第四十八話 懇親
初雪の謝罪会見という名のラルサ史上初めての大規模裁判の十数日後。相談会が行われる運びとなった。
相談会の会場はラルサ各地に設けられた。
当初異京にて開催予定だったのだが、数が膨大であること、各地に参加者が分散していたことが理由である。さらになるべくひっそりと集まれる場所であってほしいという参加者側の要望もあった。
会場とはいえそれは十数人が固まって話し合いをする場である。第一回ということもあり、軽く話しあうだけで終わるつもりだった。
そのうちの一つの司会進行の立場にある黄ノ介・アテシンはそう考えていたし、当初はその通りだった。
彼にとって驚きだったのは誹謗中傷の加害者である参加者が、きわめて礼儀正しく、ごく普通の人々だったことだ。
粗野、あるいは無遠慮な人柄を想像していたが、むしろ逆で、丁寧で控えめだった。しかしこれならもう少し踏み込んだ話題をしてもいいかもしれない。そう思ってしまったのが運の尽きだった。
『この事件では誰に責任があると思いますか?』
予定されていた話題の一つを参加者たちに振ると様子が豹変した。
『私は何も悪いことをしていません』
誰かがそう言うと全員がそれに同意した。黄ノ介は耳を疑った。反省する気持ちがあるからこそここにきているのだと信じていたのだ。
『しかしあなた方は実際に誹謗中傷に加担したからこそここにいるのです』
そう黄ノ介が諭すように語ると反発し、なぜか議論は誰が悪いのか、という方向に流れ始めた。
そのうちの一人が見るからに小汚く、目つきの悪い男で、いかにも犯罪に加担しそうな風貌だったことが災いし、その男が迂遠ながらも責められる会話になってしまった。
最後は強引に黄ノ介が相談会を打ち切らなければならなくなってしまった。
こめかみを抑えながら椅子に深く腰掛ける黄ノ介は深いため息をつく。
「お疲れのようですね」
そこに現れたのはホムンクルスの法律家、小百合だった。
「そうだね。まさかここまで話が通じない……いや、通じなくなるような状態に豹変するとは思っていなかった」
「人間は誰しも二面性があります。あの方々はいささか極端ですが」
地球においても車を運転するとまるで人が変わったような口調になる人はたまにいる。職場と家庭内では人が違うということも珍しくない。特定の状況で人格が切り替わるのは珍しくないことなのだ。
特にネットのように匿名性や集団心理が働きやすい状況では。
「二面性か。あの人たちは、反省していないし、していたとしても上辺だけなのか」
「ええ。間違いありません。証拠もあります」
「証拠?」
「相談会の参加者の中に初雪様、あるいは警察への誹謗中傷を行っている人々が確認されました。もちろん、ここ数日以内の話です」
黄ノ介様は美麗な顔に冷汗をかいて驚いていた。
「あれだけの裁判があった後で? 懲りていないのか?」
「でしょうね。念のために言っておくと一人や二人ではありませんよ」
「……恐ろしいな。これではまるで薬物だ。一度ハマると抜け出せない」
黄ノ介様のたとえは適切だろう。もはや病気だ。一説にはネット依存症の人々の脳内は中毒症状によく似た状態になっているらしいが、今なら私も頷ける。
「だからこそこの相談会が必要なのですよ。自分のしでかしたことを自覚させるには上品に諭されるよりも毒虫同士咬み合わせておいたほうがよいでしょう」
これはどちらかというとDVなどのアフターケアで行われることがある、加害者同士で話し合わせるという手法だ。
この手の連中は自分の罪には鈍感なくせに他人の罪には異様に過敏だ。そこで話し合わせるとあら不思議。お互いに粗さがしを勝手にしてくれる。それを繰り返して自分もこれは悪いことなんじゃ……と思わせるのが狙いだ。
そして黄ノ介様は明言していない私の意図を察して皮肉気に笑った。
「その自覚させられる人間の中には私も含まれるのだね」
「ええ。極論すればあなたが菜月様にしてしまったことはあの方々と大差ありません」
黄ノ介様はかつて菜月様に対して公衆の面前で婚約破棄を押し付けた。一方的に人を貶めたという点で変わりない。面と向かってできる度胸があるだけましだが。
「ちなみにこれは私の独断で……」
「わかっている。菜月君のしたことではないだろう。彼女はそんなことをする人ではない。私と顔を合わそうともしていないところを見ると相当嫌われているようだね」
……うーん。絶妙にすれ違っていますね! あの方、いまだに黄ノ介様に未練がありそうですし、きっかけさえあれば復縁できそうな気配もある。
木村珊瑚様がいる時点でどうしようもないですが!
「少なくとも反省する心がある時点であなたは悪い道を歩んでいないと思いますよ」
フォローしたつもりだったのだが、黄ノ介様は傷ついたような顔をした。
「どうかしましたか?」
「いや、正直に言うとあまりにも反省していない彼らに比べられるのはかなり気が滅入るものだね……」
「自業自得ですね」
バッサリと一刀両断すると黄ノ介様はやれやれと肩をすくませた。そこで感情論で反発しないのなら多少は大人になったということなのだろう。




