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朝焼けに濁るダイヤモンド


 二人が同時にエリミネーションを発動する。それは二人の転生者が偶然出会い、そして運良く仲良くなってしまえば、あるいは運悪く敵同士になってしまえば、いつかは起こり得る事柄であろう。


 俺一人で放っても神々すら消し去るエリミネーションが同時に放たれた暁には、いったいどんな現象が起こるのか。答えは……


「憎たらしいほど眩しい朝日だな」

「そうね。まるでさっきの光みたい」

「みゃん。ニャンにもなくみゃったみゃ」


 そう、神を含む全ての生命の破壊だった。動く生物だけでは飽き足らずに生命と呼べるものは植物だろうがなんだろうが片っ端から消し飛ばしたようで、もはやこの世界にはサラサラとした砂浜、いつまでも続く青光りする海、そして遮蔽物がないのを良いことに俺たちを灼くように照らす太陽しか存在しないみたいだった。


 ダブルエリミネーションがこの世界を灼き尽くしたのだ。太陽を極限まで地面に近づけたような青白く身を焦がす恐ろしい光が、何もかもを消し去ってしまったのである。数百万の人間たちも、ガイアも、アトラスも、そしてマキマキおじさんまでも……


「ごめんね……」

「なに謝ってんだ、エシャーティ」

「だってあたしの軽い思いつきで世界が……」

「みゃあ、スッキリして過ごしやすいみゃん〜」

「俺たちは無事だったし全然問題ないぞ!」

「そ、そっか。でもさすがに殺風景すぎるよ」


 確かに今のままでは非常に最終回感が漂っていて縁起でもないな。とはいえ俺たちの能力では無から有を生み出せないのでどうしようもない。むしろ有を無にしたばかりだ。うむーっ。


 途方もなくだだっ広い海を三人でぼんやりと眺める。と、完全に誰もいないだろうと油断していた次の瞬間……


「みーつーけーたーぞー、エリミネーター!!」

「ハァ、ハァ、アトラスさまの加護が無ければ巻き添えで死ぬところだった……!」

「お、おみゃえらは!」

「精悍な男と女騎士!」

「あのさ、ずっと気になってたけど、その人たちにもお名前があるんじゃないの?」

「おお、それもそうだな金髪女!」

「ははーん、あなたわざとね」


 だって俺、名前で誰かを呼ぶ事が滅多にない人生だったからよォ。他人の名前を聞くっていう人と接する際の最初のステップをほぼ経験せずに生きてきたから、もう見た目で他人を判別するのが身に染みてるのよ。哀れすぎて泣ける。


「そうだぞエリミネーター! 俺にはアダムというご先祖様から代々受け継いだ立派な名があるんだ!」

「私だってイブというキュートな名前がある。クリスマス・イブに生まれたからというロマンチックな由来まであるんだぞ」

「へぇ〜」

「みゃん」

「どうでもよさそうにするな!」


 実際お前がアダムだろうがハオランだろうがグエンだろうが何でもいいし。とはいえアトラスの加護を受けていたおかげでこうして生き残った二人組がアダムとイブっていうのはなんて偶然だろうか。ちょっとカッコいい物を感じるね。


「それでアダムとイブさんよ、俺たちに何の用だ。もう頼みの綱のアトラスも、わらわらたかってた人間たちも、何にもいないぜ」

「ふっふっふ、考えが甘いな。お前たちは絶対的な力を手にし、誰も頼らない事に慣れすぎたのだ」

「ど、どういう意味よ。まだ何か手があるの?」

「冥土の土産に教えてやろう。神から賜る祝福にはニ種類ある。加護と……」

「縁だァァァァァァァ!」


 急に勢いよく叫んだ精悍な男ことアダム。これはなんだ、イヤァァァァァァァァァァァって叫んだほうがいいのか。でも男同士でそのお約束をこなすの嫌だな。


 ていうか待てよ、縁? それって以前マキマキおじさんと会ったときに何気なく縁があるのぅとか言われてたけど……いいや、今はそれどころじゃないな。


「いでよ巨神、アトラァァァァス」

「ふぉふぉ、よくぞ呼んでくれた」

「みゃあ〜、まーたあいつだみゃ」

「何度も何度も出てきて正直飽きた」

「あたしもガイア呼んでみようかな」

「おうおう、やったれやったれ」


 アトラスやアダムたちも呼べるもんなら呼んでみんかいって態度でこちらを睨んでるし。さてさてガイアは来てくれるかな。


「出でよ大地母神、ガイア〜」

「……」

「来ないミャ」

「やっぱ死んでから少ししか経ってないから、まだリスポーンしないのかね」

「それはおかしいよ! じゃあなんであっちのアトラスはすぐ来たのよ! それも万全の状態で!」

「そ、そうキレられても……」


 でも確かにアトラスは数十分前にダブルエリミネーションで死んだばかりだというのに、頭だけの登場となったガイアとは違いキチンと万全の状態で出てきた。


 もしかしたら加護と縁の違いというのはそこにあるのかもしれない。加護を授かった人間と縁を授かった人間はそれぞれ同じ神を呼べるけど、それぞれ個別にリスポーンの時間が与えられているとかなのだろうか。めちゃくちゃな存在だな、神。


