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アグニャ驚きの事実


 元の世界に戻るにあたってネコのアグニャと過ごした愛くるしい思い出に浸ってイメージトレーニングをしていたら、エシャーティたちが何やら約束事をし始めた。


「ねえアグニャ、もし元の世界に行ってネコに戻ってたらさ、触ってもいい?」

「何を妙なこと聞くミャ。触ればいいにゃん」

「ありがと! ネコも触ったことないんだよね。あー、かわいいんだろうなぁ〜」

「目の前にいるミャ〜。ほら、撫でるミャ」

「ねえエリミネーター、アグニャってどんなネコだったの?」

「みゃ……」


 砂浜に転がって撫でてくれるのを待っていたアグニャをガン無視して今度は俺に話しかけるエシャーティ。若干こいつもわがままというかアレだよな。


「アグニャとはペットショップで出会ったんだが、それはもう最高級ネコなんだぞ。どんくらいかというと、なんとちょっとしたピッピーが買えるくらいだ……!!」

「みゃ!? お、おじちゃんから生まれたんじゃないミャ!?」

「そんなわけないだろ。俺は人間でお前はネコなんだから」

「フニャァァァン、ショックだみゃ! 親子じゃなかったのかミャ……」

「ちょっとちょっと、さっきからピッピーが買えるだとか、おじちゃんから生まれた生まれてないだとか、ややこしいわよ!!」

「同感じゃ。まず当事者たちの話が終わるのを待つか」


 おお、空気が読める仲間たちで俺は助かるよ。しかしアグニャよ、お前は俺から生まれたとずっと思い込んでたのか。初耳だぞ。そもそも俺ずっと独身だろうが。もしや皮肉か?


「にゃあ〜、おじちゃんがボケたミャ……」

「ボケてねえよ。あのなアグニャ、確かに俺はアグニャが産まれた次の日にはお前を引き取った。だからもちろんお前の親だ」

「にゃ、にゃん」

「けれどお前を産んでくれた親は他にいる。俺の記憶が正しければ、まだペットショップでもらい手がつくのを待っているはずだ」

「ほんとかミャ!?」

「会いたいか?」

「あ……会ってみたいミャ!」


 そうだよな、自分の本当の親に会いたいのは当然だよな。そこは人間だろうがネコだろうが関係ない。しかし不安なのはアグニャの親猫だ。親猫が急にデカく育ったアグニャを見ても自分の子どもとは思わず、それどころか怖がってしまい引っ掻いたりする可能性も十分にある。


 賢くて人語を解し、聡明で大人しいアグニャが親猫からそんな対応をされてしまったら立ち直れないほどのショックを受けるかもしれない。けど……


「楽しみだミャ〜。どんなヤツかにゃ〜」

「うふふ、あたしも一緒に会いたいなぁ」

「それはいい考えだミャ! というか引き取ればいいニャ!」

「そうね! そしたらあなた、いつでもママとパパに会えるね!」

「あ、お父さんネコはもう他の人に飼われちゃってた」

「みゃ……まあ仕方ないミャン。ママから聞くミャ〜」


 こ、こんなに楽しみにしてる子にそんな暗い現実の話が出来るかよ! 俺は出来ないね! ていうかもしもお母さんネコが引っ掻いたりしそうなら、高級おやつとかで気を逸らしてあげよう。どうにかして仲良くさせないとやるせないじゃないか。


「ふふ、あんなに何かをしたがってるアグニャ初めて見た」

「そうだな。今までアグニャはその日暮らしが出来て、その場しのぎの退屈しのぎが出来ればいいって感じだったからな」

「これでなおさら元の世界に戻る理由ができたね」

「そうだな……」

「あなたは本当にそれでいいの?」


 少し心配するような表情を浮かべエシャーティは質問する。きっとアグニャが言っていた”元の世界では毎日辛そうな顔をしていた”というのが引っかかっているのだろうか。くぅ〜、こんなかわいい女の子に心配される身分になれるなんて、人生何があるかわからんね。


「正直言うと前の暮らしは救いのない人生そのものだった。アグニャがいてくれたから自殺は思いとどまっていたけど、そのアグニャが死んじゃったらすぐに後を追うくらいに未練なんてなかった」


 今でも鮮明に思い出せる不条理な悪意の数々。良い思い出なんてアグニャと過ごしたこと以外は何一つない。だからこそアグニャとの思い出が一段と輝いていて、死してなお繋がりを絶たれずにいられたのだろう。


「けどさ、今なら少しだけあの世界にも歯向かえる気がするんだ」

「そっか。やっぱりあなたはすごいや。あーあ、あたしも強くなりたいなー」

「何を言ってんだよ、俺がやる気になったのもお前みたいな純粋な人間がいるって分かったからだよ。あんな世界でもエシャーティみたいなのがいるんなら、救いはあるじゃんってな」

「あたしなんてちっぽけな女だよ。きっと生き返ったとしても、一人じゃ何もできないままだよ」


 おやおや、ちょっとだけしんみりしたお顔になっちゃったぞ。これはどうした、もしかして言葉選びを間違えちゃったかな。ええい、分からん、とりあえずキザっぽい事でも言うか!


「それでいいじゃないか。何かできるようになるまで俺がずっと付き合うぜ!」

「で、でもあたし、ほんとに体が弱くて身動きもできないんだよ……」

「動けるようになるまで俺がエシャーティの手足になれば解決だな!」

「あのね、お風呂だって誰かに入れてもらわないといけないんだよ?」

「こっちに来てからずっと暴れまわるアグニャを風呂に入れてるから問題ない! 暴れないからむしろ歓迎だぞ!」

「でも、でもでもでも!」

「さあ、次はなにかな!」

「……もう! 降参!」

「ははっ、やったぜ」


 ふぅ、ほんとにやったぜだよ全く。女の子ってなんで急にヒスるん? まあでもエシャーティだって今の世界に来て何不自由なく動けるのに、やっぱ窮屈な身の上へ戻りましょうってのは嫌なのだろうか。


「やっぱり帰るのは不安か?」

「ううん! 今の言葉で戻る決心できた! あなたがいる世界ならどこだって楽しそうだもん!」

「あ、そう。おーいアグニャ、決心できたって!」

「みゃ?」


 おしゃべりに飽きたのか、マキマキおじさんと一緒に海辺で遊んでいるアグニャに声をかけた。その口にはどこぞで発見したみかんの缶詰めがくわえれていた。


 そういえば時間は経たないけど腹はへってきたし、パン屋さんでしこたま取ってきたパンで朝食でも食うとしよう。


「ははっ、せっかくだからネコに戻る前にみかん食うか!」

「みゃん! ネコに戻ってもちょうだいにゃ!」

「そうだよ、あげればいいじゃないあげれば」

「う、うーむ。それはちょっと……」

「みゃん!」


 ワイワイと賑やかにパンや缶詰めを取り出し、俺たちはこの世界で最後になるかもしれない食事を楽しむのであった。



 ※注記

 みかんは皮に含まれるリモネンという物質がネコにとって有害なので、実は頭に載せるだけでもうっかり舐めたり噛んだりする可能性があって危険です。

 缶詰のみかんも薄皮までキチンと剥き直し、さらに水洗いして少量だけ与えるのが無難です。そしてみかんを食べてもそれほどネコの健康的に大きなメリットはないので、あげないのがベストでしょう。


(専門的な知識を持っていない人間の意見です。誤った事柄を記している可能性もあるので自己責任でペットに食事を与えてくださいね)


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