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第六話 魔弾

 質屋の書類をミステラが確認するとこちらも本物であるとのこと。

 つまりどちらの書類も本物で正しい効力を持つ。この場合宝石は誰のものなのか。

 その答えをまず主張したのはやはりエルフの男性だった。

「私の保証書のほうが先に発行されている! だからその宝石は私のものだ!」

 そう主張する気持ちはわからなくもない。先に所有していたものに所有する権利があると思いたくなるのは当然だろう。

 だがそれは成り立たない。こんな時に使える最強の切り札が存在するためだ。

「残念ですがそれは成り立ちません。この場合善意の第三者が成立します」

「なんだそれは?」

 エルフの男性は怪訝な顔をしていた。彼は聞いたことがなかったらしい。

 日本人なら一度くらい聞いたことはあるかもしれないが、具体的にどういうものか説明できる人は少ないかもしれない。

「特定の事情を知らない第三者を指し示す言葉です。この場合、質屋に預けた品物があなたのものであると知らない人、つまりこの店主は善意の第三者に当たります。そして善意の第三者は原則として罪には問われません」

「馬鹿なことを言うな! この宝石がエルフのものだと見ればわかるだろう」

 少しだけ同意しそうになった。こんな趣味の悪い宝石をありがたがる奴などエルフくらいのはずだ。……いや、勇者万歳宗教の新星教あたりも怪しいか。

「ここで重要なのはエルフのものかどうかではなくそれがあなたのものかどうかわかるか、です。店主様に質問ですがその宝石を売りに来たエルフの素性などをあなたは知っていましたか?」

「い、いいえ。身分証明書を確認しただけです」

 今度はエルフの男性に向き直る。

「この証明書に記載されている人物に心当たりはありますか?」

「……私の弟だ」

 おおむね予想通りの反応だった。おおかた弟がこっそり持ち出した宝石を勝手に売ったのだろう。

「であればまず弟様に話をするべきでしょう。この店主には何の罪もありません」

「貴様! 弟が悪いというつもりか」

「はい」

 きっぱりと断言すると、エルフの男性は怒りよりもむしろ気圧されたようだった。おそらくこの男性はこうやって恫喝すれば誰も彼も自分の言うことを聞くと思っていたのだろう。

 特権に守られてきた人間らしい傲慢な思考だ。

「失礼ながらあなたがすべきことは弟様ときちんと話す。もしくは弟様が受け取った金額を返済なさる事です」

「し、しかしだ! この利息は暴利ではないか⁉ 確か金利には上限があるのだろう⁉」

 書類の一部を指さし、口角泡を飛ばす。今度は金の文句らしい。男性の言い分にも一理はある。が、正確な理解ではない。

「確かに貸金業の上限金利は一年で十五から二十パーセントまでです。しかしそれは貸金業の場合であって質屋は貸金業ではありません。上限金利はおよそ年利百九パーセント。この金利は問題ありません」

 ちなみに個人間も同様に百九パーセント。まあ上限金利を吹っかけてくるような相手から金を借りないほうがいいとは思うのだが。

 エルフの男性は言い負かされたことが屈辱なのか顔を真っ赤にしている。

「お、お前は、こんな小汚い男に金を払えと言うのか⁉」

 この言葉が多分彼の本音なのだろう。

 書類によると彼の弟が借りた金額は大金というわけではない。だがそれでも彼が金を払いたがらないのは下賤のものに自らの持ち物を分け与えたくないだけだ。

「これは勇者様が公布なさった法律に従うものです。あなた様は勇者様に異議を唱えるのですか?」

「偉大なる勇者様なら我々エルフのために身を砕いてくださるに違いない!」

「それを決めるのはあなたではありません」

 淡々と告げると火花を散らすように目線がかち合う。

 やがて彼はどこか、斜め上をちらりと見ると右手を大きく上げた。

 それが何なのかを理解するよりも先に私は押し倒された。そして何か、見えないほど速い何かが通り過ぎて行った気配があった。

 どさりと地面に投げ出された瞬間右肩あたりに鋭い痛みが走る。

「っ痛!」

 メイド服が破け、そこからジワリと赤い血が広がる。

「お姉さま⁉」

 私を押し倒したのは雫だ。いかなる方法なのか攻撃を察知して助けてくれたらしい。

 そして私を狙い、わずかに逸れた攻撃は……エルフの男性の胸を撃ちぬいていた。

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迷宮攻略企業シュメール 次回作です。時間があれば読んでみてください。中東のメソポタミアと呼ばれている地域で生まれた神話をモチーフにしています。
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