もちもちワンコが彼女の弟だった場合
「こんばんワン! むむ、なんて顔してるワン」
そりゃ、突然犬がインターホンを押して訪ねてきて日本語で挨拶されれば、誰でも今の俺みたいな顔になるだろう。というか……よし、分かった。とりあえず保健所に連絡しなければ。
「待つワン! どこに電話かける気ワン!」
「ワタシ、ニホンゴワカリマセン」
「嘘ワン!」
あ、しまった。保健所にかけるつもりが彼女に電話かけてしまった。
『もしもし。何の用だ、ダルタニアン』
「誰が三銃士の一人だ。ごめん、間違えてかけただけだ。じゃあな」
『またれよ、君の所に可愛いワンちゃんが……もしかして来てたりしてないかい?』
ドキっとした。まさに彼女の言うとおり、今この場にモチモチなシベリアンハスキーの子犬みたいのが居る。しかも日本語を駆使するあたり、きっと妖怪の類に違いない。
「お前……なんで分かるんだよ」
『それ私の弟だから。ちょっと保護してあげて』
※ウェルカム、弟ー!
《たいへんだったの!》
ちなみに俺と彼女は結婚を前提にお付き合いをしている。来月入籍予定だ。
「で、弟君よ。君の名前はなんだっけ……」
「むむ、お兄さん寂しいワン。可愛い義理の弟の名前忘れるワンて!」
ごめんて。
「僕の名前は……寅吉!」
「犬なのに?」
「元々は人間ワン! 実は……姉の怪しい実験に巻き込まれて、犬にされたワン。あのままだと次はミジンコあたりにされそうだったから、逃げてきたワン」
「俺の未来の嫁さん何してんの。未来って言っても一か月後だけど」
「というわけでお兄さん……僕を元に戻してほしいワン!」
と言われても。
こういうのはアレだな、きっとお湯をかければ元に戻る筈。俺と同世代の人間なら同意してくれるはずだ。
「よし、寅吉君。お風呂に入るぞ!」
「お兄さんのエッチ!」
「なんだと!」
「ぼ、ぼく……恥ずかしいワン!」
ええい、何を言うか! さあ、入るぞ! ぶち込んでやる!
※やさしく抱っこしながら入れてあげました
《成程……?》
結果から報告しよう。
寅吉君は人間の姿には戻らなかった。
代わりにといっては何だが、ドライヤーをかけてフワッフワにしてやった。
「可愛いぞ、寅吉君」
「うぅぅぅ、なんだが自分がモフモフになると妙な気分ワン……」
そのまま俺の膝の上へと鎮座してくるモチモチ子犬。お風呂で抱っこしてる時も思ったが、かなりモチモチだ。永遠に抱っこしていられる。
「まあ、今日はこのまま泊っていけ。俺の腕の中で眠るがいい」
「ダ、ダメワン! この小説、BLカテゴリーのチェックついてないワン!」
「心配するな。犬はノーカウントだ」
※公式様には未確認ですがたぶんノーカンです!
《姉来訪!》
『もしもし、玄関あけてちょうだい』
寅吉君と一緒のベッドで夜を明かし、目覚めのモーニングコールで彼女に起こされる。
玄関って……もしかして来てるのか?
「なんだよ……来るなら早く来いよ。そして寅吉君を元に戻してやれ」
『いいから早く開けなさいよ』
うぅ、眠い。そして微妙に肌寒い。仕方ない、寅吉君を抱っこして玄関に行こう。
「んんん……僕は……おもちじゃないです……」
なんだか可愛い夢を見ているであろう寅吉君。
なんと微笑ましい。ぶっちゃけ彼女よりもう可愛い。
「はーやーくー」
玄関の向こうから早く開けろと催促してくる彼女。
……いや、待て……合鍵持ってる筈だろ。
それに今……なんか下の方から声が聞こえたような……
「まさか……」
勢いよく玄関を開ける俺。そこには……
「遅いわよ」
そこには……何処ぞの名探偵のように子供の姿になった彼女が……
「ってー! 犬じゃないんかい! どうせならお前も犬になれ!」
「未来の嫁になんてことを」
「待て、その姿で未来のホニャララとか言うな、滅茶苦茶犯罪臭がする」
「真実はいつも一つ!」
「映画見ただろ! 絶対見ただろ! 誘えよ!!」
※その後、サブスクで過去シリーズを一気見しましたー!