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第三十六話 罪状

「ではまず誹謗中傷の被害にあった場合、成立するかもしれない罪状についてざっと説明しましょう。名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪、信用毀損罪、偽計業務妨害罪になります」

 初雪様はもちろん、カムラ様に雫も疑問符を頭の上に浮かべている。もちろんこんなことを言われても何を言っているのかわからないだろう。ざっくりまとめるとこうなる。

「つまり相手の悪口を言ったり、嘘のうわさを流したりすることですね」

「それ、やられた! 私やお父さんのことをすごく悪く言われたりしたもん!」

 鬼の首を取ったとばかりに喜ぶ初雪様だが、そうは問屋が卸さない。

 それを悟ったカムラ様が難しそうな顔つきで聞いてくる。

「そこからが難しいってことだよな」

「はい。やはりここで問題になるのは携帯テレビによる匿名性です」

「とくめーせー?」

 顔を合わせてのコミュニケーションが基本だったラルサではまだ匿名性というものについて詳しい人は少なく、それがどう法律的に問題になるのかきちんと説明できる人はより少ないだろう。

「相手が誰だがわからないことですよ」

「裁判には被告と原告が必要になるんだったか? そう説明されたな」

「おっしゃる通りです。相手がどこの誰か特定できなければ裁判のしようがありません。だからこそどの法律家も匙を投げたのです」

 再び初雪様の表情が真っ青になる。見ていて楽しい表情の移り変わりだ。

「しかしながら、私が前回の環境基本法のように携帯テレビを法の精霊に説明したところ、新たな法律が追加……いえ、発見されました」

「ってことはそいつを使えば万事解決か!?」

「……だったらよかったのですが……」

 実のところこういうトラブルが起きるのは予想できていた。

 地球でのネット黎明期の事件は詳しくないとはいえ、急速な技術の発展はひずみを生む。だからこそ可能な限り起こりうる事件に備え、調査をし、携帯テレビの開発者である花梨にも協力を仰いで事件が起こっても対応できるようにするつもりだった。

 しかし当たり前だが日本のネット関連の法律はコンピューターというものが存在する前提で作られている。

 魔法やら精霊なんか初めから想定されてない。

 よって法律の抜け穴や虫食いが存在するのはある種当然なのである。

「新しく発見された法律は情報管理者責任制限法と言います」

 おそらくだがプロバイダー関連の法律がそう名前を変更されているのだろう。インターネットというものを管理する業者であるプロバイダーなど存在しないためだ。

「ええっと……なんですかそれ」

「要するに情報交換の場で悪いことをした人を管理者が罰を与える権限ですね」

 地球ではネットが発展したため、いろんな人が意見を交換できるようになった。しかし悪質な客も増えてしまったため、明らかに悪質な顧客の要望を突っぱねてもいいですよ、というプロバイダー業者に向けた法律だ。

「話を聞くかぎりだと有効に使えそうな気がするんだが……」

「そうですね。問題はこの法律が偉大なる日本人様のために作られた法律であるという点です」

 この偉大なる日本人様という言葉にはいつまでたっても慣れない。そんなに偉ぶりたかったのだろうか。偉そうにしたがる奴ほど大したことないのが世の中だというのに。

「大事なことを説明しますよ。この法律は明らかに悪質な噂を流したり、暴言を吐いた人を罰する法律……ではありません」

「あ……もしかして……顧客ではなく、業者に罰を与える法律……?」

 呟いたのは雫だった。

「雫が正解です。これは悪質な客の情報を業者が開示したり、暴言を消したりしなければならない法律であって、誹謗中傷を行った人間を裁く法律ではありません」

「えっと、でも……」

 必死で頭を働かせている初雪様の言葉を待つ。こうして自分の頭で考えようとする力は彼女の美徳だ。

「じゃあ、業者さんに頼めばちゃんと処罰してくれるはずよね?」

 初雪様はこの法律トラブル最大の障害に言及した。

 日本では、情報開示請求を行うなどの方法があり、苦労はするだろうが時間と資金さえあれば不可能ではないのだ。

 だがラルサでは事情が違う。

「問題は……携帯テレビを管理している業者がいないことです」




 この話で出てくる誹謗中傷に関わりがある法律として侮辱罪やプロバイダ責任制限法(本作においては情報管理者責任制限法と記されています)があります。近年改正され、より厳罰化し、訴えを起こしやすくなりましたが、作中時間においては改正される以前の法律として扱うものとします。

 おそらく話の大筋は変わりませんのでご安心ください。


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迷宮攻略企業シュメール 次回作です。時間があれば読んでみてください。中東のメソポタミアと呼ばれている地域で生まれた神話をモチーフにしています。
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