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一度限りの神殺し


 遂に終わりの時が来た! ひたすらにマキマキおじさんへ祈りを捧げ数十分、遂に願いが届く瞬間がやってきた!


「……よし! 願いが届いたのじゃ!」

「みゃあ、めちゃくちゃ時間かかったみゃ」

「本当にご苦労じゃった。それじゃ……」

「そなたたちの強い願い、承った!」


 マキマキおじさんが恒例の言葉を発すると相も変わらずクァァと口から水を吐き出して俺の両手にぶっかけてきた。あのさぁ、最終決戦をキメる大事な場面なんだからさ、今回くらいはきったねえ絵面は控えてくれると思ったんだけど。


「うみゃ〜、きちゃにゃぁい……」

「よく他人の体液を浴びれるわね」

「体液って言うな! 生々しい!」

「クァァ、クァァ〜!」

「ほら、マキマキおじさんも抗議してるぞ」

「よく聞き取れるね……」


 まあ何となく勘だけどな。それより本当に俺の両手には神殺しの力が与えられたのだろうか。さっきからバシャバシャと汚水を引っ掛けられているが、特にパワーアップした手応えとかが無くて少し不安になってきたぞ。


「……よし、完了じゃ!」

「え、マジで?」

「言っておくが本当に一度きりの必殺技じゃから、くれぐれもワシで試し殴りとかするんじゃないぞ」

「そうかわかったァァァァっと手が滑るゥーんだ!」

「お、お、お、おわわわわわわァァァァ」


 マキマキおじさんは今までに見たことのないスピード感で背中を仰け反らせブリッヂを披露した。ははっ、無理すんなよ腰を痛めるぜ。


「はヒュっはヒュっ」

「ど、どうやら本当にヤバいみたいね。あたしから見たら今までのパンチと変わり映えしてないけど」

「いや、俺も正直実感がない」

「みゃあ〜、にゃんでもいいみゃ、早くあの石を壊すミャ」

「なんだ飽きてきたのか?」

「ち、ちがうみゃ、おしっこだみゃ」

「おしっこ!? すまんすまん、手早く終わらせる!」


 そういうわけでお疲れさん、アトラス! お前がいると警戒心の強いアグニャは気が散っておしっこできないみたいだから、そろそろ退場願いますわ!


「それじゃアトラス……一度限りの神殺し(エリミネーション)、喰らえェェェェ!」

「ま、待った! 降参、降参しまーす!」

「うわ! 急に喋るな、ビックリしたじゃねえか!」

「うわ〜すっご、当て損ねたプロミネンスアッパーがお空の雲を溶かしてる……!」

「あ……若干漏れたミャ……」


 ほらどうしてくれるんだよ、アグニャがチビッちゃったじゃん。だいたいアトラスさんよ、ここまでイキってだんまり決め込んでたクセにヤバくなると降参って都合が良すぎやしませんかい。観念して俺の拳に葬られろよ。どうせリスポーンするだろお前たち。


「そのパンチはヤバイ! ワシの負け癖がついた生き様が警笛を鳴らしとる! 本当にヤバいんじゃァァァ!」

「うるさいぞアトラス! 大人しく死ね!」

「……んやる!」

「みゃ? 恐怖でボケたみゃ?」

「この世界を半分やる! だから命だけは!」

「お前……お前それ、」


 ほんとにお前それさぁ……としか言えねえ。まるっきりラスボス戦前で邪神が主人公に提案してくるアレだもん。あんまりゲームはしなかった俺ですらそのやり取りは知っているぞ。そしてどういう選択肢を選んだらどんな目になるのかもな。旨い話は罠がある、っていうのは常識だ。


「お願いじゃあ〜、もう死ぬのはコリゴリじゃあ〜、こんな立て続けに死んでたら天界でいじめられる!」

「あ!!」

「なんだ、限界かアグニャ!?」

「あ!! あ!!」

「ヤバいヤバい、あたしちょっとこの子を連れて済ませてくる!!」

「すまん、頼むぞ!」

「ぷるぷる……」


 アグニャは我慢の限界を迎えたのか身じろぎ一つしなくなった。見かねたエシャーティは大急ぎでアグニャを抱え少し離れた場所へ行き、アグニャを開放してあげた。しかしもはや自力でパンツを降ろすことすらできないほど切羽詰まっているのか、エシャーティがおろおろしながら格闘している。


「ぷるぷるぷるぷるぷる……」

「あと1秒待ってねアグニャ! すぽーん!」

「ふ、ふにゃにゃにゃにゃ〜〜〜」

「わっ、すごい出る! えらいねアグニャ、よく我慢したね〜」

「ふにゃ〜、ゴロゴロゴロ……」

「ちょっと、出しながら頭をスリスリしてこないでよ!」


 俺たち男性諸君は麗しい乙女たちの華やかで悩ましいやり取りが繰り広げられ、人間とか神とか、いや敵とか味方とかすら関係なしに全員が同じ行動を取った。それは決して向こうの光景には目を向けず、全身全霊で聞き耳を立てるという”男の中の男スタイル”を取った。


