そなたの願いを叶えてやろう
エリミネーションを食らって崩壊した街を後にし、俺はアグニャたちの向かった先へ全力疾走していた。どうしてアグニャたちの向かった方向が分かるのかって? それは”ある協力者”がいたからさ。そう、色々と便利な存在の協力者がな……
「オケアノスおじさんさぁ、こっちでホントにあってるの?」
「ワシを信じろ! 神のみぞ持つ直感があるのじゃ」
「でももう10分も走ってるぜ。どんだけアグニャは街から離れたんだよ」
「そんなのワシが知るわけないじゃん」
そう、マキマキおじさんである。この世界に来てから初めてアグニャと離れ一人の時間を手に入れた俺は、久々に気兼ねなくクソをしていたのだが、どうやらその行為がマキマキおじさんを召喚(?)したみたく感動の再会となったわけだ。どうしてこの世界の神さまたちはことごとく汚い物にたかる習性があるのだろう。
というかその理屈で言うとベルゼブブがいたとすればいったい何がアイデンティティになるんだろう。あいつハエ神だぞ。だのにマキマキおじさんとかムチムチガイアはうんこしっこにたかってたぞ。どう出るハエ王!
「なあオケアノスおじさん、どうしてあんたらは人の排泄物に寄ってくるんだ?」
「ワシらが寄ってくるんじゃない。そなたたちがワシらの上にクソをするのだ」
「にしてはヒット率が高くない?」
「うーむ、そなたとは”縁”があるからのう」
お、なんかようやくこの世界の神さまらしく独特のワードを出してきたぞ。何だよ縁って。マキマキおじさんとは確かに縁があるなぁとは思うけど、俺のサーヴァントとか守護精霊とかになってました、とか嫌だからね。おじさんとおじさんの組み合わせは需要が無いんだよ。
なんか褐色美少女でエキゾチックな太陽神ラーとか、人見知りで他人と目を合わせるのが苦手なナイスバディの蛇娘メデューサとかいないの? 美女✕おじさん=大ヒット作品の起爆剤よ。ねえ。ハーレム作らせろオラ。モテたいんじゃ。モテたいんじゃァァァァァァァ!
「オラ、お前が美少女になれー!!」
「ぬ、ぬわー! あんまり強く念じるな!」
「お、その反応はまさか!?」
「ぐ、ぐ、ぐわわわわぁ!!」
突如として全身から光を放ち、まるでこれから進化するかのように神々しく浮かび上がるマキマキおじさん。これはもしや女体化のじゃロリヒゲおじさんの爆誕か!?
「……あ、あぁ、あがががが」
「あれ、マキマキおじさんのままじゃねえか」
「いや、お前のせいでマキマキ”おばさん”になってしまった」
「どういう事だ?」
「”無い”んだよ」
「な、無いだと?」
「うむ……」
マキマキおじさんが触れと言うので俺は恐る恐る服の上から股ぐらを触ってみたら……な、ない? いや服で分かりにくいけどあるような? でも手応えは無いし……ていうか女の股間を触ったことがないから無いという具合が分からん。くそ、なんかモヤモヤしてきたぞ。
「あんまりモゾモゾと触るんじゃない!」
「いや、ある気もするし無い感じもしていまいち確信が……」
「なんでじゃい! どう考えてもないじゃろ、ほら見ろ!」
「うわ、ほんとだ!」
ズボンを脱ぎ下着をキュッと食い込ませたら無いのが実によくわかった。見た目はヒゲ面のおっさんなのにブツがないのは、なんというか時代の最先端を行っててトレンディだね。すごいぞマキマキおじさん。俺はそういう人たちにはなるべく寄り添った姿勢でいようと思ってるからな、偏見反対!
「あの、ワシとの縁を持つそなたが再び強く願えば元に戻れるんで助けてくれ……」
「そうなのか、でもさっきはめっちゃ強い思いだったからなぁ。ちょっとイメトレのヒントくれよ」
「い、イメトレ!? 急に言われても思いつかんのじゃ」
さっきのハーレムを作りたい! 女の子の神さまに会いたい! という俺の切実で欲深い強力な意志に匹敵する思いなんてそうそう浮かばないぞ。ましてやさっきの逆だから男の神さまに会いたいウホ! ってことだろ? 無理です!
