第三十三話 貴人
「「すみませんでした」」
事情を説明し合うと真っ先に二人の女生徒は謝罪した。
二人とも菜月様の友人で、菜月様が珊瑚様のいじめを首謀したという噂を探ったり火消しをしたりしていたらしい。効果のほどは……察するべきだろう。
「噂の出どころも、消すこともできなかったのですね」
「はい……あなた方は何かわかりましたか?」
「申し訳ありませんが、お役に立てそうにありません」
二人は見てわかるほど落胆した。
どうやらかなり心配していたらしい。菜月様は友人が少なそうだが恵まれているようだ。
「菜月様がいじめなんかするはずないの。むしろ珊瑚さんの相談に乗っていたくらいなのよ」
「ええ。菜月様はお優しい方です」
「そうなのよ。でも、素直になれなかったり言い方がきつすぎたりするから、どうしても敵が多くなってしまうし、名家だから取り巻きは多いけど、本当に菜月様を慕っているのは多分、私たち二人だけなの……」
俯く二人をなだめてから、ハンカチを手渡された。
「これを菜月様に返していただけませんか? 先日貸していただいたものです」
そこには地球のアパレル会社のロゴが刻まれていた。
「このハンカチは……」
日本から持ち込まれたのか? とは聞けなかった。
「先日指を切ってしまった時に貸していただきました。お安くはないのに……」
どうやら転生者が服飾会社でも始めたらしい。滑らかな手触りから上品さを感じる。
これをすぐに手渡すのはなかなか人間ができている。……その優しさをどうして婚約者の前で出せないものか。
もう一度謝罪されてから二人の女生徒と別れた。
次に向かったのは応接室だった。坊ちゃまに場をセッティングしてもらった。
そこに座っていたのは牡丹のような高貴さが溢れる麗人だった。緩くウェーブがかかった長い金髪。とがった長い耳は人間の中では目立つだろう。だがそんな違和感さえも彼女の容姿の前では些細な問題だ。それほどまでに美人だった。
多分、この方が菜月様のような高飛車な態度を取れば実に様になることだろう。まさしく不思議の国の住人。初めて見る、エルフ。彼女はたおやかな声で名乗った。
「初めまして。木村珊瑚と言います」
それに反比例して名前は実に日本人らしかった。珊瑚はともかく木村って……。
「と、藤太・ヤルドと言います」
あまりの美人っぷりに坊ちゃまはかなり気圧されている。無理もない。私が代わって話を切り出そう。
「早速ですが、菜月様からいじめられていたというのは事実ですか?」
「まさか! そんなことはありません! むしろ菜月様には相談に乗っていただいておりました」
あの女生徒たちの言っていたことは事実らしい。
「そのことを黄ノ介様はご存じですか?」
「お伝えしましたが、大丈夫だ、任せておけとだけ……」
あのボンボン息子……どれだけ早とちりをすれば気が済むんですか? いや、会ったことないけど。
「いじめられていたのは事実ですか?」
「……事実です。でも、それほど大したことではありませんでした」
「精霊を呼ぶつもりはなかったんですか?」
人権があるのなら無能の精霊以外の精霊と契約しているはずだ。
「本当に大したことはなかったんです」
精霊は無敵の法の番人だ。だが、必ず役に立つとは限らない。立場や権力をかさに着てごり押しされれば反抗は難しいし、そもそも直接危害を加えていない相手を精霊で攻撃するのは無理だ。
つまり穴はある。私なら誤魔化す方法を十は考えつくだろう。
「菜月様が首謀者であるという話についてはどう思われますか?」
「そんなことはあるはずありません! あの方はとても優しい方ですから!」
どうやら菜月様と珊瑚様はかなり懇意にしていたらしい。それを周囲がどう見ていたかはわからないが。あのお嬢様……本当に婚約者が関わっていなければ立派な人なのに。
「お話をお聞かせいただいてありがとうございます。わたくし共はこれで失礼したほうがよろしそうですね」
「え、ああうん、そうだね」
ほとんど会話に加われなかった坊ちゃまが正気を取り戻したように立ち上がる。
「ああそうだ。最後にお聞きしてもよろしいですか?」
「はい?」
「あなたは黄ノ介様をどう思っておいでですか?」
「え⁉ それは、そのう……」
顔を赤らめてもじもじしている。何といううぶな反応。これがもし演技だとしたら相当強かだ。
「聞くだけ野暮でしたね。どうぞお気になさらずに」
未だに顔の赤い珊瑚様を置いて私たちは外に出た。




