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シープ・オブ・ノワール(仮) 冒頭

 三作目として予定していた「シープ・オブ・ノワール」の冒頭です。なかなか書きあがらないため、冒頭だけ投稿する事にしました。

 時子は、母屋おもやにいとまを告げて、もう薄暗くなった、雑草のしげるにまかせ、荒れ果てた広い庭を、彼女達夫婦の住家すみかである離れ座敷の方へ歩きながら、いましがたも、母屋の主人あるじの予備少将からわれた、いつものきまり切った誉め言葉を、誠に変てこな気持で、彼女の一番嫌いな茄子の鴫焼を、ぐにゃりと噛んだあとの味で、思い出していた。 『芋虫』





【プロローグ】


 23:12、住宅街に歪な影。影の先には、黒い男。黒のジャンパー、顔は黒のナイロンで覆われている。


 闇の中で、生活音が響いている。換気扇の音や子供の話し声。通信販売のチープな音楽。食器を片付ける音。


 不審者は、スマートフォンを取り出し、発信。発信記録には、


 20:47 応答

 21:23 応答 

 21:49 キャンセル

 22:22 キャンセル


 ぽんぽんぽん、と明るい呼び出し音が鳴る。そして、数分後、


 23:12 応答なし


 不審者は再度、発信し、そのまま歩きだす。


 癖なのだろうか、ふぅーん、ふぅーん、と鼻歌のような吐息のような声を漏らしながら闇の中を進む。そして、集合住宅地の前で歩みを止める。認証コードを入力、居住スペースに侵入。


 廊下の電灯が点滅を繰り返し、不審者の影が痙攣する。


 不審者は目的の部屋に着くと、持っていた鍵でロックを外し、部屋に侵入。置いてあった消火器を手に取る。


 居間は電気が付いていなかった。部屋の中で、スマートフォンのバイブレーションが響いている―もちろん電話をかけているのは不審者。それを止めると、くぐもった水温が奥から聞こえてきた。


 バスルームから淡い光が漏れており、人が動く気配がした。


 不審者は予備動作なく、バスルームへ侵入。真っ白な男性の裸体が見えた瞬間、不審者は消火器を振り下ろす―鈍く重い音。男性は痙攣し、動かなくなる。


 シャワーが床を濡らし、排水溝に赤い水が吸い込まれていく。


 不審者は、男性を引きずり、居間へ。テレビをつけ、にぎやかなワイドショーを付けた。その音楽と笑い声が、ノイズのように部屋に響いている。


 消火器を放り、不審者は果物用の包丁を取り出す。


 ず、ず、ず、と湿った音が聞こえる。男性が這って窓側に逃げていた。


 不審者は男性に馬乗りになり、腹に包丁を振り下ろす。脇腹に包丁が深く突き刺さる。そのまま包丁を抜いて、第二撃を食らわせようとするが―


 滑り、手だけが宙に勢いよく持ち上がる。ジョークのように、包丁の柄が、腹から生えていた。


 男性が悲鳴とも罵声ともつかない声を上げる。


 ハハハハハ、ワイドショーの笑い声。テレビの向こうの芸能人が、何かを指さし笑う。


 不審者は強引に包丁を抜くと、先ほどの衝撃に耐えられなかった刀身が曲がっていた。だが、そのまま胸に突き立てた。骨で滑り、腕を切り裂く。男性が歯を剥き出しにする。


 刺す、刃こぼれする、刺す、刺す、滑って床を傷つける、刺す、肉に引っかかって抜けない、強引に抜く、刺す―


 ハハハハハ、とワイドショーの笑い声。

 読んで頂き、ありがとうございました。

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