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海の神


 アグニャの提案通りグレート・キャニオンの荒涼とした峡谷を片っ端からエリミネーションしていくと、横断するには数日は費やすであろう起伏に満ちていた地形は瞬く間に消し飛び、今や爽やかな風の吹きすさぶ平野へと変貌を遂げた。これからこの地はグレート・キャニオンじゃなくてフラット・バーロードに改名しなきゃねぇ。カンターレ!


「アグニャのおかげで来年の地図が作りやすくなったな」

「みゃん。今までは変にゃ線とかがいっぱいでワケ分かんにゃかったみゃ」

「さて、次は……なにやら教会があるみたいだ」

「教会ってにゃんにゃ」

「うーん、俺も詳しくは分からん。危ないイメージがあるけど、迫害されてるイメージもあるし」

「おもしろそうみゃ。行ってみるにゃん」


 まあこっからのルートだと教会を避けても他に面白みのある所がないからな。それに異世界での教会といえば基本的に悪どいカルトなら即座に雰囲気で分かるだろうし、逆にまともなタイプならとことんマジメに神を信仰してる両極端な感じだもんな。


 早速東を目指し平坦としか言えない開けた大地を突き進む。峡谷のように起伏が激しすぎるのも考えものだが、こうして何の障害もない道をひたすらまっすぐ進むだけなのも面白くないものだ。何か面白い事でもないかなぁ。さぁフラグ立てたぞ。いけ、アグニャ!


「あ!!」

「お、キタキタ! なんだ、うんこか!」

「おしっこ!!」

「よし、好きなだけやれ!」

「なぁ〜ご!」


 えっさほいさと足元の地面を掘り起こし、そのままうずくまってぷるぷると身震いし始めるアグニャ。よく聞き慣れた水音がしばらく続くと、アグニャはスッキリとした笑顔でスックと立ち上がり足元の聖水を再び埋めてキレイに始末した。


 感心だ。日本のコンクリートジャングルにいた頃は、夜中になると薄暗い裏道で立ちションしそのまま何食わぬ顔で立ち去る人間が多かったというのに。せめてミネラルウォーターかなんかで軽く流したりとかすればいいのに、何事もなかったかのようにスタスタと立ち去っていく者の多さよ。


 まあそれはさておき、かわいらしく用を足すアグニャを見れた。しばらくはそれを思い出しながら楽しく歩けそうなので先に進むことにしたら、アグニャが用を足した地面がズモモモモと盛り上がり巻毛のおっさんが這い上がってきた。


 ……


 ひゃあ〜、変態だ。こいつは多分、日本で例えると通学路脇の側溝に潜んでいて、登下校する女児たちを地べたから眺めてしまうタイプだ。しかし日本でもその行為は高レベル者と言われて畏怖されていたのに、側溝より遥かに難度の高そうな地面に生き埋めになって覗き込み、さらには聖水まで浴びちゃうとは、異世界の変態番付も中々侮れないな……


「ゲホッ、ゴホゴホ、ふぅ。おいお前たち」

「ひゃあ〜、変態だ」

「みゃあ〜、変態みゃ」

「誰が変態か。貴様らこの峡谷を荒らしただけでなく、よくも小便までひっかけくさってくれたな」

「フシャァァァァ!」

「あのねおっさん、普通地べたに埋まってる方が悪いよ。どういう趣味しとんねん、おどれは」

「き、キサマらァ!」


 巻毛で巻ヒゲのマキマキおじさんは怒った様子で声を張ると、なんと開いた口から大量の水が発射された! あんな衛生的破壊光線を食らったら、精神的に一撃必殺だよ。もちろん俺たちは華麗に避けたが、威力はぼちぼちのようで地面に水たまりを作る程度であった。よええ。


「クァァ、もう一発じゃあ!」

「おっさんね、それ弱いよ。あと絵面が汚いからやめてくんない」

「く、クァァ……」

「フー、フシャァァァァ」


 しかしこうして他人を威嚇するアグニャを見ると、怯えているであろうアグニャには悪いがやっぱ他人には懐くことが無いんだなと安心する。いやまあ今回のマキマキおじさんは登場からして変態すぎたし、敵意マックスだったからアグニャがシャーと怒るのも当然ではあるけどさ。


 でもあの金髪女に少しだけ心を開いていたアグニャの姿を思い出すと胸が苦しいんだよ。だから今の俺はアグニャがいつも通りで安心して非常に気分が良かった。だからこんなド変態相手にすぐエリミネーションをせずに話し合いを持ちかけているのだ。えらくね?


