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対峙


 金髪女は驚くほどケガに対する知識があり、アグニャの青タンの症状や対処法をすぐに分析しどうすればいいのかブツブツ呟いていたので最初は安心して任せていたのだが、いざ手当てをお願いしたらぎこちない手付きで濡れたタオルを絞ったり、変なタオルの巻き方をしたりして一向に処置が終わりそうになかった。地面に転がされたアグニャも苦悶の表情を浮かべているし、気が気でない。


「あ、あっれー、ほどけちゃうわね! えい!」

「えいって……その巻き方じゃ堅結びになってほどけなくなりそうだけど」

「そうなの? でも……」

「ふぎゃああああ、タオル冷たいミャ!」

「きゃあ、ご、ごめん!」

「あんた知識はあるんだよな? 何をすればいいか、指示だけ出してくれないか」

「分かったわ! えっとね、この具合だとまずは患部を圧迫して内出血を抑えたいから……」


 つまりはアグニャの脚をキツく圧迫すればいいんだな。ということはただバスタオルを結ぶより、脚とタオルの間に何かクッションを挟む方が良さそうだな……そうだ、いつか使おうと思い拾得していたサイフがいくつかある! 中身を抜いたら柔らかいクッション代わりになるから、清潔を考えてバスタオルに包んで結べばいい圧迫になるだろう。


「どうだアグニャ、硬かったり痛まないか?」

「にゃ、ギチギチみゃけど大丈夫みゃ」

「圧迫はそれで良いわね。あとは脚を心臓より上に保ちながら休んでおけば、少しは楽になるはず」

「お、それは聞いたことがある。よーし、それじゃエリミネーション!」


 手頃な所に生えていた哀れな木に向かいエリミネーションしたら、モコモコモコと幹の内部が膨らみ始め遂には皮を突き破ってどこに貯めていたのか分からない量の水分を噴出した。事が終わったあとの木を見るといい具合の切り株となっており、そこにタオルを敷けばオットマンの完成となる。これならアグニャも脚を上げる姿勢が楽だろう。


「ありがとみゃん! しっくりするみゃん!」

「そうか! おい金髪女、あとはどうすればいいんだ」

「しばらくこのままの状態を維持してあげて。痛みが和らいだら動いてもいいけど、一度タオルを取り替えて青タンを見てね。アザが薄くなったら今度は長めの靴下を履いたりして温めること」

「ま、まって、メモさせてくれ」

「何回でも教えてあげるよ。あなたの大事な友達なのね、羨ましい」

「トモダチじゃにゃいみゃ〜」

「そうだな、友達ではないな」

「そ、そっか……! そうだったのね!」


 なんかポッと顔を赤くしてニヤニヤし始めたが大丈夫かコイツ。勝手に他人の間柄を想像するのは誤解を生むだけだから止めたほうがいいぞ。それに助けてもらっておいてアレだが、俺はまだお前に対する敵意を払拭していないからな。


 第一、こうやって俺たちをタイミングよく助けてくれるのすらあざといんだよ。俺だってこういう場面に遭遇したらカッコよく参上して困ってる人を助けたりしたいのに、そういう場面に出くわす機会すら今まで一度も与えられなかったんだよ。そういうところが贅沢なのだ、金髪女よ。なあアグニャ、お前もそう思うだろ?


「おみゃえ、意外と良いヤツみゃん」

「意外とってナニよ! 失礼なネコちゃんね〜」

「ネコちゃんじゃみゃいみゃ。アグニャにゃ」

「アグニャーニャちゃんね!!」

「ア! グ! ニャ! にゃ!」

「アグニャニャ?」

「フシャァァァ!」


 ……アグニャ?


