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ジャングル


 色々あったがとにもかくにもジャングルへ入った俺たちは、サバンナの乾燥した空気から一気にジメジメと湿気の多い空間への変わりっぷりに何だか気だるさを感じた。いや、気だるさを感じているのは体の適応力が衰えてきた40歳の俺だけで、若々しさをほとばしらせるアグニャは楽しそうに川へ飛び込むカピバラなどを追いかけている。元気だ。元気が羨ましい。それに比べ俺の体はどうだ、サビサビになった関節と軋みまくる肉体は、俺は40だぞ無理するなよ! という悲鳴をあげているようだ。


「ニャア、おじちゃん見て見て!」

「か、カピバラさん!!」

「カピバラって言うんにゃ、これ」

「小動物の中では人気なヤツだ。ちょっと触っていい?」

「みゃん、もちろんみゃ。それより褒めて褒めて!」

「ああえらいえらい、アグニャは賢くて狩りが上手いんだなぁ」

「ふにゃあ、ゴロゴロ……」


 アグニャの頭とカピバラの体をわしわしと両手で撫で比べてみる。アグニャはサラサラしつつも毛量が多くやわやわとしたキュートな毛並みだ。それに対してカピバラは豚毛だ!! さっきまで川を泳いでいたのか濡れてネチャネチャした物も付いてるし、そもそもガサガサしてて太い毛は撥水性を追い求め過ぎててゴワついている。理想と現実のギャップってやつだ。うーん、汚え。やっぱ野生の原生生物はこんなもんか。いらね。


「すまんアグニャ、もういらないから捨ててきて」

「じゃあ元あった場所に戻してくるみゃ」

「えらい! ちゃんと後始末できるんだな」

「みゃみゃ〜ん!」


 そう言いながら川に薄汚い肉塊を投げようとアグニャが大きく振りかぶると、突然ぶひ! と叫んで茶色は暴れ始めた。まんま豚の鳴き声で思わず笑ったが、もしかしたらアグニャに食べられてしまうと思い必死に抵抗しているのだろうか。食わねえよ、臭餅が。


「にゃ……」

「どうした、早く始末しろよ」

「にゃんだか捕食者本能がそそられてきたみゃ」

「マジ?」

「い、今すぐにハラワタを掻っ捌かないと収まらにゃいみゃ!!」

「あ、そう」


 というわけで、これまでお疲れさんカピバラ! まあせめてもの救いは美少女にゃんこに仕留められた事だろう。あそこで川に投げ入れてくるのを待ち構えてたワニとか、うっかり投げ損ねたのを期待してたアナコンダに食われるよりはマシだろ。


 しかし、さあグロテスクタグ追加チャレンジの幕開けだ! カピバラバラバラショー開幕! というすんでのところで背後から声を掛けられた。全く気配を気取らせずに俺たちの後ろに回っていたので、めちゃくちゃビックリした。


「ドウモ、ドウモ」

「うわ、なんだこいつら、原住民か!?」

「フシャァァァァ!!」

「ドウモ、ドウモ」

「ひぇー、未開のヤツだ!」


 まともに意思疎通がとれないなんて、まるで異世界じゃないか! どうなってるんだよ、このジャングルはよォ! 話が通じるやつを出さんかい!


「サーセン、サーセン」

「フー! フシャ!」

「サーセン、サーセン」

「待てアグニャ、奇声を発してはいるが好戦的ではないみたいだ」

「フ、フシャァァァァ」

「サーセン、サーセン」

「ああ、こちらこそサーセン」

「アザス、アザス」


 大勢の部族らが一斉に同じ単語を発していたので最初は俺たちを驚かしてるのかと思ったが、よく聞き取ってみると普通の単語を喋っているだけだった。代表者一人を選んで対応しろ、土人が。そんな大勢で声を出されるとアグニャが怖がるじゃねえか、後ろのヤツらは黙っとけ、ダボが。


