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第四十一話 密談

 まず私はロタム様に内密に会わなければならないと決意した。

 髪はかつら、目は眼鏡、服装は和服。非常に雑な変装で石切貿易会社にあっさりと侵入できた。

「そんな変装でよくここまでこれたな」

「人間は思い込みで行動する生き物ですから。私をホムンクルスの法律家だと認識しているからこそ気づきません」

「あえて特徴のある恰好や容姿を記憶させて変装に役立たせるか。詐欺師か盗賊の手口だな」

 おや。前職を的中させられたのは初めてですね。

 私に油断ない視線を向けるロタム様がまず切り込んできた。

「何の用だ? 文句の一つでも言いに来たか?」

「いいえ。そのようなことはしませんよ。私はお伝えしたいことがあっただけです」

「……密輸の方法が分かったのか?」

「ご明察です。親切なお方に教えていただきました」

「ほう。それはそれは。ぜひ礼を言わねばならんな」

「それには及びません。私がロタム様の代わりに返礼しておきましたので」

 ばちばちと見えざる火花が飛び散る。こういう雰囲気は嫌いじゃない。

「つきましては法律家としてお代を頂戴したく存じます」

「何かな? 私に支払えるようなものならいいのだが」

 そして私が要求を口にすると初めて顔を曇らせた。予想外の要求だったのだろう。明らかに私の意図を図りかねている。

「何を企んでいる?」

「もちろん、悪だくみです」

 隠す必要などないとばかりに断言するといばらのような視線が突き刺さった。

「いいだろう。条件を吞もう。しかし証拠はあるのか?」

「ありません。ですが実演なら可能です。ご協力いただきたいことがいくつかありますがよろしいですか」

「言ってみろ」

「はい。まず鉱山を一日休業させていただけませんか? これは目撃者を少なくするためです。そして河童という異種族をつれてきてください。もちろん、可能な限り信頼がおけるものを」

「……それだけか?」

「ええ。何よりもこの話が外に漏れないことこそが肝要です。法律家としては再発防止こそが重要ですので」

 暗に無視すると同じことが起こるかもしれないぞ、と釘をさしておく。

「わかった。なら、明日だ。明日、ここにこい。話は通しておく」

 無言で敬礼する。読み通り。ロタム様はおそらく内部犯の特定には成功している。だが、手口をまだ突き止めていない。そしてそれはほぼ不可能だ。

 さらに計画犯が帝国の残党だということまでたどり着けるかどうかは、時間と運次第だろう。そこから主犯を捕まえられるかは神のみぞ知る。幸か不幸かこれだけ町が混乱していれば証拠の隠滅は難しくないだろう。

 だから私の話は無視できない。




 石切を離れるとすぐに弟妹たちが入院している病院に直行する。

 三人とも命に別状はないと聞いているが直接顔を合わせておきたいのが人情だ。

「小百合。お仕事はどうだった?」

「順調でしたよ」

 一番軽傷だったのは当然坊ちゃまだ。それでも念のために病室で一日泊まることになった。どのみち大部屋を一つ借りたので値段的にも効率的にも大差はない。というか私もここに泊まるつもりだし。

「小百合お姉ちゃん。病院食って意外とおいしいんだね。薄味だったけど全部食べちゃった」

 花梨も外傷こそなかったものの、一時呼吸不全に陥っていたと説明し、やはり一日入院となった。

「食べることは健康の第一歩です。雫は? まだ寝ていますか?」

「いいえ。先ほど起きました」

 仕切りカーテンを開いて顔をのぞかせたのは雫だ。ちなみに病院も結構清潔で近代的な雰囲気がある。医者か看護師の転生者でもいたのだろうか。

「大丈夫ですか。あなたが一番重傷ですよ」

 雫のケガは致死性こそないものの、大小無数の擦り傷、打撲創、極めつけは顔面への打撃。あの可愛らしい顔に傷をつけるとは万死に値する蛮行だ。もう死んでますけどね、加害者。もうちょっと痛めつけておくべきでしたか。

「ご安心ください。まだ食欲はありませんが、体に不自由はありません」

 雫はちからこぶを作り、健在をアピールしていた。精神的にも肉体的にも多少弱っているだけにしか見えない。

「よかった。でも三人とも無理はしないように。私も少し連絡すべき相手がいますので、それさえ終わればここで休みます。花梨。塩湖の水は送れましたか?」

「ばっちり。運よく精霊が出る前に送ったよ」

「そうなると少しそこも検査を急がせなくてはいけませんか。ま、すぐすませるとしましょう」

 自分一人だけ夕食を食べていないというのはどうにも落ち着かない。所帯じみてきたのだろうか。

 そんなことを思いながら病室を去った。




「小百合……まだ忙しそうだね」

 来てすぐ去っていった自らの侍従を心配そうに見守っていた。

「でも今私たちができるのは体を休めることだけだよ藤太お兄ちゃん」

「そうなんだけどね……僕はけがなんてしてないのに二人は……」

「藤太様。私たちは無事です。だから心配なさらないでください」

 そう語る雫はまさにいつもの調子だ。それに、どこか違和感を覚えているのは花梨だけだった。どうも、今日少し縮めた距離がまた広がったような。

 ただ、それを口に出すことはしなかった。

「私はもう少し寝ます。お姉さまが戻ってきたら何か口にしますので起こしてくれますか?」

「はーい」

「うん。お休み、雫」

「はい。では失礼します」


 雫は仕切りカーテンを閉め、体全体を覆うように布団をかぶる。

 すると堰を切ったように体が震え始めた。

 そのまま一枚のくしゃくしゃになった紙片を、何度も何度も目を通した紙片をまた広げる。

 そこには自分自身の真実について書かれていた。

 曰く、自分は血を好む。血が嫌いなのではなく、むしろ逆。それを気づかないためになるべく血を遠ざけようとしていた、とのこと。

 間違いなく自分が書いた文字。しかし記憶にはない。つまり、精霊によって処断された誰かとかかわりのある記憶だったのだろう。

 だがそれを見た瞬間確かに理解した。

 これは正しいのだと。

 例えばぬいぐるみが好きなこと。あれはぬいぐるみが好きなのではなく、ぬいぐるみを作る、あるいは直すという行為がまるで生き物を解体しているかのように感じられたからだ。

 一種の代償行為のようなものなのだろう。そんな理由でぬいぐるみを収集しているホムンクルスは自分くらいだろう。

 何故こんな異常な、頭のおかしいものが産まれたのかはわからない。ただひとつわかっているのは。

(誰にも知られちゃいけない)

 彼女はホムンクルス。フラスコから生まれたまがい物。

 普通の人間なら異常な感性を持っていたとしても育ちなのか、生まれなのか、判断することは難しい。だが、雫はまだ生まれてから一年もたっていない。

 つまりもともとそんな生き物だったとしか言いようがない。だが、それでも誰かのせいにするならば、雫と最も長い時を過ごした誰かのせいにするしかない。

 それが誰なのかは考えるまでもなかった。

(絶対に、絶対にお姉さまにだけは知られたくない。嫌われたくない。あの人に責任を押し付けたくない)

 雫は泥沼のような眠りに落ちていった。

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迷宮攻略企業シュメール 次回作です。時間があれば読んでみてください。中東のメソポタミアと呼ばれている地域で生まれた神話をモチーフにしています。
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