「あはは、ごめんごめん。ちゃんと分かってるよアグニャちゃん」

「ふん、まあ許してやるみゃ」

「あとあたしは金髪女じゃなくて、エシャーティっていうお名前があるからね」

「エシャーティかみゃあ。まあ覚えとくみゃ」

「あたしもずっと、忘れないでおくよ」

「にゃん!」


 ……やめろアグニャ、そんな表情をそいつに向けるな。


「それはそうと、なんでジャングルの村人たちを殺してまであたしに襲いかかってきたの?」

「みゃ、みゃあ、それは……」

「エリミネーションはさ、さっきみたいに人を殺める以外の使い道もあるよ?」

「うにゃにゃ、にゃにゃにゃ」

「ずっと黙っているけど、あなたは何を考えているのかな、おじさん」

「みゃあ……」


 ……どうしたんだ、アグニャ。なんでそんな顔で俺を見るんだ。お前はいつだって俺の味方じゃないか。なんでその女と一緒に俺を見てるんだ?


 そうか、こいつがいけないんだ。この全てに恵まれた女が俺の唯一大事な存在すら奪っていこうとしているんだ。そんなことはさせるか。絶対にアグニャを奪われてたまるもんか。もうアグニャを失うのはゴメンだ。じゃあどうする? どうすればこの状況を変えれる? この悲しみに満ちた顔のアグニャを取り戻せる?


 ……答えはこうだ。


「お前みたいな何の苦労も知らないヤツに俺の考えなんか分かるもんか! だから黙って死ね、金髪女!」

「ふっ、笑わせてくれるね。あなたこそあたしの味わった苦労を知らないでしょ」

「無いものは知れないだろうが! エリミネーション!」

「そういう決めつけがよくないのよ、エリミネーション!」

「みぎゃァァァァ、川が消し飛びそうミャ」


 あいつに直接エリミネーションをぶち込んでも無効化されてしまって意味がない。だから俺は真っ先に目についた巨大な川に向かってエリミネーションを放ち、凄まじい津波を相手に放ったのだ。しかしそれは向こうも想定内だったのか、すぐに金髪女もエリミネーションを川に向かって放ち俺の攻撃を相殺した。


 いきなり大量の水分を失ったジャングルの川は一気に水位を低くし、お住まいになっていたワニや魚に迷惑そうな顔をされた。すまんな、文句はあちらのエシャーティっていう女に言ってくれ。


「みゃあ、おじちゃん、なにをそんなに怒ってるみゃ……い、いたた」

「ア、アグニャ!」

「ほら、その子が大事なら頭を冷やしなさい! 今争うと一向にケガが治らない! 分かってるの、あなた!」

「……」

「今回はアグニャちゃんのために争うのはやめたげる。けどね、あなたみたいな人は必ず過ちを後悔する事になるよ」


 憎き金髪女の言い放つ言葉に、俺は図星を突かれたような苛立ちを覚えた。なんなんだよ、こいつは。どれだけ俺が必死に頑張っても、こういう魅力に溢れたヤツがいたら何にも報われないんだよ。俺みたいな醜男の努力よりも美少女の戯れ言の方が人の心を打つ定めなんだよ。そう、だから俺は決めたじゃないか、この力で全てをやり直すと。


「後悔する、だと? 上等だよ、俺はエリミネーターとしてこの不条理な世界でアグニャと一緒に好き勝手するため、この力で全てをやり直すんだ! この誓いになんの後悔もするわけない!」

「……そう。次に会うときは敵ね、エリミネーター」

「みゃ、エシャーティ、行っちゃうみゃん……」

「あいつとは必ずまた会う。それよりアグニャ、無理して立つんじゃない、横になって休むんだ」

「にゃああ、でも、」

「休むんだ。頼むよ、俺のお願いを聞いてくれ、頼むよ。なあ、アグニャ……」

「おじちゃん……」


 どこかへと去っていくあの女を見失わないように痛む脚を無理やり立たせ、それどころかヨタヨタと引きずりながら追いかけようとするアグニャ。今まで俺以外の人間には決して懐かなかったアグニャが、俺以外には決して心を開かないはずだったアグニャが、よりにもよってあの憎たらしい金髪女に懐柔された。


 ああ、この世界も不条理だ。どれだけ強い力を得ても結局俺だけがみじめな思いをする宿命なのだ。こんなに嫌な思いをどうして再び味わわないといけないのだ。この異世界ですら、不条理な世だと言うのか。



 ※注意

 作中のケガの処置法が必ずしも正しいとは限りません。大きなケガをした際は自力でなんとかしようとせず、病院できちんとした診療を受けるよう心がけましょう。


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