ!」

「急に叫んでどうしたのじゃ」

「マキマキおじさん、大変だ、あと10分ちょっとでアグニャとエシャーティを死にいたらしめた地震が起きる……かもしれない!」

「それは怖いのう……どのくらいの大地震じゃったのじゃ?」

「えーっと、このくらい」


 俺はシートに座りながらケツを少し浮かせドシンと勢いよく座って地震の揺れを再現する。俺の動きに合わせてアグニャのお水はゆらゆらと揺れ、オンボロの車体からはミシという軋みと僅かな揺れが起きる。うむ、見事な震度1だ……!


「……え、こんだけ?」

「そうだ。こんなに小さな地震だったんだ。だからこそ、こんな事でアグニャが死んだのが無念だったんだよ」

「みゃあ……」

「え、ええ〜、むしろこのヘナチョコの揺れでどうやったら死ねるのじゃ?」

「地震で街全体が運悪く停電してな。それのせいでアグニャのいる部屋はエアコンが消えたままになって……」

「エアコンってなんじゃ?」

「この風が出てるやつ」


 冷たい風を吹き出している車のエアコン吹出口を指で指し示すとマキマキおじさんはなるほど、といった様子で頷いた。が、新たな疑問が湧いたらしく突然吹出口のスキマへと指を突っ込み始めたではないか!


「うーむ、どうなってんじゃこれ」

「危ないよ、奥がどうなってんのか俺も分からないから指がちぎれても知らんぞ」

「指がちぎれる!?」

「う、うみゃ!?」


 なぜか俺の膝の上に乗って和んでいたアグニャまでビックリしている。まさかアグニャも俺の見てないところで手とか突っ込んでたのだろうか。危ねえなぁ。まあでもカーナビとか外したことある人なら分かると思うけど、吹出口の奥はただの風の通り道となるパイプが通ってるだけの車が多いから大丈夫だとは思うけどね。


 それよりももう時間がないことのほうが重大だ。残り10分とかどう頑張ってもエシャーティを見つけ出すのは不可能だ。クソ、こっちへ戻ってきてからの最初の目的すら成し遂げられないなんて……


「ちくしょう、俺はなんてダサい男なんだ……」

「どうしたのじゃ、いきなりショゲて」

「地震が起こる前にエシャーティを探し出したかったのに、もう絶対に間に合わないんだよ」

「おぬし、何か忘れていないか?」

「忘れてる……?」


 助手席のマキマキおじさんは立派にたくわえた巻きヒゲを揺すりながらニヤリとした顔をする。その自信たっぷりな顔を見たら俺がこの港へ来た理由を思い出した。そうだよ、元々はマキマキおじさんにエシャーティのとこへ連れてってもらうようお願いしに来たんだよ! 車で遊んでたらすっかり忘れてた!


「そうだ、エシャーティを探してもらうためにマキマキおじさんを呼んだんだよ!」

「そうじゃろう。さぁ、ワシに任せろ! あの子への想いをワシへの信仰へ充てるのじゃ!」

「いよーし! 神よ、ジーザス!」

「にゃん〜! みゃみゃみゃ〜!」


 俺は一心不乱にマキマキおじさんへ手を合わせてエシャーティの元へ行きたいという願いを捧げる。アグニャも俺を見て何をすればいいのかすぐに察したようで、みゃんみゃんと神妙な鳴き声をマキマキおじさんに発している。


 やはりどう考えてもアグニャの行動は記憶を失ったとは思えない。しかしマキマキおじさんは生贄になったアグニャからは異世界で過ごした記憶は消えるって言っていた。でも現実としてこんなにも人間臭い行動が、あたたかみのある動きが目立つのはおかしいだろう。


 とかなんとか考えながら祈ってるうちにマキマキおじさんはもう満足といった顔になっていた。しかし今から案内されたとしても、とても市街地には間に合わないぞ……


「よし! そなたらの強い願い、承った!」

「エシャーティの居場所が分かったのか?」

「それもあるが、この世界では初のクァァじゃからちょっと本気の承りをしちゃうぞい!」

「へぇ、どんなスゴい事するんだろうな」

「みゃあ〜ん」

「フッフッフ……クァァ!」

「あ、ちょっと待っ……うわァァァ!」


 ちょっと待ってって言ってんだろクソジジィ! お前さぁ、なに人の車の中でゲロミズぶっ放してんだよ! 後で掃除するの誰だと思ってんだよ、人の吐瀉物(なのかは知らんけど)を掃除するのは色々と危険だから大変なんだぞ! ぞうきんで拭いておしまいじゃねえんだからな!


「フシャァァァァァ〜」

「いいぞアグニャ、ゲロおじをぶちころせ!」

「ぐ、グボボ!」

「ははっ、飲み込んでら」

「ぐ、ぐふ、おぬしらもう何度もこれを目にして効果を実感してくれとるのに、なんで毎回こう、ワシをドつきまわすのじゃ……」

「う〜、フシャっ!」

「アオーゥ!」


 つかマジで時間ないんだけど。もうあと数分もすればあの地震が来てもおかしくないぞ。あと残された猶予は何分なんだろう、えーっと、スマホをつけてっと……


「あーもう、ほんとに4、5分しかない! あの地震で津波って起きたんだっけ!? クソ、一応海辺から離れたほうが安全か!?」

「ふぉっふぉっふぉ……まあそう焦るでない。よく外を見てみるのじゃ」

「なんだよ、別に何もないじゃねえか」

「まあまあ。なんか変わったところはないか?」

「……みゃっ!?」


 アグニャは何かに気づいたらしく、窓に小さな鼻を押し付けるようにしながらギョッと外を見渡している。俺も海や空、果ては港から公道までの砂利道や港職員たちの詰め所などを一覧してみたが、なんにも変わったところはないように見える。


