第四話 背理
「エルフがオークを裏切った……つまりエルフがほかに頼れる武力を見つけたということですか?」
「正しい推測です。その頼りになる武力も見当はついていますね?」
「はい。勇者様ですね」
「花丸です」
勇者に気に入られてからのエルフの行動は極めて単純だった。
権力を笠に着て表向きはにこやかに、裏では権力を網の目のように張り巡らせ、その権力によって贅を尽くしていた。
この出来事だけを考えてもエルフという種族の陰湿さがわかるだろう。
「と、言うことはやはりオークは反発したはずですよね」
「もちろん。ですが勇者様に勝てるはずもなく、さらに勇者様に歯向かった咎で激しい迫害にさらされ、都市部に生きる場所がなくなり、放浪生活を続けているようです。途中からオークの話になりましたがエルフという種族の特徴はわかりましたね?」
「はい。裏と表を使い分ける種族だということですね」
「そうなりますね」
あえて雫には説明しなかったが、エルフのオークに対する迫害は度が過ぎている。
謀略に長けている連中というのは勝ち過ぎないように気を付けていることが多い。
勝ち過ぎれば恨みを買い、悪目立ちする。だからほどほどに勝つのが理想なのだ。実際にエルフはオーク以外の異種族には飴と鞭を使い分けている。にもかかわらずオークに対しては不俱戴天の仇のように追い立てている。
つまりエルフはオークに対して何か爆弾を抱えていることになる。
……その爆弾にも心当たりはある。もっともただ爆発させただけでは意味がない。適切なタイミングを見定めなければならない。
そこでふと電話の呼び出し音が聞こえた。
「雫。夕食の準備を頼んでも構いませんか?」
「もちろんです」
すぐに電話鳥のもとに向かい、話し合う。
会話の内容を要約すると、私の担当していた案件でエルフを逮捕したらしい。ただエルフが専門家を呼べとわめいているとのこと。
……どことなく罠の匂いもするが、いかないわけにはいかなそうだった。
坊ちゃまといつものように遊びに来た菜月様に了解をとり、夕食もそこそこに雫を伴い席を立つ。
秋の日の夕暮れはどこの世界でも早くすぎていく。町を歩く人々もそれを察しているのか少し足早に帰路についている。
私は残念ながら仕事だ。他人が休もうとしているのに仕事に向かわなければならない足のなんと重いことか。
「それにしても雫はゆっくりしても構いませんでしたのに」
「お姉さまをおひとりにさせるわけにはいきません。それに少し嫌な予感がします」
現在のラルサで例外的なほど戦闘経験を積んだ雫の勘を馬鹿にするわけにはいかない。こういう予感というのは小さな違和感の積み重ねで脳に閃きをもたらしているのだろう。
私も、雫も、何かがおかしいと感じている。
それでも歩みを止めないのはリスクと同時にメリットをあると直感しているからだ。
町を歩いているとほどなくして小柄なエルフと二人の警官が押し問答している様子が目に入った。