そんな俺の気持ちを察したのか、マキマキおじさんは何か思い浮かんだような表情で解決策を提案した。
「そうじゃ、そなたの望みを一つ叶えてあげちゃうぞい!」
「え、そんなことできるの?」
「ワシは神さまじゃからな。ただし条件としてワシにアーティファクトが生えるよう必死に思いを込めるのじゃ」
「へっ、任せろ」
「うわ即答」
マキマキおじさんさぁ……そういう事できるんなら最初から言えよ! もったいぶってないでさ! そんなのお前いくらでも生やしてやるよ。一本とかケチなこと言わずに200本くらいくれてやるぜ。まあ見てな、欲に駆られた人間の底力ってやつをよ。
「うむーっ、我が主オケアノスよ、どうか逞しきお姿へならんことを! ジーザス!」
「お、おお、おァァァァァァァ!」
さっきのように神々しく光りだし、ズモモモという奇妙な音とともにオケアノスの悩ましい息遣いが漏れてくる。気色悪い。あと割りと本気で面白そうだからいっぱい生やそうとしたのに一本だけしか生えてないっぽくて残念。でもデっけぇ。腹立つ。千切れるか潰れるかもげるかしてほしい。エリミネーションしちゃおうかな……いやまだ願いを叶えてもらってなかった。危ない危ない。
「……おお! このしっくり来る感じ! まさしく信仰の奇跡がなし得た偉業! ありがとう!」
「そうか戻ったか! で、お礼は?」
「そうじゃったな、そなたは何を望むのじゃ?」
「俺を慕ってくれるかわいい女の子に会いたい!」
「その願い、承った!」
おお、マジか! そんなすぐ了承してくれるのか。いや、みんなすまんな、俺は一足先にレベルアップしちゃいますわ。でへへ、どんな娘かなぁ。金髪女とかアグニャみたいな絶世の美女だったら最高だよ。そんであの二人みたいに芯のあるぬくもり溢れる性格だったら嬉しいな。あとあいつらみたいに俺を対等の相手として見た目を気にせず、まっすぐに正面から心で向き合ってくれるような……
あれ、それって……
「それじゃ行って来い! クァァ!」
「うおおお! テレポートしとる!」
マキマキおじさんから水を浴びせられると俺の体はビュビュビューンとすごい勢いでホバリングしながらどこかへと向かう。そして数秒し辿り着いた先には……
「みゃみゃみゃ〜……あ、あぶにゃい!」
「きゃっ!?」
アグニャに向かってこいこい棒を全力で振るもバランスを崩している金髪女がいた。咄嗟の出来事だが俺の体はまるで吸い込まれるように金髪女の小さな体を抱きしめ、柄にもなく丁寧に優しく支えてあげていた。こいつ、間近で見ると陶器のように滑らかな肌で、シャンパンみたいに薄い金の髪してて、ガラス玉みたいにキレイな眼をしてんだな……
っと、金髪女は大丈夫だろうか。きっとアグニャと遊んでくれたのだろうが、ネコのパワフルさについていけなかったのだろう。もしかしたらケガをしてるかもしれない。そーっと、やさしく、丁寧に座らせてあげなくちゃ。
それにしてもちょっと汗ばんでるな。頑張って遊びすぎだろ。ほんと金髪女は優しいな……いや、せっかくアグニャと全力で汗をかきながら遊んでくれた人間に対して、金髪女なんて呼び方は失礼じゃないか? そうだ、キチンと名前で呼びかけよう。
「あっぶねー! おいエシャーティ、大丈夫か!?」
エシャーティ「ここまでよく来れたね」
おじ「まあ色々と便利なご都合主義があってな」
アグニャ「そうだにゃ。ホントは神獣の排泄物じゃにゃいと神さまは呼べにゃいのに、うっかり設定を忘れておじちゃんのうんちで呼んじゃったのもナイショだみゃ」
おじ「ア、アグニャ……?」
エシャーティ「急に何を言ってるの?」
アグニャ「みゃん〜」




