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教会


 さてさて教会に辿り着いたぞ。さすがに世界地図にわざわざ記されるだけあってこの教会はまるで一つの街に匹敵するような規模でちょっと驚いた。こんな大層な教会で祀られるなんてマキマキおじさん割りとすごいじゃん。でもそれにしては信者がいないとか嘆いていたけど。うーむ、謎が深まるばかりだ。まあアグニャも教会の門をガジガジとかじって歯磨きして興味を示しているし、とりあえず入ってみよう。と、その前に……


「アグニャ、ここには人がいっぱいいると思うけど大丈夫か?」

「みゃみゃ、そうにゃのにゃ?」

「不安だったら俺にくっついていればいい。もし怖い思いをしたら、すぐに帰ろう」

「みゃん、頑張って静かにしてみるみゃ」

「えらいぞ、でも無理するな! さ、入るか」

「みゃん〜」


 アグニャは賢いので先に人が多いことを伝えておけばいきなり威嚇したりすることも無いだろう。そうだよ、今までの街でも先に人がいることを教えておけばアグニャも怖がりはするけどビックリする事は無かっただろうし。バカかな、俺は。こういう気の利かなさがテンでダメなんだ。


 そう、あの時もそうだった。あれは、


「あのー、当教会に何かご用ですか?」

「みゃ! お、おじちゃん、来たニャ……おじちゃん!?」

「オレハシイタゲラレテ……」

「だめだミャ、自分の世界に入り込んでるミャ」

「どうやら神を頼って来たみたいですね! 大丈夫ですよ、そういう方もいっぱいいますから。ささ、神獣さんどうぞどうぞ」

「ミャミャ……」


 ……というわけだったんだ。分かるかい、みんな。え、分からん? おいおい、君たち俺の渾身の苦労人エピソードをガン無視してくれたの……あれあれ、なんかシスター服に身を包んだ修道女がいるぞ。アグニャは気まずそうに俺にガシッとくっついて黙っているし、どうしたどうした。あ、もしかして俺がボンヤリしてる間に教会の人が門まで来てくれたのか。これは失礼。


「おっと、気づかなかった。いえね、俺ももう40でしてちょっと耳が遠くて」

「はいはい、大丈夫ですよ、聖ニコラメリー教会はどなたでも受け入れます。あ、お薬はお飲みですか」

「みゃん」

「あれ、なんか俺、精神病んでるみたいな扱いじゃね?」

「おじちゃん、ちょっとは自覚してほしいミャ」

「エッ!?」


 エッ!? ど、どういうこと!?


「さ、外の不浄を持ち込まぬようまずはこちらで顔と手を清めてください。あ、あなたは補助はいりますか」

「お、おいおい、俺じゃなくて水が苦手なこの子ネコちゃんに言ってんだよな?」

「みゃん〜、ちゃぷちゃぷ」

「アグニャァ!?」

「はい、キレイにちまちょうね〜」

「や、やめんか! 恥ずかしい!」


 ほんとに止めてくれ! 俺の顔に石鹸の泡を近づけるな、洗面器にお湯を張るな、濡れタオルを用意するなー! そ、尊厳がこわれりゅぅ!! ガァァァァァァ!


「アッ、アァァ〜!」

「はーい、気持ちいいですね」

「みゃみゃ、よかったにゃ、おじちゃん」

「クソがぁ、クソがぁ」


 しくしく。40年間誰にも洗わせなかった(つーか相手がいねー)俺のピュアピュアフェイスを、こんなどこの馬の骨ともしれん修道女なんぞにフキフキしてもらうなんて。キレイにしてもらったのに汚された気分だ。クソがぁ。さすが変態マキマキおじさんを祀るだけあるな。ここは危険なのかもしれない。でもアグニャは特に帰りたそうにしていないし、まだ来たばかりだしもう少しだけ見物してみるか。さっきの介護プレイが気に入ったとかじゃないぞ。


「さて、ようこそ聖ニコラメリー教会へ。我が教会はご存知の通り、この世界の金融をまとめる役目を担いここまで発展してきました。その過程でただの宗教団体としての範疇を超え、様々な慈善活動団体として昇華を果たしましたね」

「ちょ、ちょっと待って、俺たちはこの教会の歴史なんて全然知らないぜ」

「みゃん〜」

「これは失礼しました。では詳しくお教えしましょう」

「いや、そんなに深追いはしたくないッス」


 あんまり俺は神さまとか信じない典型的な日本人だし。それにこれからも何かにすがって生きていく予定もないので、ご布教もそこそこにしてほしい。というかハッキリ言うと面白半分で来ただけの冷やかしだからね、俺たち。


「そうですか……まあ色々とご案内しますので、ごゆっくり心を癒やしていってください」

「あ、はい」

「まずはこちら。素晴らしい滝でしょう?」

「みゃん! おっきな川だみゃ〜」


 修道女はまず最初に、教会の中庭に入ってからずっと目についていたド派手なアクアウォールについて説明を始めた。何十メートルにも渡る川みたいなオブジェは終点に滝をこしらえており、最終的には再び水を噴水として上へ運びまた流れている。


 いったいどんな動力で動いているのか不思議なくらい派手に水を撒き散らしているし、普通にすごくて思わず見入ってしまった。


「こちらは当教会の理念、”金の流れとはすなわち水の流れに似る。流れを止めて貯め過ぎればやがて腐り、勢いが強ければ破滅する。流れは常に清らかで御すべし”を表現したアート作品でございます」


 なるほど。そう言われてみればそんな気もするし、そういう理念を掲げていたら金融と言われてもお金お金! ってガメつそうなイメージが薄れるな。中々やるじゃないか。ところでこの巨大なお水ジャブジャブ装置を作るのにどんだけ”流れ”を暴走させたんだろう。俺、気になる!


