第五十三話 帰郷
ようやく美馬土市での仕事を終え、ようやく帰郷できる運びとなった。わずかな間だったが異京の景色を見ると安心する。
休暇のつもりが修羅場と事務作業の連続だったのは一体何の因果だろうか。
(というか私……何かトラブルに巻き込まれるたびに死にかけてませんか?)
何が悲しくて法律家という社会的に見てもエリートでありながら命がけの戦いに身を投じなくてはならないのか。しかもこの法治国家で。人間ならもう少しましになったのだろうか。
慣れ親しんだ我が家もずいぶん懐かしい気がする。それともわずか数日の間に暑さを感じさせる空気になったからだろうか。
旅行から帰った寂寥感を少しばかり感じていると。
「おかえり! 久しぶりね!」
元気のいい菜月様の声がそれを吹き飛ばした。即座に頭を侍従モードに切り替える。
「はい。お久しぶりです。わざわざ帰宅を歓迎していただくとは光栄の極みです」
「ふふん。ありがたがりなさい。休みの間予定の大半がつぶれたせいでずっと暇だったからこっちに入り浸っていたなんてことは全然ないから感謝しなさいよね!」
思わず四人とも目を合わせる。それから菜月様に対して生暖かい視線を送った。嘘がつけない人だ。
「な、なによその目は。そ、それよりもあんた宛に手紙が来てるわよ」
「私ですか?」
「ええそう。はいこれ」
封蝋で閉じられた手紙を開ける。実に簡潔な文が添えられていた。
「楽曲の著作権について相談したい……?」
帰ってきて早々にトラブルの気配が漂っていた。
ここで第三章は終了となります。
第四章は年明けになる予定です。