「みゃ、みゃみゃ〜! うみゃみゃ!」

「うーん、どういう事だアグニャ?」

「そなたはニブいのう。ほれ、あそこを見るのじゃ」

「あそこは転覆した船が集中してる水域……う、うわぁっ、なんじゃありゃ!?」


 さっきマキマキおじさんが発生させた渦潮により転覆した船の集中してる水域を見てみると、なんと先程までモクモクと有害そうな黒煙を盛大にあげて海の底へ我先にと沈んでいってた船たちが、あろうことかピタッと一寸のブレもせずに停止してしまっているではないか!


 煙という掴みどころのない物質が全く動いていないという現実に、俺の頭は錯覚と虚構からくる強烈なクロノスタシスを見せつけられたかのような気持ちの悪さを感じてしまい、思わず声をあげてしまった。アグニャがビックリしながら見てたのはあれの事だったのか。


「なにあれ、めちゃくちゃ気味が悪いんだけど……」

「にゃん……」

「そう感じるのか。そなたたちはこの状況を既に一度は経験しているから慣れていると思ったがのう」

「え、俺たち一度経験してるのか、これ」

「そうじゃ。今この世界は……」


 マキマキおじさんはもったいぶりながら口をゆっくりと開く。エアコンから吹き出る涼しい風が俺の焦れったい気分に辛うじて落ち着きを与えてくれる。


「この世界がなんなんだ?」

「ふふふ……なんと時間が止まっているのじゃ!」

「マジかよマキマキおじさん! あんたやれば出来る神さまだとは思ってたけど……出来すぎだろこれ!」

「ワシから加護を受けた者、そして縁のある者はこの世界には今までいなかったからのう! ちょっと頑張っちゃったぞい!」

「みゃん〜!」


 なるほどね、確かにここは俺たちが転生した異世界(アトランティス)と違って全然神さまが出てこない世界だし、お願いを叶える事も無くて張り切ったのか。


 思えばあの異世界は創造神であるアトラスが普通に山の山頂にいたりしたし、ガイアも草っぱらに生えてたし、マキマキおじさんも自分のアーティファクトを教会に押し付けて飾らせてたし、神さまと人間の距離が近い世界だったなぁ。アダムとイブはアトラスといつの間にか仲良くなってたし。あれには驚いたわ。あいつらそういうキャラじゃなかっただろって。まったく。


「待てよ、時間が止まったって事はエシャーティの居所を掴む願いはお流れになったのか」

「ご安心を! むろんワシは神じゃからその心配は無用じゃ」

「そうか! じゃあ早速案内してくれ」

「了解じゃ。フッフッフ、いよいよワシもヘリオスに次ぐ乗り物経験者か。しかもワシはピッピーじゃ! 古くさい馬車に乗ってイキってたヘリオスとは雲泥の差ッ! ワシ、すごい! ぐふふ!」

「う、うみゃあ……」

「そっとしておいてあげよう。さ、はいってアグニャ」

「にゃん〜」


 やけにテンションが高くなったマキマキおじさんは無視し、膝の上に乗っていたアグニャをケージの中へ入れてしっかりと後ろの席に固定して運転の準備をした。


 助手席ではまだグフグフと言っており気色が悪いのがいるが、歳を取ると少しでも人生経験において他人より一歩先んじていたい、という心は分からなくもないのであんまり強く言わないであげよう。いつまで経っても男は男なんだよ。それは神さまでも人間でも、動物でもロボットでも変わらんだろう。


「さ、出発するからシートベルトつけてね」

「了解じゃ〜! そーっと、優しく優しく……カチャン」

「よしよし。それじゃ行くぜ!」

「うひょひょ〜、たーのしみじゃァァァァ!」

「みゃん〜!」

「オラァ! 景気づけに一発、ピッピィィィィィィィィン!」

「ニャァァァン! うみゃあああん!」

「ど、どわぁ! 結構デカい音するんじゃのう」


 さてと。

 時間が止まってるってことは……

 どんだけオラつき運転してもお咎めなし、ってことだよなァ!?


「うなれ俺のマイワーゴナッ! 轟け振り抜けタコメータァァァァァ!!」


 オンボロですっかり滑り止めラバーのすり減ったアクセルペダルをまるで蹴っ飛ばすかのように思い切り踏み抜き、止まった時の中を目にも留まらぬスピードで駆け抜ける。それじゃマキマキおじさん、案内よろしくゥ!



エシャーティ「だーかーらー! あたしの症状ならあっちの病院で数日過ごすくらい余裕だって!」

医者「ダメダメ。今日は調子がいいとはいえ動くことすら出来ないその体では、ただの病院移転も命がけなんだから」

エシャーティ「じゃあもし今ここであたしが立ち上がる事が出来たら、あっちの病院に今日だけお世話んなるわよ! いいわね!」

医者「……ああ、いいだろう」

エシャーティ「よしきた! ィよいしょ〜!」

医者「!?!?!?」

エシャーティ(ふっふ〜ん。あの異世界の図書館で”呼吸術による人体反射の動作”って本を読んどいてよかった〜……おっとと!)


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