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川で水浴び


 崩れ去ってガレキの山となった教会を後にした俺たちは相も変わらず東を目指し歩いていた。マキマキおじさんは新規信者の獲得を目指すと言い再び地中へと潜っていったが、その待ち方だとアグニャのようにたまたまマキマキおじさんの位置で野ションした人間にしか布教できないのでは……


 まあ俺の知ったことではないけども。そういうわけでマキマキおじさんとはせっかく仲良くなれたが別れることになった。あんな変態おじさんでもお別れするのは名残惜しいものである。


「にゃん〜」

「さて、海を目指して出発だ」

「うーみ、うーみ、みゃんみゃん〜」

「まったく、ピッピーがあればすぐ着くのになぁ。不便な世界だよ」

「ピッピーはにゃいけど疲れにゃいにゃ。こっちのがお得ミャ」

「それもそうだな!」


 よく考えたら今の俺たちが全力で走れば車くらいのスピード出せてるしな。まあ実を言うと100キロくらいは出るんだが足元の小さな起伏で転んだり、虫とかゴミが顔に当たって痛かったのでほんとに一瞬だけ出せる感じだった。車のようにただ走るだけの機能に絞り込まれたボディではないからな、人体って。


 のんびりアグニャと戯れながら進んでいると小川があったので足を休めることにした。そうだ、そういえば教会のガレキの中から入浴セットをもらってたし、たまには水浴びでもするか。あ、今「このおじさんずっとお風呂入ってないんだ。きも」とか「アグニャの蒸れ蒸れお洋服を嗅げ! そして実況しろ!」とか考えたな?


 あのね、ところどころでお風呂は入っているからね。ジャングルの川とか。あと廃墟になった湖の街で無人となった民家にあったお風呂とか。ただ今回は気が向いたのでじっくり水浴びを楽しもうと思っただけよ。いいね。俺は汚くないしキモくない。あとアグニャも一日一回は着替えるように俺が教えたからムレムレとは無縁だ。残念だったな。


「おじちゃん何を眉間にシワ寄せてるみゃ」

「いや、少し考え事をね。さて水浴びするかー!」

「にゃん〜! イヤに゛ゃ」

「ほら、大人しく服を脱げ!」

「み゛ゃだ!」


 脱げといっても下着類は脱がさないぞ。俺は紳士だからな。ちなみに俺はもう既にマッパだ。ぶるんぶるんさせている。これもまたジェントルスタイルの一つである事はみんなもよく知っているだろう。まあ実際アグニャが俺のぷるぷるに興味を持って近寄ってきたところを捕まえ、服をひん剝き水浴びさせるのが主な目的であるからやましい気持ちなんてないぞ。


「ジィー」

「オラ、確保!」

「みゃあ」

「さあ風呂だ。人間の姿だとそんなにイヤじゃないだろ、水浴びなんて」

「み゛ゃん!」

「ガァァァァァァ!」


 ガァァァァァァ! お、俺のぷるぷるをネコパンチしやがった! ちゅ、ちゅぶれ……


「あぶぶ! あぶぶ!」

「ご、ごめんみゃ……」

「イイヨイイヨ、ふぎぎっ!」

「ちゃんとお風呂入るミャン……」


 申し訳無さそうに川へ入っていくアグニャ。ああ、アグニャはなんて感心なんだ、悪いことをしたらごめんなさいして、きちんと言うことを聞くんだ。偉いなぁ。あの子俺が育てたんだよ。すごいでしょ。なんだか痛みも収まってきたし俺も水浴びしよ。


 さてボディソープやシャンプーを持って……あれ、無いぞ。どこいったんだ、せっかく女物のシャンプーをくすねてきたのに。いや待て、なんだかフローラルないい香りが漂ってくるぞ。これはもしかして……


