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「あたしは……あなたの事がいつの間にか好きになっていた。だからあたしの最後の夢、好きな人と一緒に色んな事をするっていう夢を叶えさせて!」


 どこからともなく吹く風がエシャーティのキラキラと柔らかな輝きを放つ金髪をなびかせ、真っ赤に染まる顔を覆い隠す。


 これまでちっとも恋愛という視点で接したことのなかった女からの突然の告白に、俺は思わず声を失ってしまった。しかしそんな事は露知らずアグニャたちはワイワイと騒ぎ出す。


「みゃー!? い、いつから好きだったんだミャ!」

「あたしも分からない……あ、でもあなたと二人でこいこい棒で遊んでた時に転んじゃったのを支えてくれたのは、すっごく大きな決め手になったかも」

「にゃん〜。そういえばあの時のエシャーティはメスの顔してたみゃん」

「ほー、メスの顔ってなんじゃ!? ワシ、見たいよ!」


 えっ、あの時そんな顔してたのエシャーティ!?

 全然気づかなかったんだけど。アグニャと遊んでくれて本当に仲良しさんだねぇ、とかあぶないっアグニャのお友達が怪我しちゃう! みたいにアグニャ主体で考えてたからかな。ちくしょう、メスの顔向けられてたのに全然気付かずスルーしたとかもったいなさすぎるだろ、ちくしょう。


「くそっ俺はなんてバカなんだッ!」

「どうしたのよ! あ、あたしに好かれるのは嫌だって言うの!?」

「みゃん〜、おじちゃんがいらにゃいにゃらもらうミャ」

「もらうってなに!? アグニャはあたしが好きなの!?」

「待て! 俺もアグニャが好きだぞ!」

「じゃあおぬしらは三角関係じゃな!」


 うおおおおおおおアグニャァァァァァァ俺を捨てないでくれェェェェ〜! アグニャがエシャーティに着いてくってんなら俺もエシャーティに着いてくぜェェェェ〜!


 ……って、こんな言い方じゃだめだよな。こんなにエシャーティは真剣に自分の一番の夢を俺に委ねてくれたのに、みんなして笑い飛ばしたらだめだよな。危うく俺はチャランポランな返事をするところだった。


 さあ目の前の潤んだ瞳を見つめて、心からの俺の本音をぶつけ返すんだ。それが”決着”ってもんだろう?


「エシャーティ」

「な、なによ、どうせあたしはアグニャより……」

「そんなイジけるなよ。照れ隠ししてすまん」

「照れ隠し?」

「ああ。お前との決着がつくと思うと、どうしてもドキドキしてしまってな」


 俺の真剣な態度に気付き相応の眼差しを向けてくれるエシャーティ。こいつなら……こいつにならアグニャと同じだけの信頼を置いても後悔はしないだろう。


「俺も……俺もエシャーティが好きだ! アグニャ以外で唯一心を開ける大切な存在だ!」

「本当に!? ねえ、本当に!?」

「大好きだ! 疑うなら何度でも、いつでも愛してるって言ってやるぜ!!」

「みゃん〜、おじちゃんがイキってるミャ」

「ねえワシは? ワシには心開いてないの?」

「お前も好きだァァァァァァァァァァァァァ」

「やったワイー! 嬉しいワイー!」

「あたしも嬉しい〜! やっほー!」

「おじちゃん大人気だみゃん〜」


 大喜びするエシャーティと便乗してはしゃいでいるマキマキおじさんとは対象的に、アグニャはちょっと冷めていた。わかってるわかってる。俺にとって一番大切な存在はアグニャなんだってキチンと伝えないと、すねちゃうんだよな。アグニャってば独占欲が高いんだからぁ。


「それもこれも全てアグニャのおかげだよ」

「にゃん〜?」

「俺が次々と行動を起こしてきたのも、全てアグニャが喜ぶ姿が見たかったからだ」

「みゃ、みゃあ」

「その結果こうして人から好かれた。俺にとってアグニャは一番特別。アグニャが一番! ナンバーワン!」

「にゃあ〜ご、そんにゃに大好きだミャ?」

「俺は口から出任せを言えるほどコミュ力高くねえっての知ってるだろ〜? こいつめー!」

「ふみゃん。ゴロゴロゴロ……」


 アグニャの頭を撫でながら精一杯の本心を伝えると、照れ隠しなのかそれともお礼なのかグイグイと体を擦り付けてきて過激な愛情表現を致してくれた。これあれか、ネコちゃんたちが自分のお気に入りの物に体を擦り付けてきてニオイつけして、他人から取られないようマーキングするあれか。


 しかしそんなネコの習性を知らないエシャーティはアグニャの行動にジェラシーを感じたようで、自分も負けまいと俺の老体に抱きついてきた!


