第十二話 書置
一度自宅兼事務所に戻り、二人が落ち着くように雫が紅茶をふるまっていた。
一服いれて会話できるタイミングを見計らって口火を切った。
「さて。まずは自己紹介をしましょうか。私は小百合。ホムンクルスですが法律家を営んでおります」
「話には聞いたことがありますが、本当にいらっしゃったのですね。私は藤原ショーン。こちらは妻の藤原フラムです。名前で呼んでください」
夫のショーン様に紹介され、フラム様はぺこりとお辞儀した。
二人の見た目は本当にどこにでもいる夫婦だった。
お互いにゆったりとしたラルサの伝統衣装を着ており、アクセサリーなどは控えめだったが、品の良い香りがすることから身だしなみにほどほどに気を使っているのが分かる。
「では、ショーン様。お嬢様が一体どうしたというのですか?」
「はい。娘が行方不明になりました」
「穏やかではありませんね。警察に相談しているようでしたが、ご不満があるのでしょうか」
「そうなんですよ! 私たちがどんなに言葉を尽くしても全く聞き入れてくれません! 何のために税金を払っているのかこれではわかりません」
「お気持ちお察しします。警察というのは頭が固く、動きが鈍い組織です」
ちなみにこの手のセリフは私が法律家になってよく言うようになった台詞トップファイブくらいには入っている。
人間という生き物は好きな相手が一緒でも必ず仲良くなれるとは限らないが、嫌いな奴が一緒だと高確率で気が合う。
ネットで過激な意見がまかり通るのは同じような理由ではないだろうか。
何はともあれこれが会話や交渉で使えるテクニックなのは事実だ。それを証明するようにショーン様は食いついてきた。
「本当にひどいんです! 何度訴えても一向に話を聞いてくれません!」
それからしばらく夫婦から警察に対する愚痴を聞かされた。心を半分ほどどこかに向けて聞き流す。そうでもしないとこの仕事はやってられない。
失礼? はははは。私の客の大半は愚痴を聞いてもらいたいだけですよ。暴論ですが、おおむね事実ですよ。
愚痴が収まったあたりで本題に入ることができた。いや、ようやく話題が一周まわって戻ってきたというべきか。
「警察がお嬢様を探さない理由は何なのでしょうか」
「それは、娘の書置きがあったからです。それを理由に警察は動いてくれません」
「自発的に行方をくらましたと判断されているのですね。ちなみにそれはどのような書置きですか?」
ショーン様は三枚の手紙を差し出した。
何度も読み直したせいなのか、くしゃくしゃになっておりところどころ破れた形跡がある。
「要約すると本当に信頼できる人を見つけたから探さないでください、ということですね」
「ええ。あの子はとてもいい子で、素直です。こんな書置きを残して失踪するはずがありません。きっと誰かに騙されたのでしょう」
「なるほど。それではお嬢様の交友関係でそのような方々に心当たりがありますか?」
「もちろん。娘の友人関係はすべて把握しています。最近学校でエルフの一団と付き合いがあったようです」
ここでエルフが出てくるのか、そう心の中で驚く。
「そのエルフの一団がお嬢様をかどわかしたと?」
「そうに決まっています! ですが警察はエルフが関わっているせいで動いてくれません」
「警察はいつでも権力の味方ですから。ついでになりますが、お嬢様はどのような方なのですか?」
「それはもう! 学業の成績が素晴らしく、自慢の娘です!」
それからしばらく、ショーン様とフラム様は娘の自慢話を続けていた。
その合間にちらりと雫と目線を合わせるとかすかに頷いた。きっと雫も私が気づいたことに気づいているのだろう。
だがあえてここでそれについて言及する意味はない。この事件の決着がついた後でじっくりと取り掛かればいいことだ。
「了解いたしました。まずはお嬢様の行方を探ります。吉報をお待ちください」
「ありがとうございます!」
そうは言っても人一人の行方を探るのは容易ではない。しばらく時間がかかるだろうと予想していた。