「ブヒ、ブヒ」

「なんだ、カピバラが欲しいのか?」

「サーセン、サーセン」

「別にいらないしあげるよ。アグニャ、渡してあげて」

「にゃ、にゃあ……」

「アザス、アザス!」

「コッチ、コッチ!」

「なんだなんだ、お礼でもしてくれるのか」

「フシャァァァァ!」


 原住民にカピバラを渡すとズドドドドと手を引っ張られながらどこかへと連れて行かれる。俺たちはあの川に沿って進みたかったんだけど、まあ悪いようにはされないだろう。あざすあざすって言ってたし。


x x x x x x x x x x x x x x x


「ようこそジャングルの村へ。私が村長です」

「これはご丁寧にどうも」

「にゃん〜」

「この度は我が村の子供たちがお二人を怖がらせたようでなんとお詫びすればいいのやら……」

「いえいえ、別に何もされてないのでお気になさらず」

「みゃあ、ジャングルの人、結構いい人みゃん」

「そう言ってくださると私も嬉しいです」


 どうやらさっきのカタコトの土人……じゃなくて、ジャングルの村の子供たちは、たまたま外で遊んでいたら食料となるカピバラを捕獲している俺たちを見つけ、思わず声を掛けたらしい。この村の人間たちは普通よりだいぶガタイがよく、子供たちでも170cmを下回る者がいなかった。今俺の前にいる村長は2mはゆうに超えてるんじゃないかと思うくらいの恵体で、ジャングル生まれのポテンシャルを垣間見た。


 しかしこうして友好的に接してくれる人間の温かさはなんと心地の良いものだろうか。もうこのままジャングルの奥地でこの方たちと一生仲良く過ごすのも悪くない、なんて穏健な考えすら浮かんでくる。


「はぁ、ここはいいジャングルですね」

「そうですか。しかし普段なら年に1回来客があるかどうかなのに、今日はあなた方で2度めの来客なんですよ」

「へぇ〜、珍しい事もあるんですね。ちなみに俺たちの前に来たのはどんな人だったんですか?」

「強烈な女性でしたよ。私達が長年このジャングルで恐れていた獰猛なワニを、エリミネーションという掛け声と共に退治してくださった方でしてね」

「な、なんですと!!」


 間違いない、あの金髪女だ! それにもう一つ判明したことがある。それは”エリミネーションを使う女性”なんてわざわざ強調するくらいだから、やっぱりエリミネーションっていうのはこの世界でも他に使えるヤツはいないんだ。


 ということは、あの金髪女も俺たちと同じくどこかから転生してきた人物って可能性が大きくなってきたぞ。やっぱ現地の人と交流すれば色々な事が分かって素晴らしいな。


「あの、その女はまだここにいるんですか?」

「ええ、私どもがワニ退治のお礼に一夜の宿を提供することになりまして、あちらの家屋で休んでおります」

「そうか、ありがとさん!」

「村長さん、ばいばいにゃ」


 あいつがいる! あの原始的なあばら家にいる!


 俺は湖の街での屈辱や怒りを沸々と思い出しながら、アグニャと共にあいつの泊まっている家屋へ向かうと乱暴にドアを蹴破った。村の住人たちが驚いて俺のほうを見ているが、今はそれどころではない。


「えぇっ、なんなの!?」

「いたぁ〜、金髪女ァ!」

「フー、フシャァァァァ!」

「ちょっとちょっと、落ち着いて!」


 のんきにハンモックにぶら下がっていた金髪女は、突然押しかけてきた俺たちに動揺したのかドテリと床へ転がり落ちてしまった。想像していたよりもなんだか鈍臭い動きと、改めて見ると小さく感じるその出で立ちに、俺は少し惑わされそうになった。だがな金髪女、俺はそういうヒロイックなヤツが大嫌いなんだ! ここで弱者を代表して文句を言わせてもらう!!