「にゃあ〜ご、ちゃぷちゃぷ」

「おお、ちゃんと頭を洗ってるじゃないか!!」

「みゃん。これ楽しいミャ。あわあわ気持ちいいニャ」

「えらいぞアグニャ、賢いぞアグニャー!」

「ふにゃ〜、ゴロゴロ……」

「よしっ、髪が長いから俺も手伝ってあげるよ!」

「ありがとみゃん! わしゃわしゃ」

「ははは、こいつめ、やっぱ毛が多いとめちゃくちゃ泡立つなァ」


 ははは! はぁ……いや、俺はハゲじゃない。薄いだけだ。それに俺の家系はみんなフサフサだ。俺の頭が薄いのは現場仕事の都合で暑い中汗だくでヘルメットや帽子を長時間被ってきた苦労のせいなんだ。俺だって就職難の時代に生まれなければエアコンガンガンの室内でパソコンとにらめっこし、ハゲとは無縁な一生を過ごせた可能性もあったのに。


 何もかもが俺に悪意を持っているとしか思えない人生だったなぁ。せめて髪の毛くらい、こっちに転生した時に復活してればなぁ……


「みゃあ、おじちゃんの頭も洗ってあげるミャ」

「ああ、ありがとう……ま、まて、シャンプー液は泡立ててから! そのままじゃ死ぬ!」

「死ぬミャン!? さっき直接頭に掛けちゃったにゃ!! 死んじゃうミャァァァァァ、やっぱ水浴びは怖いミャアアアア」

「いや、死ぬのは毛だ……! それも息絶え絶えの毛だけだ」

「みゃみゃみゃ???」

「まあいい、一緒に泡立てよっか」

「みゃん〜!」


 アグニャの手のひらにすごい量のシャンプーがつけられていたので、俺は半分くらいすくい取りモコモコと泡立てた。それを見たアグニャも真似して手をすり合わせモコモコと泡立てている。モチモチと泡が固くなるまで育てたアグニャは無防備にぷるぷるしていた俺の股間へチョイチョイと泡を乗せたりして遊び始めた。


 いやん、洗ってくれるの? でもそこは自分で洗うからいいよ。というか、なんかこれ髪の毛がキシキシするな。さっきアグニャの髪の毛を洗ったときはトゥルントゥルンの指通りだったのに。それに香りも若干違うぞ。


「にゃあ〜、体を洗うみゃん〜」

「あれれ、アグニャ、その泡って体洗うやつ?」

「そうみゃ。だからおじちゃんにも分けてあげたみゃ」

「ガァァァァァァ!」

「うみゃ! 目に泡が入ったみゃ?」


 な、なんてことだ! これボディソープじゃねえか! アアアアア、俺のデリケートな毛が! いかん、すぐに洗い流してシャンプーで洗い直し、潤いを与えてキューティクルを労ってあげないと!!!!!!!!!


「ザバァァ、ザバァァァァァ!!」

「にゃん〜、おじちゃん水遊びしてるミャ?」

「ハァハァ……アグニャ、シャンプーどこ?」

「もう使い切ったミャン」

「使い切ったみゃんかァ〜」

「ボディソープはまだあるニャン」

「そうだね……」


 そっか、アグニャの髪の毛は長いからシャンプー全部使っちゃったんだね。やけにアグニャがご機嫌に頭を洗ってたと思ったら、泡がモッコモコになって面白かったからなんだね。そうだね。これはハゲるかも分からんね。あばよ、毛。この輝かしい異世界に感化して、俺の頭も輝いてしまうかもしれんな。まあアグニャが初めて自力で自分の体を洗ったから、安いもんさ、俺の薄毛くらい……安いもんさ……


「う、うぐぐぅ……」

「おじちゃん、お腹いたいみゃ? でも川の中で済まさないでニャ」

「うんちじゃないよ……」


 嘆いていても仕方がない。それにマッパでずっと川に入っているとほんとにお腹冷えてうんちブリブリおじさんになるかもしれないから、そろそろマジメに体を洗ってお風呂を済ませよう。と思ったらまたもやアグニャが声を掛けてきた。今度はなんだろう、おしっこかな。


「おじちゃーん、背中洗ってほしいにゃ〜」

「ああはいはい、洗ってあげるよ」

「にゃん〜」

「ほれ、しっぽこしこし〜」

「あ、あぁ、ふみゃぁぁ〜」

「今度は耳だ! ずぽずぽ」

「ふんみゃぁ〜、なぁ〜ご」

「よし完了!」

「みゃん! ちゃぷちゃぷ!」


 真っ白な肌と銀々とした艶を持つ毛並みの耳としっぽを入念に洗ってあげるとすごく喜んでいた。全身泡モコモコになったアグニャは俺の完了という声を聞くと可愛らしく水に浸かり和やかにゴロゴロとノドを鳴らしている。さて、ようやく俺の水浴びが始まるぜ。あーあ、アグニャが付けてくれた泡も萎びてしまった。もったいないけどもう一回ボディソープを出して泡立てよう……あれ、ボディソープはどこだ?


