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やりたいこと


 俺たち4人組は夕食を終えたあと仲良く夜の海岸を散歩し、満天の星空とみなもに浮かぶ満月の揺れる様をのんびりと眺め、穏やかな夜を過ごしていた。


 アグニャは夜になり気分が昂ぶってきたのか、砂浜に頭をうずめたりして楽しそうに暴れているし、マキマキおじさんはどこからか取り出したフグをバスケットボールのように海面上でドリブルしながら、イルカにパスして遊んでいる。これが神々の戯れですか。むご。


「あの二人は見ているだけで面白いね」

「そうだろう、エシャーティ。人助けの旅なんて辛い思いばかりする事はやめて、俺たちと楽しく過ごそうよ」

「……うん」


 それもいいかもね、なんて曖昧な返事をするエシャーティ。ちゃぷちゃぷと水に着けた足を揺すって、まるで本心を誤魔化すような曖昧な返事。そんな譲歩されたような感じでオッケーもらってもちっとも嬉しくないよ。エシャーティが自ら進んで一緒にいたいよ〜、ってくらいノリノリじゃないと嫌だよ。


「どうしても人助けを諦めきれないのか」

「そりゃそうだよ。あたしの無限にある夢のうちの、最も大きな夢なんだから」

「本当にそうなのか?」

「え……?」

「いや、人助けをするヒーローになりたいって夢は確かにエシャーティの中では本物の夢だろうし、大きな信念でもあるんだろう。けどさ、」

「うん、なにか言いたいのね。なにかしら」

「お前の一番の夢がそんな他人のための夢でいいのかよ」


 そう言われたエシャーティは少し困ったような顔をして、黙りこくって何かを考え始めた。その様子を見るに俺の指摘は図星だったので、自分の心に再び夢は何かと問いかけているのだろうか。


「そうね、そうなのよ、その夢にあたしはどこにもいない。手に入るのは充足感だけで、代わりにいつまでも人を助け続けなきゃ信頼を失う……」

「だいたい人助けだってずっと続けていれば、いずれ行動が裏目に出ることだってある。ほら、教会とかそうだろ」

「言われてみればそうだよね……」


 エシャーティは良かれと思ってあの金融教会でくすぶっていた少年の脱走の手引きをしようとしていたが、その少年の将来は親殺しや盗賊に身を落とすのが目に見えていた。


 大人しく姉や大人たちの言うことを聞いて、悪どいけれどしっかりとした設備が整っていたあの教会で育っていればまともな人間としての道を歩めたはずなのに。まあ最終的には俺が壊滅させたから何とも言えないけど。


 どうやらエシャーティもその事は分かっているようで、金色をした頭をかしげながらしばらく悩んだ末、絞り出すように苦悩を吐き出した。


「で、でも、それでもあたしは……ずっと誰かに助けてもらって生きてきたし、こうして元気な体になったんだから人を助ける側に回りたいよ……」


 ここまで純粋な善意を持った人間がいるだろうか。こんなにも見た目に負けない美しい心を持った女性がいるだろうか。エシャーティの歩んできた辛く苦しい人生で、どうして心が折れずにいられるんだろう。


 弱者男性の薄汚れた40歳よ、お前のワガママで無神経にこの聖女を悩ませていいのか? そんな権利がお前なんかにあるのか? だいたいお前が普段考えている事なんてたかが知れているではないか。


 食事の時はだいたい何か食ってんなぁとか、節分は一年ぶりだなぁ、みたいに中身が無いどころかもはや思考の無駄にしかならん事しか思い浮かんでないじゃん。ていうか改めて見ると結構酷くね、俺の思考経路。そのうち水は水分100%なんだよ、とか言っちゃいそうで怖い。


「えっと、あの、ぼんやりしてどうしたの?」

「いや、あんまりにも綺麗だから見惚れていたぜ!」

「はぁ〜、ほんと……真剣に考え事してたと思ったらそうでもないんだから。えへ、えへぇ〜」

「おいおい、顔がニヤついてるぜ!」

「うへ?」


 こいつはこいつでホントに顔に出やすい女だな。しかしそれもまた魅力になっちゃうから美少女っていうのは得している。俺がニヤけてたら即座に距離を取られるというのに。


 しかしこう和やかな雰囲気になると中々シリアスな話をしにくいじゃないか。というか俺たちは時間がいくらでもある身だというのに、結論を急いだってしょうがないしな。エシャーティも少しうつらうつらとしてきたし今日はもう休むとしよう。


 水辺から離れて砂浜に設営した寝床に座り込み、まだ遊んでいるアグニャたちに大声で呼びかけた。


「アグニャー、マキマキおじさーん、そろそろ寝ようぜ〜」

「うみゃー! ズシャァァァァァ」

「今行くー! スパァァァァァン」

「うわ、フグがイルカの土手っ腹に刺さった」

「ねえ、アグニャが何か持ってきた!」

「みゃん〜!」

「どれどれ。ほほーう、クソデカフナムシ!」

「い、い、い、イヤァァァァァ」


 どうしたんだエシャーティ、前クソデカフナムシの話をした時はあんなに興味津々で聞いていたじゃないか。ほら、いくらでも見ろよ。つか触る?


「ホイッ!」

「ひぎゃぁぁぁぁ! アグニャ、どっかやって!」

「にゃあご、スヤスヤ」

「な、なんでもう寝てるのよ!」

「そりゃネコだし……」

「とにかくその虫、誰か捨ててきてよっ」

「虫さんだって生きてるんじゃぞ、まったく。さあワシに着いてきな、フナジャイル」


 マキマキおじさん、虫に名前つける系だったのね。フナジャイルもフナジャイルで素直にマキマキおじさんについて行ってかわいい。クソデカフナムシだけど。


「ふぅ、ふぅ、あーこわかった」

「ははっ、完全無敵のエシャーティにも弱点があったんだな」

「当然よ! あ、ああ、思い出しただけでこわい! ねえ、一緒に寝て!」

「ええ、そんな大袈裟な」

「い、い、いいからお願い! ていうか離れたら怒るから!」


 そう言うとアグニャを押しのけて俺の寝床へと侵入してきた。もちろんアグニャは突然の横暴に不服そうに異議を唱え、ふしゃぁぁぁと言いながら反対側に回り込み俺に引っ付いてきた。

 あのね、おじさんを美少女でサンドイッチしないで。そろそろやばいんだよ、加齢による本能の欲が薄まってきたとはいえ、これはやばいんだよ。


 でもそんなことは知らなーい、あなたを信じてまーすと言わんばかりに女の子たちはすぐにスヤスヤと眠り始めた。


 ええい、マキマキおじさんはどこまでフナジャイルを連れて行ってんだ。早く戻ってきて俺の気を紛らわせてくれないと、俺の下心にフラストレーションが溜まって奇行に走ってしまうじゃないか。はやく、はやく帰ってきてくれー!!



エシャーティ「泳いだのはいいけど、なんだか体がベタベタするね。ああ、お風呂はいりたーい」

おじ「海水でもお湯にしたらベタつかず風呂に出来るけど、ドラム缶とかがないからなぁ」

マキおじ「なんじゃ、湯浴みがしたいのか。それじゃ……わかるな?」

おじ「なるほど! うおお〜、神よ〜、ジーザス!!」

アグニャ「みゃあ!? 掘った穴にお湯が満ちていくみゃ!?」


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