「貴様らがワケのわからん術で無差別に全生命体を虐殺してくれたおかげで、ワシが今、この世界の唯一神となった。礼を言うぞ。」

「なーにが礼を言うぞ、だよ。あのな、こっちには神を攻撃できるアグニャちゃんがいらっしゃるんだが?」

「みゃん!」

「ふん、ワシの力を忘れたのかな」

「ああ忘れたよ。いけ、アグニャ!」

「うみゃみゃ〜!」


 アグニャはその場にスックとしゃがみこむとバルバウス・バネを引き絞り、ギギギと膝を軋ませながらドフューンとアトラスへ飛びかかった。渾身のライズナップアローバッツ!


 が、アトラスは捨て身の突進を石化して受け止め、スコーンという軽快な音を立てながらアグニャを跳ね返した。いやどういう衝突音だよスコーンて。アグニャの体はスカスカなのか……?


「にゃん〜、石ににゃるとベチベチがきかにゃい」

「べ、ベチベチしてたのか?」

「みゃふん〜。人間の目では追えにゃいみゃんね」

「あたしたちじゃ目視できない、高レベルな戦いをしてたのね……」

「ふぉっふぉ。そなたがワシを石化させたおかげで、ワシは石化を克服し自由に操れるようになったのじゃよ」


 ……あー! そういえばアトラスは俺がエリミネーションしたら石化したんだっけ!? すっかり忘れていた。いちいち倒したヤツの事なんか覚えてられんからな。そうか、なんで石化したらエリミネーション効かねえんだ? って謎だったけどそういう事だったのね。


 って、ホントに何もかも裏目に出るよう仕組まれててクソじゃないかーーーーーー!!


「クソ、腹立つジジィだぜ! エリミネーション!!」

「だから効かんて」

「はっはっは、得意の術が無ければゴミみたいな男だな、エリミネーター!」

「そうだなアダム、どうして私達はあんな男に怯えて逃げたのだろう。よく見るとハゲていて冴えないおっさんじゃないか」

「あ、もしかしてあの力が無いと何も取り柄が無くて無能すぎるから、ああして震えながらペットに戦ってもらうしかないんじゃないか!?」

「ははははっ、なんと情けない! あれでも男か? 少女二人に守られて震えるのが男か?」

「いいや、あれは……下等生物の弱者男性、だな」


 弱者……男性だと?


「ほーら、悔しければかかってこい、弱者男性おじさんよォ!」

「お得意の呪文がないと怖いかな〜? 弱者男性おっじさーん!」

「ふぉっふぉ、チクチク言葉にビビって無言になったのじゃ。カスじゃのう、弱者男性とやらは」

「みゃー! おじちゃんをバカにするにゃ!」

「そうよ! あんなやつらお得意の筋肉で瞬殺でしょ!」

「そうだな、俺は……俺は力で何でも解決するのが得意な男だァァァァァァ!」


 雄叫びをあげ、煽り散らすアトラスへと振りかぶる。アグニャのように神の加護が無いからどれだけ強力な攻撃でも効かないのはわかっているさ。けれど俺は俺の信頼に足る、そしてエシャーティたちが信じているこの40年の地獄を耐えた肉体を使うしかないんだよ!!!!


「アトラァァァァス!! テメーをぶっ殺すのにエリミネーションはいらねえんだよ! 全力で耐えてみろやァァァァァァ!!」

「だーから効かんって! ほれ、石化ァァァ!」

「おじちゃん! そんにゃ石クズにゃんて砕いちゃうミャァァ!」

「そうよ、そんな使い古しのジルコニアくらいあなたの”固い信念”でぶっ壊しなさい!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 40年間、俺の苦労を一手に担ってくれたダイアモンドのようにカチカチで偉大なめて。40年間、俺の過酷な人生を全て乗り切ってくれたミチミチで立派なゆんで。


 生まれつき俺に備わっていた二つの”固い信念”たちが不条理という強大な悪意を相手に挑む。石化したアトラスはまさに不条理なほど堅固で強靭だった。巨神を名乗るだけの揺るぎない雄大さもあった。けれど俺は叩きまくり、不条理の権化に抗い続ける。


 今までの俺の人生がそうであったように……

 そして、これから先も抗い続けるために……

 ひたすら、ひたすらに殴り続けた。



 ……みゃん! にゃあ! にゃん〜!

 ……エエリリミミネネェェシショョオオンン!!


アダム「なっなんだァ、あの神罰のような光は!」

イブ「ああっアトラスさま、私達をお守りください!」

アトラス「そ、その強い願い、承った!」

アダム「やったー! 頼んでみるもんだな!」

アトラス(とか言われてもあんな殺意の塊みたいな光、どないして防げちゅうんじゃ!)

アトラス「え、ええーい! とにかく石化! フルパワー石化じゃァァァァァァ」


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