金髪女の過去
まるで子供のように色んな物に注意が散乱してまっすぐこちらへ来るのにも苦労する。落ち着きが無いのか座ったりしてジッとしているように見える時でも、よーく観察すると指と指を擦り合わせていたりモジモジと脚を動かしたりと忙しない。さらには大人とも子供とも言い難い絶妙な体型。てっきり痩せ細った女だと俺は思い込んでいたが、よくよく考えるとこいつは……
「ち、ちがうわよ!!!!!!!!!」
「ミャ!! 声がデカいみゃ。キーンてするにゃ」
「ということは現地の少年なのか。金髪女じゃなくて金髪小僧!?」
「色々違う!! でも前世とか言い出したって事は、あなたもあたしと同じで転生者だってワケね」
「にゃん〜、エシャーティもやっぱ転生者だったみゃ」
「そうか転生者か。エリミネーションは転生記念でみんなもらえる特典なのかな……」
まあでもみんなもらえると言っても俺たち以外に転生してる人間がいるとは思えないけど。だってもうすぐこの世界の東の果てに着こうとしてる局面なんだぜ。ずっと目指してきた海もようやく見れる。ということは既にこの世界の4分の1くらいは踏破したワケだがその間に出会った転生者はこいつだけ。
それにもし他にエリミネーション使いがいたらもっとこの世界の人たちにエリミネーションが知れ渡っているはずだ。というわけで転生者は俺とアグニャと金髪小僧だけ! レアキャラだね!
「あのね、いったいあたしのどこが男なの! どっからどう見ても女の子でしょ!」
「そ、そうか。あまりスカート履き慣れてなさそうだし、体型もなんか平坦だし……」
「あたしはあんまり体を動かすのに慣れてないの。スカートだってこっちに来て初めて履いたし」
「あ、そう」
「なによ、少しは興味持ってよ!」
いや……昨今の事情により男女の服装なんかがどうこうっていう話題を出すとヤケドしかねないからあんまり触れたくないんだけど。まあでも珍しく金髪小僧……いや、やっぱ金髪女か。金髪女が自分語りをしようとしてるし、それに同じ転生者として気にならないというわけでもないので話くらいは聞いてみよう。こいつも何か同じ転生者と判明したらおしゃべりしたそうにウズウズしてるし。
「まあ聞くだけ聞いてやる。お前はどんなヤツなんだ、言え!」
「ええ。そうね、あれは……」
「しかし今日はほんとにしっちゃかみゃっちゃかにゃん〜。ちょっと女の子と関わり持てそうだからおじちゃん舞い上がってるミャ」
「ち、ちがうよ〜アグニャちゃ〜ん」
「ふーん、だみゃ」
「このこの〜、なでなで〜!」
「ふ、ふみゃァァァァァん!」
「もー! あたしが喋るの!」
ちょっとふざけてアグニャと戯れてたら金髪女が構ってほしそうに声を上げた。あれあれ、ボクちゃんもしかして女の子に囲まれて、しかも両方から相手をせがまれてる?
なんかちょっと気持ちいいぞ。これ気持ちいいぞ。ああ、金髪女って前々から可愛いと思ってたけど改めて見ると可愛いな。そんな可愛い顔してぷりぷりしないでよ、俺みたいな女に耐性のない弱者男性はすぐ惚れちゃうぞ。でへへ。おぱんつもっかい見せて。
「はいはいはい、金髪女さんどうぞ喋ってください」
「ふん、そこまで言うなら話す。あのねあのね、あたしは生まれつき大きな病気しててさ、一度も病院の外から出たことなかったの」
「みゃん。それは災難だったみゃ。お部屋も楽しいけどお外は新鮮ミャン〜」
「アグニャも生前はほとんどの時間俺の部屋で過ごしてたから金髪女の気持ちが分かるんだな。やさしいなぁ」
「へぇ〜、その子も病気で自宅療養とかしてたの?」
「違うよ、アグニャは元々ネコだったんだよ。こっちに来たら人間になってたけど」
「そうなの!?」
金髪女はその事実に驚きながらもアグニャのミミや尻尾をさわさわと触れて本物かどうか確認し始めた。ビシィッとアグニャが尻尾を振るとビクッと後ずさりしてドテリと尻もちをつく幼女体型。ああそうか、こいつずっと病気で動けなかったから体を自由に動かす事に慣れてないのか。それなら色々とスキだらけなのも納得だ。
俺は色々と金髪女のあれやこれやスキだらけな部位を見れて元気いっぱいだし、出会った当初抱いていた嫉妬の念もだいぶやわらいだ。ああ、なんて単純な男なんだ俺は。ちょっとお話しただけで敵意を失うなんて我ながらチョロ過ぎやしないか。でもわかってほしい。金髪女はアグニャと同じくらい可愛くて男受けする仕草とほっとけない危なっかしさがあるんだ。いやチョロ、俺。キモ。さすがにキモい。みんな忘れてくれ。頼む。
