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無いものねだり


「あ!!」

「なに!? どうしたのアグニャ!?」

「なんだ、うんこか?」

「なわけないでしょ、それセクハラだよ!」

「うんち!!」

「う、うぇ!?」

「ほらうんこじゃん。よし行けアグニャ!」

「ズドドドド!」


 突然どこかへと走り去るアグニャの様子に思わず呆気に取られる金髪女。そういえば俺もこの世界に来た最初の頃はアグニャの動き一つ一つにビックリしてたものだ。人間の姿でネコのような行動をされると毎度ダイナミックで突発的な事しまくるから、慣れてくるまでは何事かとハラハラしたなぁ。まあすぐ慣れたけど。


「ふんにゃ、ふぎぎぎぎぎ」

「きゃああ、アグニャがぶちまけてる!!」

「ふみゃ〜! エシャーティもうんちするとこ見るのが好きにゃん?」

「イヤァァァァ、お尻丸出しで寄ってこないで! パンツ履きなさい!」

「おっと、忘れてたミャ。ズドドドド!!」

「そ、そんな勢いよく走ると丸見えだよ!」


 まあお前も結構丸出しなんだけどな、と言いたかったが黙っておくことにした。


「まったく、アグニャはいつもあんな感じなの?」

「そうだぞ。だってネコだし」

「ああ、だから素手で地面掘ってうんち埋めてるのね」

「感心なものだ。金髪女よ、お前も野糞する時は放置せずにちゃんと埋めているか?」

「あなたね、女の子に何てこと聞いてるの……」


 ちなみに俺のうんこはアグニャに予め穴を掘っておいてもらい、その中にぶりぶりと出産しているぞ。さすがに俺のうんこをアグニャに見せるのは可哀想なので埋めるのは自分でするけど。


 そうそう、以前俺が立ちションしてるところをアグニャが見て真似したら案の定ビシャビシャになり、そのまま混乱しておしっこを撒き散らしながら走り回っちゃった事があったなぁ。ピョインと木に飛び乗ったりして上空から引っ掛けられたし大変だったぜ。


「ふぅ、終わったにゃ〜」

「ねえ、あなた拭いた?」

「拭く……?」

「アグニャはネコだから拭かなくていいんだよ」

「いやいやおかしいって! そこはネコ関係ないよ、人としてアウトよ!」

「にゃあ。ちゃんとお尻舐めてキレイにしたから大丈夫ミャ」

「えっ!?」

「はっ!?」

「みゃあ?」


 そ……そうだ!!!!!!!!

 こいつネコだからうんこしたらケツの穴を舐めてキレイにするんだ!!!!!!!!!!!

 き、き、き……きったねええええええええ!


「というのは冗談ミャ。それをすると作品的事情で面倒にゃことににゃるし」

「だ……だよな! いやあ、アグニャは賢いからなぁ! ほんとによかった! マジで!」

「本気にしちゃったじゃない……ああ、よかった」

「みゃん〜」


 いやほんとによかったわ。さすがにネコだからってその可愛いお口で自分のケツ穴に付いたうんちをペロペロ舐め取ってたらドン引きしたわ。まあアグニャはうんこのキレに定評があるからよしんばそういう行為を癖でやっていたとしても、それほどヤバくはないだろうけども。


 ともかく俺はほっと胸を撫で下ろすと、金髪女も和んだのか俺に親しみを込めた口調で声をかけてきた。


「ふふ、ちょっと変わってるけどあなた達と過ごすのはとても楽しいよ」

「ほ、ほんとに!」

「もっと色々教えてよ、あなたのことも」

「俺に……興味を持ってくれるのか!?」

「そうだよ。なにか変?」

「いや、何にも。そうだな、それじゃあ」


 俺は生まれて初めて自分の事を誰かに話すかもしれない。そりゃ仕事から帰ってきたら毎日のようにアグニャにその日あった出来事や愚痴なんかを話してはいたが、アグニャはネコである。


 ネコなりににゃん〜とか返事をしてくれたりスリスリと頭を押し付け俺を慰めてくれたが、俺だって寂しい男なワケでやっぱり他の誰かにも聞いてほしかったんだ。だから俺は己の内に40年間封印していた自分語りの欲求を大爆発させ、優しげにアグニャのパンツを脱がしお尻を拭いてあげている金髪女にあのな、おじちゃんはな、と話を始めた。


「にゃっ、にゃっ……」

「はい、キレイキレイ。それで、なんて?」

「ああ、俺はずっと肉体労働を続けてきたんだ。正社員として登用してくれるありがたい企業を求めずっと頑張ってたけど、結局死ぬまで定職に就けず色々やらざるを得なかった」

「あなた力仕事が得意なの? めちゃくちゃカッコいい! ねえ、どんな事をしてきたか教えてよ」

「カ、カッコいい? 俺が?」

「うん! 肉体労働ってさ、力で何でも解決できるすごい人しかできないんでしょ?」


 どういう言い方をするんじゃお前は。でもある意味、というか9割くらいはその通りでもある。だけどな金髪女、俺のようなクソザコアルバイトやゴミカス派遣には本当に力だけしか求められないので、俺なんかではとても取得できそうにない資格やバシバシと計算をこなせる頭脳を持っている人たちのほうが、俺より貧弱ではあるだろうけどよっぽどカッコいいと思うよ。俺のやっていた事は男なら生まれつき持っている程度の筋力をひたすら使うだけの、言わば誰でもできる仕事だったのだから。