「なあアグニャ、おしっこしたくないか?」

「ぷるぷる、そう言えばお水を見てたらしたくにゃってきたミャ」

「あ、お手洗いはあちらに」

「やれ、アグニャ!」

「ニャァァァァ!!」

「ああ〜、ちょ、ちょっと!」

「ブルル……よし、たまには俺も読者サービスしたろか」

「ぎ、ぎゃあああ!?」


 ハーッハッハッハ! なんかムカついたから小便引っ掛けてやったぜ! なーにがアートじゃ、俺は根っからのプロレタリアートだ、金に踊らされ苦しみもがき、自立の道を閉ざされた者の恨みを喰らえ〜!


 あー、女の子二人に見られてるといっぱい出るもんだぜ! 40歳、独身、こどおじ、フリーター、預金なし、弱者男性、これにて放水を終了いたします! ぶるんぶるーん!


「おじちゃん、おしっこ済んだミャ?」

「ああ。いっぱい出た」

「……んっふん。えー、まあ、”そういう”悩みでこちらを頼って来たんでしたね。今のは発作として見なかったことにします」

「ほーん、ありがとさん!」

「にゃ〜ご」

「クッ……これは煽ってない、堪えろ私!」


 へっ、キレイなお顔が歪んでるぜ。ほら早く次の設備の紹介しろよ。なんでもいいぜ、なんでも。大体あの変態マキマキおじさんを祀ってる教会だったら、この中にうんこぶっ放してもいいんじゃね? と思い浮かんだけど、さすがに今日会ったばかりの女の子の前でうんちするのはキツいので止めておく。


 なんでこんなにイライラしてるのかって? そりゃ教会の入り口で尊厳ズタズタプレイされたからだよ。みんなも自分より半分くらいの歳の子に顔や手をよちよちされながら洗われると分かるさ……


「えー、では次に当教会で信仰しているグリンアッティラティラケラウノス神話の主神、フィンフォンファッタラリーラヨイヨイヨーイの磔の石像をご覧ください」

「主神なのに十字架にはりつけて良いのか?」

「今でこそ盛り返していますが、かつてグリンアッティラティラケラウノス神話は異端として迫害されておりました。その痛ましい記憶を忘れぬよう、こうして芸術として置いているのです」

「みゃん〜。マキマキおじちゃん、信者たちにハンサムに作らせたのかミャ。ムキムキみゃん」

「ははっ、ほんとだ。マッシヴすぎて別人じゃねえか」


 ……いや待てよ、さっきこの石像は主神ナンタラカンタラの磔とか言ってたよな。ということは、マキマキおじさんことオケアノスではない?


「あの、ここにはオケアノスにゆかりのある品があると聞いたのですが」

「お、お、お、オケアノスですか?」

「みゃん〜」

「どうしてそんなマイナーな神さまを……まあいいでしょう、こちらです」


 なんだ、やっぱあの像はマキマキおじさんじゃなかったのか。まあハンサム度が全然違うしな。でもマキマキおじさんももうちょっと変態を改めて信者獲得に努めないとマイナーって言われバカにされちゃってるぞ。ヘンテコリンな名前の神さまに知名度で負けるとは情けないものだ。


 そうこう考えてたら薄暗い教会の裏に連れられて来た。はて、ここに一体なにがあるのだろうか。


「ほら、こちらですよ。最近設置した”真実の口”でございます」

「あー! これ見たことある! え、マキマキおじさんめっちゃ有名じゃん!!」

「みゃ! これてれびでよく出たにゃ。こうして手をはめるミャン!」

「えっ、お二人ともこれを見るためにわざわざこの教会に来たのですか……?」


 そう、あの有名な真実の口のモデルはオケアノスその人だったのだ!! あの頭にうんこ乗っけてこんにちはしてきたおっさんヅラが実に精巧に掘られていてすごい。よくもまああのツラをモデルにして彫刻を掘ってくれた人がいたものだ。尊敬するぜ。


 となるとマキマキおじさんの言っていたアーティファクトってこれの事だろうか。納得。真実の口はほんとにありがたい物だからな。ちょっと見直したぞマキマキおじさん。


 それにアグニャも楽しそうに腕を突っ込んではしゃいでいる。そうそう、こうして真実の口に腕を突っ込むと嘘つきは手が抜けなくなるんだよな。アグニャは純真無垢だからズボズボと手を出し入れして遊んでいるが。


「にゃん〜!」

「ねえ俺にもやらせてよ! この手にローマを感じさせてくれ!」

「ほいにゃ、ズボズボするみゃ!」

「おっしゃぁ!」

「えぇ、あの変な彫刻でテンション上げる人初めて見た……」


 いくぜマキマキおじさん! 俺たちを海まで無事に届けてくれ! せぇの……


「……」

「ど、どうしたみゃ?」

「お、奥になんかある」

「みゃみゃ、さっきはニャにもニャかったみゃ」

「ああ、そうだろうな。だってこの感触……」


 掴んでみるとジョリジョリと気色の悪い音を立てているのが分かる。そしてなんだかペロペロと舐めている。ああ、やめてくれ、中にいるのがなんなのか大体分かってんだから。


 その汚物をすぐ離し、恐る恐る手を引っこ抜くと……


「ゲホ、ゴホゴホ! ふぅ〜。お前たち、また会ったなァ〜!」


 マキマキおじさん、しつこい。



エシャーティ「つまりあなたはこの教会にいたくないんだね」

男の子「そう……パパとママに捨てられてここに引き取られたけど、この教会にはうんざりだ」

エシャーティ「いいでしょう、お姉ちゃんが助けてあげる!」

男の子「ありがとう、金髪のおねえちゃん!」


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