「クソがぁ、このオケアノス、またも戦果0なのかっ!?」

「へぇ、おっさんオケアノスっていうの。大層な名前じゃん」

「おお、お前まさかオケアノスの名を知っているのか! じゃあさじゃあさ、ガイアは?」

「ブミャァァァァァ!!」

「うわ、どうしたどうした、怒ってるよこの子」

「いやー、ガイアはちょっと仲良くなれなかったからさ……」

「そうかぁ。ワシの母ちゃんだったんだけど残念だな」


 ほげーーーーー、お前のかーちゃん、ぶち殺しちゃったよ! ていうかオケアノスってあれだよ、海の神さまだよ。オーシャンの語源のすごい神様だったような。でもなんで海の神がさっきまで峡谷のあったこんな陸地にいるんだよ。まだ海まで結構遠いぞ。お前はストーリー的にはまだ出てきちゃいけないんだ、どっか行ってくれ!


「オケアノスおじさんさぁ、俺たち海に向かってるんだけど、先に進みたいから見逃してくれない?」

「あ、そうなの!? 早く言ってよ〜。実はワシ、最近この辺りの教会で祀られ始めたから来てただけなのよ」

「マジかよ、俺たちそこの教会寄るよ」

「ほんとに〜! なになに、ワシのふぁん? 加護あげよっか? それともアーティファクトいる?」

「お、おじちゃん、この人はいい人みゃん……?」

「うーん、なんかそうみたいだ」


 この世界でようやくまともに接してくれそうなおっさん……というか神さまと出会えて喜ばしいはずなのだが、やっぱ変態のイメージが強くて素直に喜べない。まあでもマキマキおじさんはめちゃくちゃはしゃいでるし、敵意が無いのならそれでいいか!


「うむーっ、他の神と違って目立つ伝説の無かったワシにもとうとう信者が……な、泣けてきた!」

「そ、そっか。喜んでくれてるみたいで俺たちも嬉しいよ。それじゃそろそろ行くね」

「おう! 教会にワシのアーティファクトが置いとるから、そなたたちが触れたらいい事が起きるようにしとくからね! さて、もうひと潜りするか」

「みゃあ、また地面に潜っていったみゃ」

「よく分からない変な人だったが、最後までおかしなヤツだったな」

「にゃん〜」


 マキマキおじさんことオケアノスが帰っていったので、俺たちも再び旅路へと戻ることにする。しかしあの変態おじさんを祀っている教会かァ……なんか急にその教会へ寄るのが不安になってきたぞ。なんせアグニャの足元に潜り込み、おしっこを浴びた後にモコココと這い出てきた変なおじさんなんだ。色々キモくね?


 というかレベルが高いのよ、全体的に。種族:神もおかしいし、海の神なのになぜか地中を行き来するし、あとついでにガイアの子供だったし、ついていけんわ。あ、属性盛りすぎちゃった系のインフレ神さまだから信者が全くつかなかったのかな。ウケる。またワシなにかやっちゃったかの、とかほざきまくって幼女のおしっこ浴びまくってたんだろうな、きっと。そりゃ信者もつかんぜ。キモ。


「あ!!」

「お、どうしたアグニャ」

「うんち!!」

「おう、やれやれ! さすがにもう誰も出てこないだろ」

「えっほ、えっほ!」


 毎度毎度突然である。まあでもそれがアグニャの良さだから……


 ……


 さて、アグニャもスッキリしたみたいだしそろそろ行くか。えーと、東はあっち……


「ゲホ、ゴホゴホ! おい、お前たち……って、あー! またそなたたちかぁ〜!」

「うわーーーー、また来た!!」

「も〜、ワシを呼びたいんだったら大声で名前を呼べば来るのにぃ〜ん! あとキミ、めちゃくちゃいいうんちだね!」

「ふ、ふ、フシャァァァァ!!」

「はぁ〜、行くぞアグニャ。付き合ってられん」


 ほんとに付き合ってられんわ。だって……

 頭にアグニャのうんこが乗っかってるんだもん!

 頑張ってアグニャが埋めて隠したうんこが!

 デデーンって、巻毛の上に!!!


「ぶ、ぶはは、いやアグニャ、笑ってごめん……ぐひひ」

「フシャァァァァ!」



エシャーティ「!?」

エシャーティ「さっき超えた峡谷が土砂崩れを起こしていって無くなっちゃった!」

エシャーティ「絶対あれはエリミネーション使ったね……」

エシャーティ「まったく、あの峡谷にいくつ町があったと思ってんのよ……」

エシャーティ「ほんと、許さないんだから……」


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