 でもこうしてハッキリとカッコいいと言われたらとても心が明るくなって、無意識に次から次へと俺の口から自分語りが溢れてくる。


「ね、ね、病院に関係した仕事はやったことあるの?」

「そうだな……新しい病院の入院部屋に家具を搬入したことあったよ。あれは大変だったなぁ、なんせ一人でワンフロア任されて苦労したぜ」

「ワンフロア!? ていうことは、あなた一人で部屋のテレビとか棚を設置できるの?」

「そんなの余裕だよ。病院で使うベッドは電動のやつもあったけど分解したら一人で持てるし、洗面台を置く場合もクレーンで上まで上げてくれたしな」

「せ、せ、洗面台!? あれって動かせるものなの!?」

「にゃあ〜! おじちゃんはすごいみゃ!」


 個人的にはワンフロアにある全ての部屋を一人でやり遂げた事の方が大変だったのだが、金髪女からしたらスケールがデカすぎていまいち分からなかったようだ。でも身近にある洗面台という重量物が出てきたらすぐにどんな過酷な作業か分かったらしく、ほっそりとした腕でそこら辺の木を揺すり重みを想像しようと頑張っている。


 でも押した反動でステーンと後ろ向きに倒れてしまった。どんだけ体を使うのがヘタクソなんだ。でもてへへと照れて笑う顔が魔性の魅力を醸し出していてめっちゃかわいい。そしてすぐ手を差し伸べて助けてあげるアグニャもイケメンすぎて辛い。可愛い女の子たちを見てニヤニヤしてるだけのおじさんさぁ……


「えへへ、ありがと!」

「みゃあ、木はこうして揺らすんだミャ! うみゃみゃみゃみゃ!」

「すっごーい、キックで折った!」

「ゆ、揺らせなかったミャ……」


 ガックリしてるけど揺らすよりよっぽどすごいぞアグニャ。そしてアグニャがやったのを真似して金髪女も別の木に蹴りをかまし始めてすごくほんわかする。なんかほんと、俺とあいつらは年齢がかなり離れているのもあってか異性としてとか恋愛対象としてとかではなく、子供と接している気分になって和む。


 そりゃ二人とも絶世の美女だから時たま無防備に見せてくる色っぽさとかが急に俺にオス本能を思い出させるけど……いやいや気色悪い事言ってんじゃねえよおじさん。恥を知れ、ケダモノ。俺は見目汚らしい弱者男性おじさんだぞ、分をわきまえろ。ついでに言うとあいつらはペットと敵だからな一応。手を出したらいかん。


「ねえエリミネーター、あなたもちょっとやってみてよ!」

「おう、もちろん見せてやる。そうだな、アグニャが折った木を使うとしよう」

「みゃみゃ、切り口を掴んで何するにゃ?」

「……オラァァァァァァ!!」


 まるで割り箸を割るかのようにバリバリと大きな木を引き裂き、そして真っ二つになった木を両手に持ちブルルルルルゥンッ!!! と思い切り振りまくる。すると木の先端は空気摩擦により小さな火がつき、やがてもうもうと白煙を上げながら豪勢に燃えだした。いや、すごくね俺。ほんとは所々生えている枝を素振りで振り払おうとしたんだけど。火がついちった。ぱねえ。


「へっ、生木は水っぽいから煙たいぜ」

「すご……」

「ふにゃ〜」

「おっと、危ないからこれは消さなきゃな。ムンッッッッッッッ」


 火のついた先端を思いっきり地面に叩きつけると、ボワァァァァっと一瞬勢いを増し鎮火した。そう、木を地面に叩きつけて粉々に爆砕したのである。一瞬勢いを増したのは木くずに燃え移って粉塵爆発かなんかしたんだろ。知らんけど。


「あなたさ、エリミネーション無くてもいいんじゃない?」

「うん。俺も今そう思った」

「羨ましい。あたしにはそんな力ないのに。あなたはとても恵まれているよ。あー、羨ましい」

「そ、そんなことないって。ていうか俺はお前が羨ましいよ。そんな綺麗な顔で、人から好かれ、エリミネーションを良いことに使って……」

「どうでもいいんにゃけど、さっきから二人がエリミにゃーしょんって言うからあちこちで災害が起こってるニャ」


 ほんとだ。川は渦潮を作り魚たちを虐殺し、空では鳥たちが次々に落雷を受けて焼死、遥か彼方の山は天の怒りを体現するかのように崩れ去ってしまった。どんどん世界がスッキリしていってしまい誠に申し訳ない。


 一通りエリミネーションの暴発が収まったら金髪女が改めて話を続けた。


「今の破壊を見たでしょう。あなたはどうして軽々しく人に向かってあれを撃つの? あたしはどうしてもそれが気になるの」

「……みんなが俺に悪意を向けるんだ。どれだけ俺が仲良くしようとしても、みんなそれを蔑み、罵り、嘲笑い、理不尽な悪意を向けるんだ」

「どうしてそんな事になるの?」

「みゃあ。おじちゃんと一緒にいれば分かるミャ」

「そうだな、俺がどれだけ嫌われてるかは説明で伝わるものでもないしな」

「……わかった。しばらく行動をともにしましょう」


 金髪女には分かるまい、人がどれだけ見た目で他人を判断しているのかを。分かるわけがあるまい、お前みたいな美形で生まれた者に俺の辛さが。


 だから見せてやる。俺という弱者を前にして人々がどういう風に悪意をぶつけてくるのかを。



エシャーティ「やっぱネコだからって拭かないのはおかしい!」

アグニャ「そう言われても、拭いたことがニャいからわからみゃいみゃあ」

エシャーティ「仕方ないわね……困ってる人を助けるって決めたし教えてあげる! ほら、こうするんだよ〜」

アグニャ「あ、ふみゃ、にゃぁぁぁご! ぷるぷるぷるぷる!」

エシャーティ「きゃっ!? お、おしっこしないでよ!!」


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