第二十五話 顛末
部屋に残った四人が供述調書を読み始めたころ、エドワードたちは警察署に向かって歩いていた。
「エドワード先生。これでよかったのですか?」
「かまわない。この件はアルバトロスにすべての責任を負わせておしまいだ。不満かね?」
「エミ婦人は自分の子供を捨てようとしたのでは……」
「どこにも証拠はない」
事実である。小百合個人が調べられることなど警察ならすぐにわかる。そこから推測することはできる。
だが、それよりも重要なのはアルバトロスの証言だ。普通に考えて自分に不利な偽証をするはずないのでアルバトロスの証言は真実になる。それが偽りであったとしても、警察にも、法律家にとっても、誰にとっても都合がよいのだ。
その都合に反発するメロウは若いとも、実直だとも言える。
「しかし事実として……」
「メロウ君」
教え子を叱責する教師以外の何ものでもない厳しい声がメロウを射すくめる。
「我々の職務は一人でも多く被害者を救い、加害者を罰することだ。不要な労働を行ってはいけない」
「……はい」
メロウは釈然としない表情だったが、反論せずにエドワードに付き従った。
自宅に帰還したのち、落ち込む雫をなだめ、適当な用事を言いつける。今はむしろ何かしておくことで気がまぎれるだろう。
そうして一人になった自室で重苦しいため息をつく。そして天井を見上げ、宙に向けて叫んだ。
「私、馬っ鹿じゃないですかあ⁉」
叫ぶついでに叩いた机から本が滑り落ち、じんじんと右手が痛むが無視した。
「共和国時代の判例が生きていることやエドワード様が介入してくることは予想できたはずです」
今家の中には私以外いない。さすがにこのざまは他人に見せられない。
「しかもエドワード様に思い通りに利用されて……情けない!」
私見だが自分の感情を律することができる人間が優秀な人間だ。ただやはり感情を持つ生き物なのでキャパオーバーになることはある。
だからこうやって時折発散させなければならない。壁に話しているだけでストレスは意外と減る。
鳥子さんが殺処分されたのはまあしょうがない。エミ様の痴態はまあまあ見ごたえがあったので、総合的には得をしたはずだ。
が、やはりエドワード様の掌の上だった感触は拭えない。その理由も今一つ理解できないこともそれに拍車をかけている。
何か得があるのか? それとも法律家としての職務? ……わからない。
だがまあ、やや不本意な結果とはいえこの騒動にけりがついたのは確かだ。
もともとの目的であるニジイロゴケの入手はまた別の方法を考えなければならないけれど、どうとでもなる。
様々な思案を巡らせていると、入り口から騒がしい気配が感じられた。誰かが帰ってきたらしい。
ちりん、と鈴が鳴る。
これを鳴らせる権利があるのは家長である坊ちゃまのみ。ただし坊ちゃまはあまり鈴を使いたがらない。
つまり、またしても何らかの非常事態が起こっているということ。
素早く立ち上がり、玄関に礼儀を失さない速度で駆けつける。
そこには顔を青くした坊ちゃまが困惑しきっっていた。
「さ、小百合。大変だよ……」
「どうなさいましたか?」
「花梨が……花梨が……新星教にさらわれちゃった!」
……どうやらまだまだ安息は訪れそうになかった。




