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戦場にて

 「ブラックシープ 特殊軍事作戦部門」のパイロット版の冒頭。SOH社の秘密軍事作戦部門に所属しているダリウス・クルーガーが戦場に行くところから始まる。

 爆発音がする。しかし、それは誰の注目を浴びることはなかった。ここ、中東の某国ではテロリストが連日爆破を行っていたからだ。建物の多くは廃墟と化し、人影は一切ない。


 その爆発に唯一、関心を示す男がいる。男は廃墟で息を潜めていた。広い建物だが、元々何だったかは検討が付かない。何もかも弾痕と爆発の跡でえぐられていた。


 男は黒っぽい砂漠迷彩の装備に身を包んでいた。外が闇なのもあるが、完全に影に同化していた。呼吸を整え、気配を消していたのだ。


 男が静かに影から顔を出す。影から強面の黒人が現れる。頭は短く刈られており、鋭い印象を与えた。歳は三十代後半。ダリウス・クルーガー、とある民間軍事企業に勤めている兵士だ。


 ―はめられた。やはり、読みは正しかったのだ。


 ダリウスは突撃銃に込める力を強くする。


 ダリウスは4人で一つのグループのリーダーだった。部下3人は爆発で壁の染みになっていた。本来はこのようになるはずではなかった。同じ任務を遂行していた同業者が、この建物内でダリウスの班に攻撃を開始した。裏切られたのだ。作戦は開始早々に目的を失い、同士討ちに発展した。


 至上の愛だ、と自分の聴くジャズを3人に聴かせていた一時間前が懐かしい。新しいボスは変わっているな、と3人は顔を合わせていた。しかし、3人とも死んだ。


 髭面の男の顔が思い浮かぶ。男の名はクリムゾン。本来であれば任務を遂行する仲間。だが、今は敵だ。


 銃声が近くで聞こえる。ちょうど、下の階のようだ。


 ―焦ることはない。


 大柄な黒人は自分に言い聞かせる。恐れすぎないのは危険なのだ、適度に恐れ、恐れをコントロールして強みにすれば良い。


 こう言うときは簡単な作業を丁寧にすると良い物だ。ダリウスは顔に黒い顔料を素早く塗る。これで闇の中で顔が光ってしまう事はない。


 ダリウスはゆっくりと深呼吸。小さなメモ帳を取りだす。ここを脱出できる方法を思いつくだけ書き出す。


 ―敵は1人。17分後、仲間の装甲車がダリウス達を回収しに来る。もし、その装甲車群に回収されなかったとしても、別の脱出法は用意されている。水、食料、現地の金はある。


 ひとまず作戦通り装甲車に乗ってここを脱出する選択肢を選ぶ。しかし、ダリウスがいるのは二階で、装甲車が来るのは一階。銃声は一階から数分間鳴り続いている。


 銃声がする方に無音で進む。焦るな、と言い聞かせても、心臓の鼓動は胸を圧迫した。


 建物はCの字になっており、建物と建物の間を中庭がしめている。


 ダリウスの足元に大型犬が入るくらいの四角い箱が鎮座していた。ダリウスの動きに合わせ、四角い箱から脚が生え、ついてくる。米軍が開発した多機能ドローン。俗称・豚だ。今は換気扇の外部装甲で偽装しているが、本来の姿は梨に脚を付けたような奇妙な姿をしている。


 豚には罠を感知する各種のセンサーが搭載されている。ダリウスは豚を先に進ませた。豚は進みながら、窓際に散らばるガラスを集めている。


 ここだ、とダリウスは豚に指示。豚は割れたガラスの破片を集め、通路の中心にばらまく。これでいざと言う時、追いかけてきた敵を負傷させることが出来る。


 ダリウスは地図にガラスを集めた通路の位置を記録。自分が何らの理由でここをもう一度通る時はブザーがなるように設定。全部で四か所、罠が仕掛けていた。


 少し進み、ダリウスは部屋に入る。そこは装甲車が止まる道路側に位置しており、窓を開ければ下は道路だ。そこから、縄を使い、降りることを考えたがダリウスはすぐにやめた。窓は痛んでおり、開けようとすれば大きな音が出ることは必須だった。それに当てつけのように大量のワイヤーが絡まっていた。


 ―クリムゾンは俺たちを嵌めるための準備を用意周到にしていたのだろう。


 ダリウスは通路に戻る。やはり、階段を降りるしかない。


 銃声が近づいてくる。ダリウスはすぐそばで銃声が鳴る場所についた。すぐ階段の下で銃声はする。無音で階段を中ほどまで降り、手鏡を使うと少年兵がいた。銃声の発生元は彼のようだ。少年兵は割れた窓から一心不乱に突撃銃を中庭に向けて撃ち続けている。小さな身体に不似合のベストには大量の弾倉。


 ―幻想でも見えているのか。ダリウスは銃を撃ち続ける少年を見て思う。


 しかし、すぐにその音に連続性があることに気が付く。少年兵は撃つたびに指を引き金から離している。そうすることで1~2発の弾丸だけを発射している。そのおかげで断続的に何分間も撃っていられるのだ。注意して聴けば、弾丸を発射するのは三十秒に一回程度だ。