「落ち着けるワケないだろう! お前みたいな何の苦労もせずに何もかも上手くいく人生を送ってるヤツを前にして、冷静でいられるか!」

「なんなのよおじさん、あなたにあたしの何が分かるっていうの!」

「みゃあ、おみゃえは贅沢だと言ってるミャ」

「どこが贅沢なのよ!」

「俺とお前を見比べてみろ!」

「はぁ!?」

「つまり、おじちゃんは羨ましいみゃ!」

「は、はぁ?」


 この期に及んでまだ自分が恵まれているのを認めないのか。イライラするんだよ、自分はかわいいって分かってるクセに謙遜するフリをしてカワイコぶってる女が。こういう見た目がいいぶりっ子の女を見ると、弱者男性になってしまうのが確定しているブサイクな顔で生まれてしまい、一生第一印象がマイナスになるハンデを背負って生きていく事を強制されてる俺は本当に妬ましい気分になるんだ。


 もし俺が金髪女やアグニャみたいな美形だったとしたら、どんなに人生を謳歌できたことか。今まで努力した分が、何千億倍になって報われるか。そう考えただけで腹の底がムカムカしてくる。それに……


「それに、その上に、さらにお前は! 俺がようやく手に入れた強みすらも奪っていく!」

「おい、エシャーティさんの部屋で何をしている! 数少ない来客だから歓迎したが、貴様やはり汚れた文明人だったのか! 引っ捕らえろ!」

「コロス、コロス!」

「ネコ、エチチ!」

「オッサン、ゴミ!」

「みゃ、みゃあ〜! 村人たちが勘づいてきたにゃ!」

「ほら言わんこっちゃない。今ならあたしが取り繕ってあげるから、あなたも落ち着いて?」


 うるせえんだよ、土人どもが。お前らはジャングルで会ったときから大勢で喚いてうるせえんだよ。


「エェェェェェリミネーショォォン!」

「ワァァ、ワァァ!」

「ジャグワァラララ!」

「ブヒヒヒヒヒヒィィ」

「えっ!? あ、あなたもその術が使えるの!?」

「ふはははははは、驚いたか金髪女ァァァァ!」

「うう、人間相手には使いたくなかったけど……エリミネーション!」

「きかんにゃ! ネコにゃから!」

「うっそー!?」


 ついでに言うと俺にも効かなかった。そして逆に言うと、さっきの俺のエリミネーションもこの金髪女には効かなかった。そういう事なら俺はこの拳で主役ヅラしたこいつをぶっ飛ばすまでだ!


「オラ、くたばれ非国民がァァァァ」

「うにゃにゃにゃ、加勢するみゃ!!」

「うぐぐ、これまずい! えやー!」

「アハァん!!」

「み゛ゃっ!? お、おじちゃん……!?」

「ひぇ、いたそー。じゃあね〜」


 グガガガガガガガガガガ!

 あ、あのクソガキャ〜!!

 俺の股間をエリミネーション(物理)しやがった……!


「うみゃあ、大丈夫かみゃ……」

「ちゅ、ちゅぶれ……」

「な、舐めてあげるにゃ! ペロペロ!」

「あっ、ああんっ!」


 キズを癒そうとアグニャはズボンの上からペロペロと苦しみの根源を舐めてくれる。それは何の効果も無いはずなのだが、悲しいかな男のサガが美少女からもたらされる刺激を喜んで受け入れ、ムクムクとパワーを蓄えていく。やばいぞ、このままではアグニャが18禁レーベルへの移籍チャレンジを開始しそうだ。ここは飼い主として、そしてこの物語の主人公として、毅然とした態度で誘惑を振り払わねば!!!!!!!!!!!


「や、やめひぇ!」

「にゃん〜!!」

「お、おひょー!」

「みゃんみゃん!」

「あ、あがががが」

「うみゃみゃみゃみゃ」

「ふあ〜〜〜〜〜」


 みんな信じてくれ、文字だけだと何の抵抗もしてなさそうだが、俺は必死にもがいて耐えて振り払おうと頑張ってるから。頑張ってるよ。頑張ってるからね? だから黙って次のページに進もう。それじゃ!



エシャーティ「さすがにアレを蹴ったのはやりすぎたかなぁ」

エシャーティ「追いかけて来ないし、ちょっとだけ様子を確認しに戻ろっ」


アグニャ「ペロペロペロペロペロペロペロペロ」

エシャーティ「うわ、気絶したおじさんをめっちゃ舐め続けてる……」


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