第四十二話 味方
アテシン邸を出て、早足で三人を探す。その間にも脳を必死で回転させる。オーマー様から告げられた事実は衝撃的だったが、今までつながらなかった糸を結び付けていた。
(アテシン家もマフタ家も、そしてヤルド家も……元を正せば同じ原因で苦しんでいたことになります。何より、私には、いえ私たちには三人の父親を責める権利はありません)
だからこの状況を甘受していいというわけでもない。何とかこれを足がかりに突破口を開きたい。
そんなことを想っているとようやく三人を見つけた。
「……何しているんですか?」
「うるさいわよ」
何故か菜月様の服は土で汚れており、坊ちゃまがその汚れを落とそうとしていた。そして雫は一人離れた場所でぽつんと立っていた。
「私がこけちゃったのよ。それでちょっと血がでちゃって……」
菜月様の手のひらは擦りむけていた。かなり派手に転んだらしい。ドジっ子属性でも取得するつもりだろうか。
「それで雫が怖がっちゃって」
「菜月様を?」
「あんたは私を何だと思ってるわけ⁉」
言い返す元気があるなら菜月様は大丈夫だろう。
「あの子、血が怖いみたいよ」
「そうなんですか?」
今までそんな様子は見せなかったし、別に何かトラウマになるような経験も……あった。旦那様が雫にしたことを考慮すれば血に恐怖感を覚えてもしょうがないだろう。
「雫。離れてすみませんでしたね」
「いえ……手当てするべきなのは私なのに……」
「気にする必要はありませんよ。菜月様。冬の家に向かって構いませんか?」
「いいわよ。ていうかあれからどうなったの?」
「黄ノ介様はマフタ家に連絡しました。後日、学園に謝罪に向かうようです」
オーマー様との会話の後でそう聞いた。そこでの謝罪の内容によっては多少菜月様の悪評も収まるかもしれない。望み薄だが。
「そ! うん! 褒めてあげるわ! よくやったわ!」
尊大だが親しみやすい笑顔だった。もしかするとこっちが素なのかもしれない。
「ほとんど小百合がやってくれたけどね……」
「私たちはほとんど何もしてません……」
「お二人とも後悔はそこまでにしてください。菜月様。私たちの要望も聞いていただけますか?」
「いいわよ。なんでもやってあげるわ」
それは頼もしいですね。……いや、あまり頼りにはならないけど、それでもようやく味方が増えたことを喜びましょう。
うららかな風がほほを撫でた気がした。