「あ、あたしも負けないんだからっ」

「うみゃ〜? エシャーティもマーキングみゃ?」

「そっ……そうね! あた、あたしの物だもんね!」

「ぬわー! じゃあワシも……クァァァァァァ!」

「うひょひょ、俺モテモテだねぇ」


 みんなから俺は抱きつかれ有頂天になってしまう。心からの友人たちが俺と接して笑顔を向けてくれる。こんなにも楽しい時間がいつまでも続けられるなんて、それこそ夢のようなことだ。


 いつまでもいつまでも、のんびりと不条理な悪意の消え去ったこの世界で楽しく過ごせれば……


 ……


 いや、それはダメだ。確かにこの世界は綺麗サッパリ何も無くなり過ごしやすくはなった。サッパリしすぎて海だけの世界になったが、きっとマキマキおじさんやそのうちリスポーンするであろうガイアに頼み込めば生活するための食事などに困ることはない。


 けれどそれじゃあエシャーティの夢はどうなる?

 好きな人と一緒に”色んな事をする”という夢は。


 この無の世界ではその夢は到底叶える事ができないじゃないか。それに今の俺がしたいことはなんだ? 今までずっと、アグニャと共にこの海を目指して旅を続けていたが、その後は……?


「みゃん? おじちゃんどうしたみゃ」

「考え事をしていたんだ。考え事をな」

「水臭いね〜、一人で抱え込まないであたしたちにも相談しなよ」

「そうじゃぞ、ワシらダチじゃないかァ〜」

「お、お前たち……」


 そうだ、俺には心を開いた友人たちがいるじゃないか。だったらもうやりたい事がなくなってしまった、なんて贅沢な悩みは捨てちまえ。今までの人生で一度も言ったことのない、俺の夢見ていた言葉を今こそ言ってみるべきだ。友達のいない俺が夢見てきた、手の届かないと思っていたあの言葉を!


「……あのさ、これから何しようか悩んでたんだ。だからその、みんなで決めよっかなって」


 はは、なんつーしょうもない夢なんだろうな。そうだよ、こんな”みんなで何かを決める”っていう事すら、今までの人生で経験したことないんだぜ。いっつも流されてばっかり。ずっとその場しのぎばかり。


 その結果が定職に就けない、独り立ちも許されない、反抗する気骨もない、ネコであるアグニャに生を支えてもらう情けない弱者男性だったってわけさ。


 けれどもう弱者男性とは言わせない。だってほら、俺の提案を聞いたこいつらは……


「みゃん! それじゃあ次は涼しいところに行きたいミャ〜」

「そうね、ずっとお日様をダイレクトに浴びてたからさすがに暑いね」

「あ! じゃあ南極にでも行くか!?」

「いいじゃない! ペンギンに会いましょう!」

「うみゃ〜、食うニ゛ャ」

「ちょっとアグニャ、ペンギンは食べ物じゃないよ」

「みゃあ?」


 ほら、こいつらはこんなにも笑顔で俺の言葉に色々な反応を示してくれるじゃないか。そして俺の大切な存在であるアグニャとエシャーティはこんなにも仲良くじゃれあっている。


 じゃあ行くしかないな、南極に……!


「あ、あの〜、盛り上がっているところ言いにくいんじゃが、このアトランティスには南極は無いのじゃ」

「え?」

「北極もないぞい」

「みゃ?」

「じゃ、じゃあ月に行きましょう!!!!」

「気づいてないようじゃが、おぬしらのダブルエリミネーションの影響で月という存在が……いや、時間という概念も消し飛んだぞい」



おじ「ところでメスの顔ってどんな感じだったんだ?」

アグニャ「それはもう、にゃんにゃ〜んって顔だったみゃ」

エシャーティ「そんな顔してないわよ!!」

アグニャ「またまた〜。そうにゃおじちゃん、エシャーティのお尻でも撫でれば見れるみゃんよ」

おじ「ほほーう!」

エシャーティ「ま、まあ撫でたいなら撫でさせるけどさ。それがあなたの望みならこれも人助けだもんね……?」

おじ「なるほど、これがメスの顔かァ!」

エシャーティ「ふへっ!?」


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