「みゃん〜、ゴロゴロ」

「ねえアグニャ、ボディソープ知らない?」

「もう使い切ったニャン」

「もう使い切ったにゃんかァ〜」

「あ!!」

「なんだ、うんこか!?」

「ゲボ!!」

「ははーん、さては泡を食べたな。よしよし、川の中でするなよ〜」

「けぽぽぽぉ〜!」

「あ、あ、あ、アァ〜!」


 石鹸の泡が染み込みフローラルな香りのするゲボを川にぶちまけ、ふよふよとアグニャの毛玉や最近食べた物体が流れに乗って俺の方へと近づいてくる。俺は危険を察知しすぐに陸へ上がろうとしたが、急いでいたので川の底にあったコケかなんかに気づかずに滑ってしまった。


 その後の事は想像の通り。水中を漂うゲロ分解物が、あろうことか俺の顔面へ一直線に流れてきて地獄を見た。まあ水中だったから被害は少なかったけどさぁ。やっぱきちゃないよ。それにボディソープでゲロが直撃した部分をしっかり洗いたいのに、もう無いんだもん。ちょっと踏んだり蹴ったりじゃない? 


「ハァ、ハァ、吐き終わったか?」

「フゥ〜、スッキリしたみゃ!」

「ああ、そう……」

「それじゃ先にあがるみゃん」

「うん……うん!?」


 ザパーンと川から上がったアグニャはなんと下着を身に着けておらず、しなやかな肉付きを大胆にも大自然へ曝け出し、ふるんふるんと身を振るって水を払っていた。思わず俺は二度見したが、やっぱりパンツは履いていない。いつの間に脱いだんだろう。ボディソープで泡まみれになる前までは着けてたけど……


「にゃんにゃ〜ん」

「おいアグニャ、お前パンツは?」

「みゃみゃ? いつの間にか流されたみたいだみゃ」

「そうか、まあ予備はあるしいいか……おや?」

「どうしたミャ」


 足に何かが引っかかっている。そういえばこの感触、先ほど足を滑らせた時の触り心地に似ている。うわぁなんだろ、ゴミとかコケは踏み潰すと汚いんだよなぁ。いったい俺が何をしたって言うんだよ、とことんまでツイてねぇ〜。ったく。


「……あ」

「みゃ!」

「あったね」

「おじちゃ〜ん……欲しいミャ?」

「なんでそうなる」

「みゃん〜」

「まったく、ほんとさ……」


 俺は足に引っ付いていたアグニャのパンツを拾い上げ、みゃあみゃあと煽るアグニャを無視し洗濯物袋へと入れた。欲しいけど盗らねえよ。だいたいアグニャの洗濯物を洗ってんの、俺だぜ。まあいいや、とにかく今日はツイてないみたいだし早く体を洗って水浴びを終わろう……


 へ、へ、へ、へーくしょん! ぶり!


「アっ、やべ」

「!?」

「い、いやぁ、腹が冷えたみたいだ」

「ぎにゃ〜! おじちゃん、それは引くみゃん!」

「お、おーい、タオルくれ!」

「ピュー」


 クソがぁ、ほんとに今日はツイてねえ〜!



おじ「まったくツイてないぜ。フキフキ」

アグニャ(そういえばおじちゃん、モタモタしてるだけで全然体を洗ってないミャ)

アグニャ「クンクンクンクン……」

おじ「も〜、俺のフェロモン嗅ぐなよ〜」

アグニャ「ぎにゃっ!? クワァッ!」

おじ「ふ、フレーメン反応!?」


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