 中庭の敵をけん制しているのだろうか。ダリウスは階段を上がり、窓から中庭を見る。少年は砕けて跡形もなくなった何かを撃ち続けていた。敵の姿は見えない。


 ダリウスは中庭への攻撃と、銃声を記録し、解析しろと豚に指令。豚はすぐに銃声の頻度を表にする。やはり、1~2発を三十秒の間に撃ち続けている。また、少年兵の撃つ弾着地点には一向に人影は現れない。


 見れば見るほど不自然だった。


―敵の誘導だ。ダリウスは建物の地図を思い浮かべる。少年兵を殺せばすぐに一階に行ける。しかし、クリムゾンはありとあらゆる罠を仕掛け、メンバーを殺していった。今回も何かあると思った方が良い。


 ダリウスは再度、少年兵を観察。薬物でおかしくなっている様子ではない。挙動や呼吸もしっかりしている。豚の各種センサーを利用した生体データ解析でも重度の薬物反応は見られない。


 周囲に気を付けながら、考える。もしも、クリムゾンならどうするか。

 

 少年兵の戦闘力など知れている。経験を積んだ兵士なら、銃を撃たせずに殺すこともできるだろう。


 少年兵は陽動だろうか。ダリウスは考え、即座に否定する。もしもダリウスが焦りに焦っていたなら、少年兵の銃撃に気を取られてしまうかもしれない。しかし、冷静であれば敵の規模を確認し、対処する。


 ダリウスは時計を確認。後、7分で装甲車が来る。


 ダリウスは手鏡で中庭を確認。良く見ると、庭への弾着は一回の少年兵が撃つもの以外にも存在することが分かる。銃撃の光が微かに見え、それが各建物の一階の階段に繋がる場所である事が分かる。


 ダリウスが少年兵を倒せば、銃声が途絶える。クリムゾンは階段に爆弾か何かを仕掛けているのだろう。少年兵の死体もろとも消し飛ばすつもりだ。


 ダリウスは豚にもう一つの弾着を作っている元に向かうように言い、腹から弾倉や狙撃銃を取りだした。


 ダリウスは自分が使っているのと同型の拳銃を豚から取りだした。そして、突撃銃からスリング(肩に突撃銃をかけるための紐)を外す。そして、拳銃の引き金にスリングが引っかかるように細工をし、弾をすべて抜きとってから実験する。拳銃はスリングを引っ張ると、その後、手を触れなくとも弾を撃ちだすべく、動作した。それを豚に持たせる。


 豚は素早く静かにもう一つの銃撃地点に近づいていく。豚の見ている映像を確認すると、もう一人の少年兵が銃を撃っていた。


 ダリウスは拳銃が絡まったスリングを階段下に投げられるようにする。そして、時計を確認。そして、拳銃を投げた。拳銃は階段下に落ち、階段に落ちてから銃撃した。少年兵から遠くはなれた場所に何発か弾着し、少年兵が振り返った。


 ダリウスは豚を操作、四肢とショックを使い、少年兵を拘束。そして、そのまま一階へ向かわせる。


 爆発音がし、豚からの映像が灰色になる。


 少年兵が起爆を行った様子は見られなかった。クリムゾンはやはり罠を仕掛けていたのだ。


 ダリウスは二階の踊り場に出る。逃走経路を確認。さっきと全く同じように拳銃にスリングを引っかけ、記録した落下時間に合わせ、紐の長さを調整。


 残り、4分。


 ダリウスは手榴弾を取り出し、拳銃に弾を込めた。そして、上手く手すりにぶつかるように階段下に投げる。調整通り、空で高い銃声と金属音がして、少年兵の周囲に弾着する。少年兵は驚き、尻もちをついた。拳銃は手すりにぶつかり、少年兵の視界から消えた。


 少年兵は手すりに銃撃をし、手慣れた動作で無線に何かを言う。


 現地語で羊が来た、というようなことを少年は言った。微かな布擦れの音がする。そして、髭面の男が現れた。クリムゾンだった。ダリウスは彼を追うように設定し、閃光手榴弾を下の階に投げる。同時に、廊下を全速力で走った。


 爆音が聞こえ、建物が揺れた。


 ダリウスが投げたスマート手榴弾はクリムゾンのすぐそばで飛び跳ね、キスできる距離で炸裂したのだ。


 さきほどまでダリウスがいた場所が爆破によって、崩壊。クリムゾンが仕掛けていた罠が発動し、火花が散った。


 粉まみれになりながら、ダリウスは立ち上がり周囲を見渡した。敵はいないようだった。安全を確かめ、降りた。


 足元に気を付けながら集結地点に急ぐ。すると、眼の前から味方表示の兵士が現れた。


「ダリウス、俺だ。スミスだ!」仲間の声がし、銃を置いた。


 ダリウスも銃を静かに下す。すぐに仲間の兵士が数人現れた。


 スキンヘッドの白人―スミス―がダリウスをまじまじ見る。


「傷はないか」


「大丈夫だ」ダリウスは安堵で体の力が一気に抜けるのを感じた。


 スミスは同じ会社の兵士だ。ダリウスの部隊が動いている時に別の場所で陽動を担当していた。


「情報提供者と仲間は?」


「死んだ」ダリウスはゆっくりと首を振った。


 仲間の深いため息が聞こえた。


 ダリウスは装甲車に乗りこみ、息を吐いた。

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