ていうか自分の両極端さにちょっと笑う。嫌いなヤツはぜんぶ敵だが、好きなヤツにはとことん好意を持ってしまう。というか現在進行系で好意がムクムクと湧き上がっている。ああ、守りたいこの華奢な子を……触りたいこの髪を……
「……と、言うわけであたしはやりたいこと全部やるために旅をしてたのよ」
「みゃん〜、エシャーティも苦労してたのにゃ」
「え、ごめん聞いてなかった。苦労してたの、金髪女?」
「ニヤニヤしながらこっち見てたと思ったら聞いてなかったの、あんた!?」
「そう怒んないでよ。すまんこ」
「あーもう、オヤジギャグとか最低。よく一緒にいれるわねアグニャ」
「みゃん〜! おじちゃんはやさしいみゃん。だから好きだミャン」
「あっ嬉しい〜! ほらツンツン、ツンツン!」
「たまーにスキンシップがだるい時もあるにゃ」
「え、だるい……?」
そうなのか。たまーにだるい時もあったのか。おじちゃんちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ泣きそうになった。いや、これが照れ隠しとかだったらいいんだけど今の言い方は素だったし。思い返せばごくまれにアグニャのお腹をわしわし撫でてる時に無言で押し返されたりすることもあった。あれはしつこく撫ですぎてだるかったんだね。今度から気をつけるよ……
しょんぼりと肩を落とす俺を見兼ねたのかアグニャはチョイチョイと俺のスソを引っ張って気を引こうと、いや気を使ってくれた。おじちゃんの事は嫌いじゃにゃいよ、ただネコはウソがつけにゃいから許してみゃん、と。アグニャはさぁ、こういうところが良いんだよこういうところが。わかるかな、いじらしいっていうか。とにかくネコはかわいいぞネコは。心が癒やされてストレス取れるぞ。
「でさ、あなたたちはいったい何をしたくて旅をしているの?」
「ああ、俺たち? とりあえず東の果てに行って海を見に行こうと」
「海! いいじゃない、あたしも海は寄ろうと思ってるよ。だって見たことないからね」
「みゃあ、海はすごいにゃ、無限ミャ」
「ね、ね、どのくらい無限なの!?」
「ずばりエリミにゃーみゃんしても海だけは消え去るイメージが湧かないくらいミャ!!」
「すごすぎる! ハンパないわね海!」
うわ〜、きゃあきゃあと女の子がおしゃべりしてるの見るの楽しすぎるだろ。これ俺が混ざってもいいのか? いいだろどう考えても。さあいけ40歳! 海の何たるかをネタに混ざるんだ! そうだな、アグニャと海に行った時の思い出とかいい話題なんじゃないか!? そうだ、あれとかいいな。あれは傑作だったからなぁ、盛り上がるぞ。
「そうそう、海と言えばアグニャが初めて砂浜行ったとき、クソデカフナムシが背中にへばりついてすごくびっくりしたよな」
「にゃ〜ご、変なこと思い出すニャァ」
「ねえ、クソデカフナムシってなに?」
「ゴキブリみたいな虫だよ。俺よりはキモくない」
「へぇ〜、ゴキブリ! それでゴキブリってのはどのくらいの大きさなの!?」
「ああ、病院にはゴキなんていないから分からないのか……」
コイツは俺の持っていない物を全て持っている恵まれた女だと思っていたが、それはとんだ誤解だった。このエシャーティという弱っちい女は、もしかしたら俺の想像を絶する苦しみを耐え続け、たくさんの未練を残し短い生涯に幕を閉じた不幸な女なのかもしれない。
きっと俺たちが当然のように目にしている信号機だって金髪女にとっては未知の装置で何をする物なのか好奇心をそそられるだろうし、この異世界に来て俺たちのように壮健で頑強な肉体を手に入れた時はどれだけ嬉しかったか想像もつかない。よく聞いてなかったから知らんけど、たぶんそんな感じだろう。かわいそ〜。でも敵だから後で戦わなきゃ……
そう、俺はハッキリと金髪女から”次会うときは敵”だと言われ、明確な敵意を向けられ攻撃だってされた。いつも俺は後悔するんだ。自分のやってきた事が何もかも裏目に出るようになっているんだ。それはこの異世界に来てからも決して変わることのない、俺の生まれもっての呪いのような不条理だ。
もう、今さら金髪女と仲良くしようと願っても遅いんだ……
エシャーティ「ねえねえ、それで海では何して遊んだの?」
アグニャ「すにゃはまを歩いたミャ!!!!」
おじ「ネコだから海に入るのは嫌がってたし、ほんと見に行っただけだな」
エシャーティ「え、ネコって海入らないの?」
アグニャ「水、嫌いにゃん」
エシャーティ「じゃあお風呂は!?」
おじ(まるで子供のなんでなんで攻撃みたいで少し疲れるな……)