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第五話 虹苔

 苔に目をやると、花梨は顔を輝かせた。

「小百合お姉ちゃん、それが気になるの?」

「ええ。話には聞いていますが、実際に見たことはありません。見せてもらっていいですか?」

 あの苔の正体を知ってはいるが、花梨の気を引くためと、純粋な好奇心から尋ねていた。

「じゃあ見せてあげる! ニジイロゴケを使って映像を送信する装置、立体テレビを!」

 後半部分は地球ではとてもありふれていたが、しかし前半の枕詞を加えられるのは初めてだった。

 花梨は部屋の隅にあるニジイロゴケと呼ばれている苔を何かの箱に押し込んだ。

「そっちの箱をよく見ていてね!」

 花梨が持っている箱のスイッチを押すと、花梨の顔が別の箱からSFの立体映像のように出現した。

 さらに手をふったり、ピースサインをしてもその動きはタイムラグなく追従していた。

「うわあ! すごい! 花梨ちゃん! これどうなっているの⁉」

 初めて見る光景に坊ちゃまは驚きを隠せないが、私も内心ではかなり驚いている。

 その反応に気をよくした花梨は怒涛の勢いでまくし立てた。


「えへへ! これはね! ニジイロゴケの光を反射させる性質を利用しているんだ! 特定のダンジョンの近くで採取されたニジイロゴケは自分の身を守るために捕食しようと近寄った生物よりも大きな姿を投影するって言われていてね⁉ さらに興味深いのは映像を他のニジイロゴケにも伝播させているんだ! それも物理的に離れている相手にもだよ⁉ 結局原理はよくわからなかったんだけどね。ただ、動物みたいに目はないからどうやって光を受け取ってるかも謎だったんだけど、そもそも受け取ってないんだよね。光を認識してるんじゃなくて光そのものを増幅してから反射してる可能性が高いと思うんだ。要するに特殊な鏡になるのかな。もっと安定させるためには理論を解明しなきゃならないんだけど、やっぱり何故そうなってるかはわからな……あ」


 雪崩のように口を開き続ける花梨をぽかんと眺める私と坊ちゃまにようやく気付いたようだった。完全に自分の世界に入っていた。

「ご、ごめんなさい」

 謝りながら、前髪を整えていた。目元を隠したように見えたのは気のせいではないだろう。

「何を謝るのですか? 見せてくれるように頼んだのは私です」

「あたし、ちょっと夢中になると話し続けちゃうみたいで……」

「いいじゃないですか。話している時のあなたはとても楽しそうでしたよ」

「うん。僕は何を言っているのかよくわかんなかったけど、花梨ちゃんが楽しそうなのはよくわかったよ」

「えへへ。ありがとう。えっと、簡単に言えばこっちのニジイロゴケを組み込んだ箱が写した景色をそっちに映すことができるんだ」

「なるほど。ちなみにその映像を保存したりはできますか?」

「それは無理かな。カメラカメレオンを使えば別だけど。テレビじゃ映像は一瞬でなくなっちゃう」

 ビデオカメラとは違って映像を保存できるわけではなく、あくまでも発信できるだけらしい。それでも利用価値は高い。

 いや、高すぎる。この世界にはまだテレビがない。何故か花梨はこの装置にテレビという名前を付けたようだけれど……もしもこのニジイロゴケを利用した立体テレビの特許を取得すれば後々数億円、いや数兆円の利益すら見込める。

 私たち個人でそのプロジェクトを進めるのは無理だから、私が法律家として活動しつつ、スポンサーになってくれる企業なり富豪なりを探し、誰かに販売させる。

 最終的にテレビ局、スポンサー、広告、という概念を設立させれば任務完了。

 私は法律家として設立に関与しつつアドバイスを与える。これなら多分、地球の知識持ち込み制限には引っかからないはず。

 これが私の金策の概要。

 多分こういう情報を売る、という発想はなかなかこの世界からでないはずだ。だからこそ転生者であるという有利を活かせる。

 私からしてみれば花梨はまさに金の卵。何故この娘を手放そうとするのか理解できない。……まあ、頭が良すぎて不気味なのかもしれない。確かに私もこの知識が一体どこから来たのか、興味はある。


「花梨。あなたの発明は素晴らしいですが、どのようにここまでこぎつけたのですか?」

 そう聞くと花梨はまたしても目を輝かせた。

「えっとね! まずここは不便な土地だからいろんな手段で遠く離れた人たちとやり取りできた方がいいって言っていたからね! だからあたしは電話鳥以外にもそういう手段があったらって思ってね! それから……」

 嬉々としてこれまで経緯を説明する花梨にはためらいや葛藤はない。転生者ならもう少し警戒するはずだし、そもそも地球の知識をそう簡単に話せないはずだ。

 恐らくこの子は転生者ではない。この知識量ならもしやとは思ったが違う。

 この子は、ただの天才だ。

 以前ケレム様は頭が良いホムンクルスが産まれたと言っていたけれど、これはこの子を指しているのだろう。

 花梨の頭脳。雫の運動能力。人間の限界を超えてはいないけれど、確かに異常だ。

 ではこれが勇者の遺産の力だと……?


「あの、それでお願いがあるんだけど……」

 思考を打ち切って花梨の話に集中する。

「何でしょうか?」

「ニジイロゴケを採取して来てほしい……ええと、正確にはニジイロゴケを採取できる人を助けてほしいかな」

「それは構いませんが……トラブルに巻き込まれているんですか?」

「うん。アルバトロスっていう鳥の姿をした人たちなんだけど……新星教っていう宗教団体ともめているんだって」

 宗教団体ねえ? そんな胡乱な連中と関わりたくはありませんが……可愛い妹の頼みです。何とかしてあげましょうか。

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迷宮攻略企業シュメール 次回作です。時間があれば読んでみてください。中東のメソポタミアと呼ばれている地域で生まれた神話をモチーフにしています。
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[一言] >宗教団体ねえ? そんな胡乱な連中と関わりたくはありませんが おまゆう
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