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おいおい山賊おい


 昨日よりちょっとだけ距離が縮まったアグニャと追いかけっこしながら東へ進んでいると、見るからに山賊という出で立ちの集団に出くわした。上半身は日に焼けた肌を剥き出しで下半身は腰みの一丁、さらに武装は斧で統一という徹底ぶりだ。


 さすが異世界、山賊のアイコニック性を尊重してらっしゃいますね。あの腰みのの下はちゃんとパンツを履いてるのか、それともフンドシなのか、はたまた丸出しなのか、ちょっぴり気になる。


「やいやいやい、お前ら!」

「俺たちは泣く子も黙る山賊でぃ」

「おっさん、荷物とその神獣を置いて失せな」

「おっさんテメー、蚊取り線香の先っちょみてえツラしてんな」

「スプーンの丸いとこに反射した顔、あんな感じだよね」

「あー、分かる分かる。輪郭とかパーツが歪になってるっていうか〜」

「フシャァァァァ!!」


 ええ、俺って他人から見たらそんなえげつない顔面してるのかよ。いやたまに自分の顔くらい鏡で見てはいるし、これまでも人と会ったときの反応からなんとなく山賊たちの言ってることも分かるけどさ……


「さあどうするよ。おい!」

「早く決めちまえ、おい!」

「さあさあさあ〜、おい!」

「ネコちゃん遊ぼ、おい!」

「おいおいお〜い、おい!」

「フぅ〜! シャァァ!!」

「大丈夫だアグニャ、怖がらなくていいよ」

「行揃えてたのに、おい!」

「空気読めないな、おい!」

「し、知らんがな……」


 山賊どもは大勢でどよどよと騒ぎ散らし俺たちを威圧しているようだが、正直こんな小汚いおいちゃん集団たちに俺をビビらせるほどの迫力は無い。でもアグニャはビクビクと声を上擦らせながら必死に俺にしがみつき威嚇している。恐怖に圧し潰されそうだろうに、必死に自分の身を守ろうとする本能を押さえ込み人には危害を加えようとしない健気なアグニャの姿に俺は心を打たれた。


 アグニャは未だに俺の言いつけを守っているのだ。凶暴なハイエナにもタイマンなら余裕で勝てる本来のアグニャなら、こんなヤツらにビクビクする必要性は全く無いのに。それをこんな無法者のザコどもはアグニャを弱っちいものだと勘違いし、威嚇する様を見て下卑た笑いを浮かべている。ああ、もう我慢できん、やっちまえ!


「クソ野郎どもがぁぁぁぁ!」

「お前らみたいに群れないとイキれない集団は気に食わねえんだよ!」

「俺みたいに群れたくても仲間外れにされる人間の気持ちがわかるのか、コラァァァァ!」

「そんなに大勢仲間がいて、文字列揃える協調性まであって、なんでこんなコスパ悪い強請りなんかしてんだよ!」

「もっとこう、有無を言わさずボコボコにしてくるくらいしろよ!!」

「みゃあ、なんで山賊に説教してるみゃん」

「そ、そうだった。ええい、死ね、エリミネーション!」


 すごい剣幕で怒鳴られて呆けていた山賊たちもエリミネーションの掛け声に身を強張らせる。その様子はまるでエリミネーションがどういうものなのか知っているようであった。


「ひ、ひ、ひぇぇぇぇぇ!」

「あの女だけじゃなくて、こいつもエリミネーターってやつだったのかよォォォ」

「せっかくボスたちを見捨てて命からがら逃げてきたのに、これじゃ意味ねえよォ!」

「あ、あ、あががががァァァ!!」

「ぢぢぢぢぢじゅぁぁぁぁぁ!!」

「ぴっぐみぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「ニャア〜! なんか皆が一点に凝縮されていくみゃ!」

「まるで熱殺蜂球だな。えぐ」


 虚空に浮かんだ山賊どもはミチチチと肉と肉が密着し圧力に負けて潰れていく音を発しながらも、じわりじわりと一箇所へ集約され続ける。中心部にいた山賊はもはや息をすることすら困難だろうし、ポジションが悪い所だと目玉にグイグイと他人の爪がめり込んでるのもあってとんでもない事になっている。


 今回のエリミネーション、なんか殺意というか邪気がやばくない? 言っとくけど俺は誰に向かって撃つかは指定できるけど、どういう技が出るのかは決められないからね。完全ランダムだよコレ。


 おぞましい悲鳴と大虐殺は10分もの間続いた。ようやく最後の一人の命乞い、懇願が消えた頃にはもう既に俺たちの姿はそこになかった。だって見るの飽きたんだもん。最初は色々飛び散ったりしてエンターテイメント性も高かったけど、最後はまるで研ぎすぎた米の研ぎ汁みたいに変わり映えしなくなってつまらなかったもん。


「にゃあー! おじちゃん、また投げてみゃあ!」

「はっはっは、それー!」

「ドドドドドドド!!」

「うひょ〜、やっぱ本物のうさぎの死骸だと狩猟本能が刺激されてワイルドになるな!」

「う~、ふしゃっ」

「おわ、ズタズタに掻っ捌いてる。そろそろ食うのかな?」

「ぱくぱくニャ」

「食べるのはいいけど血がついちゃってるよ」

「に゛ゃ、おじちゃんも食うみゃ?」

「あ、いらなーい!」

「そうみゃ。ガフガフ……」


 今のアグニャは人間の姿だが生の野生獣汚肉とか食べちゃって平気なのだろうか。色々寄生虫とか病気とか菌とかもらいそうだが、お腹を壊したりしないか心配だ。まあでも俺たちは不思議な力でめちゃくちゃ体は頑丈だから死にはしないだろうけど。


 あ、うさちゃんの尻尾はいい感じにおもちゃになりそうだし、食いでが無くてアグニャも食べなさそうだから後で回収しとこう。俺って飼い猫思いなんだからぁ。思い返せば日本にいた頃も自分の服とかはそっちのけで、アグニャに着せる猫洋服とか色とりどりのおさんぽヒモを買ったりしてたのよ。ああ、今の人型アグニャもかわいいけど、俺にとってはやっぱニャンコアグニャが一番だ。たまに元に戻ったりしないかな。そんな都合良くはいかないか。


「あ!!」

「なんだ、うんこか!?」

「あ!!」

「なんだ、新しいパターンだな」

「お、お、おにゃかいたい……」

「あーあー、生肉食べるから。ほら、水飲んで横になって」

「けぽぽぽぽぽぉ〜」

「よしよし、全部吐いてスッキリしようね」

「みゃ゛ん」


 ま、ネコだろうと人だろうとアグニャはアグニャだ。賢いけど手のかかる、俺の唯一の大切な存在。それが死んでなお俺の側にいてくれたんだから何の不満もありゃしないさ。これ以上を求めるのは贅沢というか無粋ってもんだよな。



エシャーティ「くぅ〜! 山賊の襲撃に困ってる人がいたから久々に人助けできると思ったのに!」

エシャーティ「まさか半分近く見失うとは……」

エシャーティ「やっぱり非人道的だからといってエリミネーションを使わずに殴り合いに持ち込んだのがいけなかったのね」

エシャーティ「はぁ……強い身体が手に入っても、動かし方が分からなきゃ意味ないんだよ」


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