 俺たちは紳士だ。けれど野獣だ。だからこのスタイルに行き着いた。ああ、いい音。かわいい声。そして繰り広げられるアグニャとエシャーティの触れ合い。見えないけどすごく良い。ふっ、今ばかりはアトラスよ、お前も仲間だ……


「お待たせ……って、あなたたちどうしたの?」

「みんにゃ向き合って仲良しみゃ〜」

「ハッ……もう帰ってきたのか。おいジジィ、覚悟しろ!」

「嫌じゃァァァ、し、死にたくないぃぃぃ」

「おじちゃん、やっぱり情緒不安定みゃあ」


 仲良しごっこはおしまいだァァァァァァ! 石化して身を縮こませてももう遅い!! それよりも言い残した事がないよう、遺言でも吐くこったなァ!


「アトラス。何か言い残すことはあるか?」

「ほ、ほんとにワシをまたぶち殺すのか?」

「クドいぞ。さーて、右手と左手どっちでヤるか」

「くっ、せっかくこの素晴らしい世界を創造して天界での格を高めたのに、それも全てパァか……」

「えっ、あなたそんなに偉い神さまだったの!?」


 アトラスがポロッと言った驚きの事実に俺もビックリ。そういえばさっき”この世界を半分やろう”とか強者っぽい事言ってたけど、もしかしてあんた結構すごい神?


 そんな疑問が浮かぶ俺たちに、マキマキおじさんは丁寧に解説してくれる。


「知らなかったのか? この世界はそこの負け負けおじさんが作り出した”アトランティス”という名前なんじゃぞ」

「な、なにが負け負けおじさんじゃ! このマキマキおじさんめッ!」

「アトランティスって聞いたことあるわ、古代の超文明だよね?」

「みゃあ? 知らんミャ。あすれちっくなら好きだミャ」


 そうそう、アグニャは俺の狭い部屋の半分以上を占領してたキャットタワーことアスレチックで遊ぶのが大好きだった。足場の一個一個にザルとか置いてあげてたのだが、そこに入ってふてぶてしく俺を見下すのが愛嬌あってかわいかったなぁ〜……て、話が逸れた。アトランティスだよ、アトランティス。


「そうか、この世界はアトランティスだったのか。ということは俺たちがいた時代の遥か昔……ってことなのか!?」

「それは知らんよ。ただ天界からそなたたちを見た限りでは、この世界線の人間ではないのは確かじゃ」

「じゃあやっぱ異世界なんだな、ここは」

「そうなるな。それではその、ワシは信者たちの元へ参りますので……」

「いやいやいやアトラスさん、まだ話はあるぜ」


 なに逃げようとしてんだよクソジジイ。それとこれとは別だぜ。お前がこの世界を作り出したのは確かにすごいが、そこに住む人間どもはお前のようにロクに俺の話を聞こうとしない、そればかりか敵意ばかりを向けてくるクソみたいな文明だったぜ。


 だからお前が作り出したって聞いて納得した。そして作った者として気分を害した者への贖罪を果たすべきだ。それが”この不条理な世界でアグニャと好き勝手するため、エリミネーションで全てをやり直す”と誓った俺の答えだ!


「お前が……お前が話を聞かないジジィだったせいで、俺はずっとこの世界で嫌な思いをしてきた! だからこの手で俺の怒りを、苦しみを分かち合おうッ!」

「よ、よさぬかー!」

「喰らえェェェェ! 一度限りの神殺し(エリミネーション)!」

「ぐ、ぐがっ、グギャギャギャ!!!!!」


 マキマキおじさんから授かった神殺しの力が、俺の右手を通してこの世界の創造主へと叩き込まれる。するとアトラスはバチバチバチと黒い波動を放ち、パキパキというあっけない音を出し全身にヒビをいれながらボロボロと崩れ去っていった。


 どこからともなく吹く、潮を含んだ海風がその破片を風に乗せて連れ去ってゆく。


 これで……これでもう、俺のやりたい事はすべて終わったのか……?


 俺たちが好き勝手に生きるのを邪魔する奴らは確かにいなくなった。けれどなんだろう、この虚無心は。まるで生きていく原動力がアトラスの破片とともに消え去っていったような、そんな気分だ。


 俺はこれからどうすればいいんだ? こんな何もない世界で一体なにをどう好き勝手しろっていうんだ? 教えてくれよ、みんな。



アトラス「嫌じゃあ〜、天界でいじめられるんじゃァァァ。格が下がるんじゃァァァ」

おじ「ところで格が下がるとどうなるんだ?」

マキおじ「悲惨じゃぞ〜。フィンフォンファッタラリーラヨイヨイヨーイという名前を聞いたことはあるかの?」

アグニャ「それは確か第16話で出たヘンテコ神話の主神だみゃ!」

マキおじ「コイツは元々ゼウスという名じゃったが、格を落としすぎてこんな悲惨な名前に改名されたのじゃよ……!!」

おじ「ひぇ〜、それゼウスだったのかよ……」


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